台風4号ダナスは台湾南部の嘉義と台南に甚大な被害をもたらし、発生から10日が経過した今も一部地域では停電や電話の不通が続いている。頼清徳総統が被災地を視察した際、住民から大手通信会社である「遠伝や台湾大の信号が届かない」と訴えが上がった。これに対し頼総統が「郭国文の(中華電信)は大丈夫」と答えたことが論争を呼んでいる。国家通訊伝播委員会(NCC)の統計では、今回の風害で1322基もの基地局が損壊。さらに基地局が依存する光ファイバーが台電の電柱に沿って設置されているため、電柱の倒壊で三大通信事業者のネットワークが一斉に中断し、中型台風で台湾のインフラの脆弱さが浮き彫りになった。
南部では同時に大規模なリコールをめぐり緊張が高まっており、頼総統の視察時の発言は野党からも強い批判を受けた。被災地の住民が「遠伝(ファーイーストーン・テレコム)と台湾大(台湾モバイル)の信号が届かない」と不満を述べると、頼総統は「郭国文の(中華電信)は大丈夫」と回答。その後、大統領府は報道を行ったTVBSを攻撃したが、TV局側は逐語記録を公開して反論している。
林俊憲氏が現地視察、修復加速を要請 この問題を受け、頼総統の側近である林俊憲立法委員は郭国文委員と共に台南市七股の頂山や西寮を視察し、現地で通信が依然中断している状況を確認したと述べた。中華電信だけが信号を維持できたのは、同社が地下化プロジェクトを進めていたためだという。一方、遠伝と台湾大の基地局は台電の電柱に沿って光ファイバーを敷設しており、電柱倒壊の影響で復旧が遅れている。林氏はその場で台湾大に車両派遣を要請し、「台湾大はすでに行動車を頂山に派遣し、現在台南地域に8台の衛星移動車を配置して臨時ネットワークを提供している」と報告した。
民進党の林俊憲立法委員は本日、七股頂山と西寮を訪れて被災状況を視察し、その場で台湾大哥大(台湾モバイル)に迅速な車両支援を要請しました。(写真/柯承惠撮影) 林氏によれば、「遠伝と台湾大の基地局は台電の電柱に掛かっている」というのは、基地局自体が架空に建っているという意味ではなく、後端の機器室とつなぐ光ファイバーが台電のケーブルとともに電柱に沿って配置されているということだ。今回の台風で電柱が倒壊したことにより、通信事業者の光ファイバー網も被害を受けたのが、10日経っても通信が回復しない主因とされる。中華電信は固定網に加え、マイクロ波通信などのバックアップ網を持っていたため被害が軽減されたとみられる。
被災地域が広く、One Web基站ではカバーしきれず 数位発展部の担当官によると、同部は電信インフラの柔軟性を高めるため、昨年末に三大電信事業者へそれぞれ10台の「One Web衛星通信移動基站」を提供した。今回の台風被害では各社がこれを災害地域に投入したものの、被災範囲が広大であるため、すべてをカバーするのは現実的に困難だった。そのため、一部地域では今も通信が途絶したままになっている。
担当官はさらに、台電の大規模停電によって基地局が動かなくなり、光ファイバー網も電柱とともに寸断されたため、One Web基站を搭載した通信車を派遣しても効果が限定的だと指摘した。
西南沿岸を襲った台風、強靭性インフラの現実 今回の台風が台湾を直撃したタイミングは、民進党政権が力を入れてきた「都市強靭性訓練」と重なった。中型に成長した台風4号ダナスは西部沿岸から上陸し、嘉義や台南の電力・通信インフラに深刻な被害を与えた。数位発展部内には「強靭性建設司」という部局があるが、その取り組みの脆さが今回の災害で露呈した形だ。
今回の台風が台湾を襲ったタイミングは、ちょうど都市のレジリエンス訓練の最中でした。(資料写真/張曜麟撮影) 通信ネットワークの強靭性への注目は、2009年のモラコット台風をきっかけに高まった。当時、最も被害が大きかった屏東県林辺では、風災による停電に備えて「高抗災基地局」が設置された経緯がある。
