中国侵攻に「ノープラン」?米日との防衛演習で台湾チームが直面した課題

2025-06-12 15:40
台北政経学院基金会平和と安全研究センターが米日台の著名な将軍を招いて開催した大規模な机上演習で、台湾チームのパフォーマンスは芳しくなかった。(写真/柯承惠撮影)
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2日間にわたって行われた「台湾海峡防衛机上演習」が、2025年6月11日に幕を閉じた。これは米国、日本、台湾の軍関係者が集結する過去最大規模の民間演習で、軍事関係者にも大きなインパクトを与えたと言える。

世間の注目は主に米国や日本のチームに集まりがちだったが、実は台湾チームの動きが一番リアルで、最も起こりうる現実的なシナリオを示したとも言える。これまでの漢光演習では、国軍が常に圧勝するケースが目立っていたが、今回の机上演習では台湾側が次々と難題を突きつけられ、対応に窮する場面が多く見られた。最終的には米日両国の支援を受けて、台湾チームは中国に対し「困難な勝利」を収めるかたちとなり、従来の演習とは異なる結末となった。

この演習は、台北政経学院基金会、平和と安全センター、中華戦略兵棋研究協会が主催。指導組、管制組、中国組、台湾組、米国組、日本組に分かれ、それぞれに主推官が配置されていた。マイケル・マレン氏(元米統合参謀本部議長)やデニス・ブレア氏(元米太平洋軍司令官)、岩崎茂氏(元自衛隊統合幕僚長)、武居智久氏(元海上幕僚長)ら錚々たる顔ぶれが参加していた。

20250611-前参謀総長李喜明11 日出席台北政経学院基金会「2025台海防衛兵推」国際記者会見。(柯承惠撮影)
前参謀総長の李喜明氏(写真)による台湾チームへの難題。(写真/柯承惠撮影)

中共の台湾侵攻に対策なし 台湾チームが再考を命じられる事態

台湾チームに立ちはだかったのは、「大魔王」とも呼ばれる管制組の指導者。演習は「威嚇」「脅迫」「懲罰」「侵攻」の4段階に分かれており、初日から中共の艦艇が台湾の12海里内に進入する事態が提示された。台湾の国防部は2022年11月に、領空や領海への侵入は「第一撃」とみなし、必要があれば撃墜する方針を明言していた。

だが今回、台湾チームは「衝突回避」を優先し、監視強化にとどめた。空軍は偵察巡航を続けつつ移動を完了、ミサイル部隊も発射準備は整えていたが実行には至らず。情報面では米国など友好国との連携を深めつつ、「先に撃たない」姿勢を貫いた。

しかしこの対応は、「侵入を許す」判断とも取られかねない。これに対し管制組は「主権と衝突、どちらを優先するのか」と問い詰めたが、台湾チームは「台湾に戦争責任を背負わせない」と、しばらく沈黙ののちに答えるしかなかった。

さらに問題は続く。第三段階で戦闘状態に突入した際、米日両国は軍の展開を進めたが、台湾チームは明確な対応を示せず。米国チームから東沙諸島の再奪還について問われても、台湾側は「否」と回答し、米日チームを困惑させた。これに業を煮やした管制組は「もはや机上演習の目的が達成できない」と判断し、演習を一時中断。「夜のうちにしっかり考え、翌朝再度回答せよ」と台湾チームに「宿題」を課した。

最も印象的だったのは、台湾チームが「返品」を言い渡され、やり直しを命じられたこと。多くの参加者にとって、それは台湾が抱える課題の根深さを示す瞬間だった。 (関連記事: 米・日・台が「台湾海峡防衛机上演習」 中国軍侵攻を想定、台湾が反撃に転じる! 関連記事をもっと読む

20250610-前米軍太平洋司令官ブレア(左三)、前米国参謀本部議長マイケル・マレン、台北政経学院董事長黄煌雄、日本前統合幕僚長岩崎茂、前海上幕僚長武居智久、10日出席台海防衛兵推。
台海防衛机上演習初日の台湾チームの実施状況に対し、管制組が「問題の所在が明確にできない」と判断し、「一時中断」を発表。台湾チームに再考を求めた。(写真/顔麟宇撮影)

台湾チームに厳しい教義? 李喜明「机上演習で負けても実際に負けない」

今回の机上演習で「黒幕」的存在だったのが、台湾の元参謀総長・李喜明氏と、彼の恩師である元米国太平洋軍司令官デニス・ブレア氏。このふたりが管制組の中心を担った。李氏は、台湾チームの消極的な対応を容赦なく突き、次々と難題を出し続けた。現場では「台湾チームの本当の敵は中共じゃなくて李喜明かもね」と冗談交じりの声も飛び交ったほどだ。