台湾国軍の定例軍事演習「漢光41号」は7月9日に正式に始まり、「常態危機処理」(9~11日)、「備戦部署」(12日)、「聯合反登陸」(13日)、「浜海および海岸戦闘」(14日)、「縦深防御」(15~16日)、「持久作戦」(17~18日)の6段階に分けられ、7月18日にすべて終了した。合計で10日間9泊にわたる演習となった。
今回の演習は、これまでの5日間4泊から倍増し、演習科目も従来とは異なり、より実戦を意識した内容が盛り込まれたため、国内外のメディアの注目を集めている。
演習日数が倍増した理由
今年の実兵演習が10日間9泊となったのは、各級の指揮・参謀・部隊の官兵の体力と意志力を鍛えることに加え、緊急事態に備えて心理的な準備を整える狙いがある。また、日数を延ばすことで参謀本部がより多くの項目を演習・検証する時間を確保できる点も大きい。
近年、国軍は武器装備や部隊編成、分散型指揮管理、攻撃チェーン、防衛作戦計画などで大幅な調整が進められている。参謀本部はこれらの修正を実地で検証し、各級の指揮・参謀・部隊が早期に習熟することを求めている。
例えば、各級部隊における無人機の運用法や、中国無人機への対処規則・教範を編纂中であり、その初稿を今回の演習で試験的に運用し、迅速に完成させて各部隊へ配布する計画だ。
また、今年の段階ごとの日程をみると、従来重視されてきた「備戦部署」「聯合反登陸」「浜海および海岸戦闘」は1日ずつで従来通りだが、「常態危機処理」(中国軍のグレーゾーン妨害への対応)、「縦深防御」、「持久作戦」の日程は大幅に増え、従来の合計約1日から7日間へ拡大した。これは、国軍がこれら3段階への対応力を強化しようとしており、特に「常態危機処理」の一部シーンを「備戦部署」に拡張し、中国軍のグレーゾーン妨害対処が今年最も強調されたことを示している。
共軍のグレーゾーン妨害に対処するためなぜ3日間か
ここ3年、中国軍による台湾へのグレーゾーン妨害は常態化しており、国軍も慣れているはずだが、なぜ今年の演習でこれほど重視されたのか。
その理由は、平時のグレーゾーン妨害は圧力をかけて法戦を支援するのが主目的だが、漢光演習で想定した妨害は、動員準備や事前配備を隠し、国軍の判断を誤らせ、戦前配備を妨害し、挑発して国軍に先に攻撃させる狙いがあるからだ。平時とはまったく異なる意味を持つ。
計画内容が多く変更されたため、官兵が早急に対応できるよう、参謀本部は3日間をかけて修正内容と実行方法を徹底的に検証することを決めた。
国土防衛戦が演習の重点となる理由
「縦深防御」と「持久作戦」はどちらも国土防衛作戦に属する。
「縦深防御」では、中国軍の第一波地上攻撃部隊が台湾本島に上陸拠点を確保し、後続の増援部隊や物資が上陸して主要都市へ進軍する想定が立てられた。国軍は上陸拠点と攻撃目標地域の間の「縦深帯」―市街地外縁や衛星都市など―で中国軍を消耗させ、遮断し、撃退するために戦い、中・長距離火力で上陸拠点や増援船団を継続的に攻撃する。
「持久作戦」では、中国軍が「縦深帯」を突破し主要都市への攻撃を開始する状況を仮想している。国軍はこれに対抗し、戦闘が市街地に及んだ場合には地方政府が民間人の安全確保や基本的な生活維持の責任を負うことになる。
今年、この二段階の演習時間が大幅に増えた背景には、中国軍の海空戦力の急速な発展があり、「聯合上陸作戦」が進化する中で「上陸地点で撃退できなかった場合」への備えを強化する必要があると参謀本部が認識したことがある。
そのため参謀本部は「分散型指揮管理」を強調し、各部隊が上級の命令や支援を得られない状況でも、任務に基づいて自ら計画を立て、迅速に行動を起こせるよう要請している。近年は台湾や澎湖の防衛作戦計画を修正し、海岸警備歩兵旅、縦深帯後方歩兵旅、打撃部隊合同旅などの待機位置、戦術位置、弾薬・物資の配置、敵と接触した際の行動を大きく見直している。