《公衆通信網基地局設置使用管理办法》では、一般の基地局(空地型鉄塔式基地局)は予備電源容量を4時間以上と定めているが、防災・救難機能を備えた「大型基地局」に指定されれば、72時間以上の予備電源が求められる。こうした「高抗災基地局」はUPS(無停電電源)を備え、もし南部の被災地に設置されていれば、風災後に外部交通が途絶しても少なくとも3日は通信サービスを維持できたとされる。その後も電力復旧が遅れても、電信会社が発電機用の燃料を搬入すれば通信は継続できる仕組みだ。
この南部の被災地に「高抗災基地局」が設置されていれば、風災発生後、少なくとも3日は通信サービスが保持できる。(資料写真、内務部提供) しかし「高抗災基地局」の設置は必ずしも順調ではない。中南部でも住民の反対があり、過去には屏東林辺の基地局が住民の抗議で撤去された例もある。背景には、これまで台風は東部から上陸することが多く、西部沿岸では通信が長期間途絶する経験が少なかったことがある。
加えて、通信事業者にとって光ファイバー網の地下化や高抗災基地局の建設は多額のコストを伴う。政府は事業者に対して義務付けておらず、NCC(国家通訊伝播委員会)の担当官も「補助がなければ進展は難しい」と強調する。実際、《公衆通信網基地局設置使用管理办法》には「基地局の予備電源設置に関する費用は主管機関が規定に基づき補助できる」と特例が設けられている。
誰が通信インフラ強靭化を担うのか、NCCと数位発展部で意見対立 報道によれば、NCC(国家通訊伝播委員会)と数位発展部が分離されて以降、通信インフラ強靭化の責任をどちらが担うべきかで見解が分かれている。数位発展部は「自らの役割は電信事業者への補助予算の編成にとどまり、実際の政策推進はNCCが担うべき」との立場を取っている。一方、NCCは「強靭性建設司」を設けている数位発展部こそ責任を果たすべきだと主張している。
通常、都市部では管溝の設置が比較的容易で、光ファイバーネットワークの大部分が地下化されている。しかし、偏遠地域では光ファイバーが水路や電柱に沿って設置されていることが多い。今回の台風では台電の電柱が大量に倒壊し、それに伴って通信事業者の光ファイバー網も多数損傷したとNCCは説明している。
通信インフラの強靭性構築に関して、責任を負うべき国家通訊伝播委員会(NCC)と数位発展部(デジタル発展部)の間で意見が一致していません。(資料写真/顏麟宇撮影) 担当官によれば、通信ネットワークの強靭化は電信事業者がコストと利益を踏まえて検討すべき課題だとされる。都市部では地下化が比較的容易だが、偏遠地域での地下化は事業者にとって大きな負担になるのが現状だ。
今回の風害を受け、台電では「電網強靭性建設計画」が再び議論されている。多くの電柱が倒壊したことから、与党支持層のネットユーザーは「野党が予算を削減したせいで、台電が電網地下化を進められなかった」と批判の声を上げている。
電力網の地下化と「高抗災基地局」 ただし、偏遠地域で電力網を地下化するには、電力網のみならず、ガス管、水道管、警察署の監視システム、交通信号など多くのネットワークを同時に地下化する必要があり、共同管溝の建設には莫大な資金が必要となる。関わる部門も多く、簡単に進められるものではない。
官僚は今回の風害で、数位発展部が全てのOne Web衛星通信移動基站を災害地域に派遣したと述べたものの、被災地域があまりに広範で、現状の基站だけでは完全なカバーは実現できていないと指摘。今後さらにOne Web衛星通信移動基站の調達を進めるとともに、通信事業者が「高抗災基地局」を増設し、非常時でも通信を維持できる体制づくりが急務だと訴えた。