第二次世界大戦の終結から80年を迎える2025年。台湾のドキュメンタリー映画『島から島へ(原題:由島至島)』が、金馬奨と台北映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞し、日本でも注目を集めている。上映は東京、名古屋、京都といった主要都市や、東京大学、京都大学などの教育機関でも行われ、学生や研究者からの反響も大きかった。
本作を監督したのは、マレーシア出身でシンガポールで学び、現在は中華民国籍を持つ廖克発氏。名古屋での座談会では、「戦争犯罪は決して後世に継承すべきものではない」としたうえで、「台湾の若者はこの歴史を忘れてはならない」と語った。
「私たちは被害者だった」では済まされない歴史
映画『島から島へ』は全編約290分。台湾出身の日本兵や医師、現地の台湾系住民に焦点を当て、彼らが第二次大戦中にマレー半島で行った華人粛清の実態を、証言や記録文献、現地調査を通じて浮かび上がらせる。監修には、国立政治大学の藍適齊副教授が歴史顧問として参加している。
廖監督は、過去の台湾映画や議論では、台湾人は常に「日本の被害者」として描かれてきたと指摘する。しかし、本作では「加害者であった可能性」にも目を向ける。歴史に対する個人の内省や責任を問うことで、これまで語られてこなかった一面を掘り起こす試みだ。
廖監督は「戦争責任を国家間の対立で語るべきではない」とも語る。「私たちは知らず知らずのうちに民族主義に影響されてきた」と述べ、戦争の記憶は一人ひとりの人間の問題として考えるべきだと訴えた。
彼にとって『島から島へ』は、国家や民族という枠組みを超えて、戦争と記憶のあり方に一石を投じる作品となっている。台湾出身の元日本兵という存在が浮き彫りにする「加害者の記憶」は、単なる過去ではなく、今を生きる私たちの問題として提示されている。

台湾人は戦争責任から逃れられるのか
廖監督は、第二次世界大戦当時の台湾人日本兵が加害行為について謝罪を避ける理由の一つとして、「日本人の多くが戦争犯罪を認めていないのに、なぜ台湾人だけが認める必要があるのか」という主張があると語る。これに対して監督は、「日本は本当にすべての面で加害者だったのか」と問いかけ、観客に再考を促している。日本国内にも戦争責任に対する多様な見解があることを強調する。
また、台湾人が「日本政府に強制されて兵士になった」といった説明に頼りがちである現状にも疑問を呈する。台湾人が純朴な民だったという言い訳に対し、監督は「日本の中間層・下層階級の人々もまた素朴な人々だったのではないか」と問いかける。
第二次世界大戦の終結から70〜80年が経ち、1990年代以降、この問題に対する議論は少しずつ積み重ねられてきたが、台湾社会はいまだ沈黙を続けていると監督は指摘する。この映画は、そうした「沈黙」に対する挑戦であり、日本兵だった台湾人だけに向けたものではないと語った。
