2日間にわたって実施された「台湾海峡防衛机上演習」(Taiwan Defense TTX)は、11日に幕を閉じた。しかし、中国共産党側チームが提示した上陸作戦の構想は、いまもなお軍事関係者の間で激しい議論を呼んでいる。退役した軍上層部の一部は、同案を「戦略的誤認」および「戦術的誤認」と厳しく批判する長文の意見書を発表した。
一方、演習に参加した匿名の関係者は、《風傳媒》の取材に対し、「現在、多くの人が抱く台湾海峡での戦争のイメージは、客観的な事実ではなく主観的な認識に基づいている」と指摘する。さらに、招待を受けて出席したある軍事専門家も、演習の最終段階で結果についてはっきりとした結論が出せなかったことに言及し、「米台双方が前提としている非対称戦の構想に立脚しているとはいえ、最大の致命的な問題は、現実との乖離にある」と語った。
中国軍の東部上陸に議論が、安徽艦登場後は批判が減少
机上演習の期間中、中国共産党側が提示した「台湾東部への上陸」構想が伝えられ、大きな驚きをもって受け止められた。退役将軍の呉斯懷氏はメディアに対し、「解放軍が東部から上陸することには意味がない」と語っている。演習終了後には、退役軍高官が報告書を提出し、中国側の東部上陸構想を今回の兵推における「中国軍の致命的な誤り」と断じ、これが「戦略的誤判断」と「戦術的制約」という二重の失策にあたると痛烈に批判した。
この匿名報告書では、台湾東部の地形的制約や縦深のなさを理由に、上陸してもすぐ包囲され、西部の戦略要地への兵力移動は困難になると分析している。仮に第一波の奇襲上陸に成功したとしても、第二波の増援は持続できず、「上陸すれば即壊滅」という戦略的窮地に陥ると警鐘を鳴らした。報告書の筆者は、中国軍側が東部を「防衛の弱点」と見誤り、「天然の障壁」としての本質を見落としたと批判。さらに、東部上陸では戦略目標が達成できないうえ、台湾軍が花蓮・台東地域に多層的な防衛網とセンサー網をすでに構築している点も過小評価されていると指摘した。
軍関係者によれば、台湾軍の上層部は当初より、台海戦争が勃発した場合、中国側はまず澎湖を制圧し、次に西部への上陸を試みると予想していたという。この見方は、前述の匿名報告とも一致しており、台湾海峡有事に関する多くの人々の共通認識を反映しているといえる。ただし、ある参加者は《風傳媒》の取材に対し、解放軍による東部上陸案は「西を示して東を突く」という奇襲の一環だと説明。2024年10月初旬にこの案を提出した際には、中国側の参加者から不満の声も上がっていたが、2025年2月に解放軍の075型強襲揚陸艦「安徽艦」が台湾東方海域で演習を実施した後、内部の異論は急速に鎮まったと明かした。
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今年2月に解放軍075型両用攻撃艦が台湾本島東約250キロメートルで活動した。(資料映像/微博より)
解放軍が二方向から包囲、四周封鎖で台湾は無抵抗降伏か?
演習に参加した関係者は、台湾東部への上陸は従来の認識を覆す「奇襲」であると強調する。一般的には、台湾東部は岩が多く、上陸が困難で、補給や部隊展開が難しい上、地形によって行動が制限されるというイメージが根強い。しかし、こうした「固定観念」の裏には、台湾軍の東部戦力が極めて手薄であるという現実が見落とされている。花東地域の台湾軍は、戦車1個大隊、機械化歩兵3個大隊、新兵訓練用歩兵1個大隊の計4部隊、兵力は3千人に満たず、解放軍にとっては「牛刀をもって鶏を割く」ような状況だという。
確かに東部は険しい海岸が多いが、花蓮港南側、台東・知本の海岸、恒春半島など一部地域には、解放軍の上陸可能な浜辺が存在すると指摘されている。また、港湾施設を持つ蘇澳や花蓮港については、台湾軍が先手を打って「港湾封鎖・破壊計画」を実行すれば、敵の接収を阻止できるとされる。しかし、同関係者は、解放軍がすでに「特殊上陸用バージ(はしけ)」を開発しており、桟橋を必要としない荷揚げ作戦が可能であると述べた。さらに、台湾軍が本当に蘇澳や花蓮港の使用不能化を想定した準備をしているかは疑問だと語った。
同関係者は、東部上陸の狙いは台湾軍の後方連絡線を断ち、東西の交通動脈を破壊することで戦力の機動を妨げることにあると説明する。この構想は、かつての中国内戦で行われた長春包囲戦を手本にしており、西部へのさらなる進軍は想定していない。台湾軍の防衛計画と体系を根本から崩壊させ、解放軍が花東の空港や港湾を占拠すれば、米国や日本は軍事介入に躊躇する、あるいは行動不能になる可能性があるという。