修正項目が多く、昨年の漢光演習では台風で多くの検証ができなかったため、今年は期間を延ばしてより多くの検証を行い、次の修正の根拠とすることを決定した。
国軍の優れたパフォーマンス
7月16日までに、国軍は前の5段階を終え、次の点で高く評価された。
まず、シナリオ設定がより合理的になった。7月14日未明に行われた憲兵の台北メトロでの演習では、従来の「テロリストが駅を占拠し人質を取る」という想定を改め、メトロ・台鉄・高鉄といった地下交通施設を利用した作戦任務に変更。実際に起こりうる戦時状況に近づけた。戦時にメトロが停電で使えない可能性はあるが、軌道上を移動する輸送手段を開発すれば有効性は残ると見られる。
次に、演習内容がより実戦に近づいた。7月15日未明の台北市万板橋での「橋梁防備および拠点集団作戦」では、これまでの象徴的な演技ではなく橋全体を封鎖して実戦計画を再現。実際の任務への習熟と現行計画の欠陥把握が進んだ。
また、7月15日朝の八里地区で行われた「269旅団連兵2営の縦深防御」では、無人機で海岸線を突破した中国軍を監視し、前哨・第一線・第二線・主要防御線に部隊を配置。交戦後は「交戦しつつ後退する」手法で主要防御線に戻り、火力で消耗させ「ポケット内」に誘導し、四方から集中攻撃を行う戦術を採った。従来の「国旗を振って前進する」ような劇的な場面とは一線を画す現実的な内容だった。
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さらに、官兵の動作も際立った。7月14日未明のメトロ善導寺駅・龍山寺駅での演習では、蒸し暑い気候の中でもマスクを着用し、ライフルや機銃、紅隼ロケット弾、ジャベリン、スティンガーなどを携行。指示に従って休みなく動き、隊形を維持し、各角で自発的に銃を構えた。見えにくい出入口でも緊張感を保ち、真剣に取り組む姿勢が印象的だった。
八里での「269旅団連兵2営縦深防御」でも、官兵は雲豹装甲車に乗り込む際に仲間をカバーし合い、36度の暑さでも正確な手順を維持。7月11日の206旅旅の臨戦訓練では、教育召集兵が到着5日後に大雨の中で演習を行い、雨の中での任務批評もこなし、6日前は市民だった人員が軍人としての集中力を見せた。
さらなる改善が必要な点
今年の実兵演習が、昨年よりも「実戦化訓練」の要件を満たしているが、なお改良の余地がある:
第一に、中国軍が「聯合上陸作戦」を変化させる中で、第一波の主力が空から進入する可能性があり、「浜海および海岸戦闘」と「縦深防御」の境界が曖昧になる恐れがある。
第二に、地上部隊全体で無人機の活用がまだ少なく、中国軍無人機への対応も限定的であり、軍用無人機の大量配備と関連規則の整備を進め、次年度以降の演習重点とすべきだ。
第三に、台北市へ通じる地下トンネル(台鉄・高鉄・メトロ)の軍事利用と、敵に利用させないための対策を検討する必要がある。
第四に、地下メトロ駅を「民間避難施設」として扱う場合、兵力や物資輸送の拠点となれば攻撃対象となりかねないため、どのように均衡を取るかを明確にする必要がある。
第五に、各段階の演習後に国防部が戦時情報発信を模擬し、国民やメディアへ状況を説明することも検討されるべきだ。
最後に、国安上層部は毎年の漢光演習中に特定テーマで政軍兵推を行うことを考えるべきだ。例えば、ジェネラルモビリゼーション命令や緊急命令の発出時期である。軍の演習ではこれらが自動的に進行するが、現実では経済的負担などで決断が遅れ、最適な動員のタイミングを逃す恐れがある。