この構想の本当の戦略的目標は、台湾東部を制圧し、すでに確保した澎湖諸島と連動させて台湾西部を東西両面から包囲・封鎖することにある。こうして台湾全域を囲い込めば、西部は食糧、水、電力、ガス、通信、インターネットのいずれも遮断され、「都市戦」ではなく「飢餓戦」で降伏を迫ることが可能になる。「戦わずして降伏させる」あるいは「戦って降伏を強いる」形で、目標を達成できるというわけだ。
関係者はまた、自身が提出した中国軍側の作戦案は、台湾軍および台湾世論が抱く「台海戦争」への盲点を突くものだと明かす。台湾では「中国が攻めてくるなら、どうやって撃退するか」ばかりが語られるが、「戦いを避けること」や「台湾を守り抜くこと」が本来の最優先事項であるべきだと主張した。中国側が目指すのは台湾の「破壊」ではなく「回収」であり、この視点の違いが台湾社会では理解されにくいと嘆いた。
なお、今回の机上演習では「台湾本島への上陸」が基本想定であったため、参加者としてはそれに沿った案を立案せざるを得なかった。しかし、彼自身の見解としては、「台湾問題の解決」は台湾海峡の両岸ではなく、むしろ太平洋の両岸、すなわち米中間の力関係の変化にかかっていると述べた。もし中国がアメリカを第二列島線(第2列島線)から押し出すことに成功すれば、台湾だけでなく日本や韓国も中国を「大国」として再認識せざるを得なくなるという。言い換えれば、中国は台湾に対して武力を行使せずとも、統一を実現することが可能だというのである。
最後に彼は、「こうした“本音”を語れば台湾ではすぐに『親中派』『裏切り者』とレッテルを貼られる。だからこそ、多くの識者が沈黙を守り、台湾独立を絶対視する“道徳的正義”に縛られたまま、共倒れの道を歩んでいる」と厳しく語った。

「2025台海防衛兵推」に招待参加した米国退役上将(デニス・ブレア)は2006年に米国太平洋司令部司令官を退任し、2010年に米国国家情報長官を退任した。(柯承惠撮影)
台海戦争は6分で終結?台湾の致命傷は現実離れ
台湾民間で過去最大規模とされる今回の机上演習だが、その結果については国際記者会見の場でも明確な説明はなかった。傍聴していたある軍事専門家は、「実際には中国軍が勝利したのだろう」と推測し、米国や台湾側が期待していた「非対称戦略」が通用しなかったため、結果の発表を控えたのではないかと述べた。
この専門家は、今回の演習で最も浮き彫りになったのは、台湾が「敵を過小評価しすぎている」ことだと強調。主催側が招いた2名の米国退役将軍も、いずれも2010年以前に退役しており、現在の中国人民解放軍の装備進展や、疲弊しつつある米軍の実情について、十分な理解を持ち合わせていないと批判した。日本から参加した退役将軍についても、「我々は日米安全保障条約に従い、米軍を最大限支援する」との発言にとどまり、日本の軍人らしい「命令重視」の姿勢を見せたにすぎないと述べた。
この軍事専門家によれば、今回の兵推は、民進党政権が想定する「人民全面抗戦」の構図をなぞったものだという。すなわち、解放軍が台湾本島に上陸した後、正規軍、予備部隊、民兵組織「黒熊部隊」、警察など、あらゆる国民が都市や住宅ごとに戦うという構想である。しかし彼はこの構想を「現実離れしている」と断じた。なぜなら、解放軍は5年ごとに戦術を更新しており、2027年の「建軍100周年」に向けて軍の現代化が完了する一方で、米軍はすでに疲弊しきっている可能性があるからだという。
彼はさらに、世界を驚かせた最近のインド・パキスタン空中戦を引き合いに出し、パキスタンが中国の支援を受けた体系的戦術で注目を集めた一方、解放軍の作戦能力はパキスタンよりも10年以上先を行っていると指摘した。
「台湾海峡での戦争は、始まれば6分で終わる」と彼は語った。制空権、制海権、地上制圧、情報支配といった要素が一気に奪われ、6分後に窓の外を見れば「状況は一変している」という。戦争の要となる「政治的斬首作戦(指導部の制圧)」も、今回の机上演習では考慮されていなかったという。
さらに重要なのは「台湾の民意」だとし、たとえばネット有名人の陳之漢(通称:館長)が中国を訪問しただけでも、その影響力は極めて大きかったと述べた。台湾の民主主義がすでに堕落し、政治が「両岸の敵対構図」を無理やり作り出していると彼は批判する。
「台湾の人々が真実をもっと知るべきだ。そうすれば、本当に戦争が起きたときでも、被害を最小限に抑えられる」と、彼は語気を強めて語った。