評論:「台湾人」の身分は国家によって取り消されるのか?

2025-06-10 17:50
陸委員会は、台湾人教師の張立齊氏の「定居証」が失効していても、「違法事実」には影響しないと主張している。写真は邱垂正陸委会主委。(写真/顔麟宇撮影)
陸委員会は、台湾人教師の張立齊氏の「定居証」が失効していても、「違法事実」には影響しないと主張している。写真は邱垂正陸委会主委。(写真/顔麟宇撮影)
目次

もし大陸委員会(陸委会)が強硬な態度を取らなかったら、張立齊氏の名前が世に出ることはなかったかもしれない。他の多くの中国籍配偶者と同様、彼も「中国籍放棄証明書」を期限内に提出する必要があった。そのなかで、張氏が「台湾人の身分を取り消される」という処分を受けたことで、この一件はまるで両岸関係の風向計のように注目を集めた。

今や台湾と中国は、たった一杯の水を汲める程度の距離にありながら、その間に越えがたい壁がある。政府にとって、こうした処分は「冷えきった両岸関係」を統制するための行政措置かもしれない。しかし、あまりに短絡的な対応は、国民の権利を守るべき政府のイメージを損ねるばかりか、両岸の緊張緩和にも寄与しない。

中国籍取得で台湾籍取り消しは張氏が初めてではない

張氏は、中国でキャリアを築いた台湾の若者だ。北京で博士号を取り、厦門の華僑大学で教鞭を執っている。こうした経歴自体は特別じゃなく、少なくとも20年以上前から、中国で教職に就く人は珍しくない。彼が特別だったのは、「祖国への憧れ」を隠さず、新時代の中国特色社会主義建設に参加し、「心から中国共産党に入りたい」と願っていた点だ。彼は昨年、高らかに「定居証」を取得したことを公表し、これが陸委員会が張氏の「台湾身分」を取り消す裁定を下すきっかけになった。これには戸籍とパスポートが含まれ、今後、彼が台湾に戻るには「中国大陸の人として台湾訪問を申請する」手続きを踏まなければならない。

張氏は特異ではあるけれど、彼だけではない。上海在住台湾人連誼会会長の盧麗安氏も、1997年に夫と共に中国に進出し、身分を取得、共産党にも入党した。2017年には、第19回党大会に出席した「台湾代表」の一人となり、この年、彼女も台湾の身分を取り消された。政府の統計によると、2004年から2019年までに、少なくとも700人以上が中国の身分を取得したため、台湾の戸籍を取り消されている。

一方、張氏の主張によれば、彼が取得した「定居証」は既に昨年6月には失効しているという。もし彼の言い分が正しければ、「定居証」取得後に一定期間内で「常住戸口登録」や「居民身分証」を申請していないはずだ。盧氏とは異なり、党代表に就任したり、中華人民共和国のパスポートを取得したわけでもない。現時点では、台湾で台湾の身分を失い、中国で中国の身分を得たかどうかも分からない状態にある。ある意味では、国から見放され、「台湾人としての身分」を消された彼が、必死に「中国人としての身分」を求めるしかない状況に置かれている。大多数の台湾人は彼の状況に同情しないだろうが、それが彼の選択だからだ。ここで問われるべきは、国が彼に別の選択肢や弁明の機会を与えたかどうかだろう。 (関連記事: 「国籍が消えた」台湾出身の教師、身分抹消の理由に異議 証拠の開示を要求 関連記事をもっと読む

台籍教師張立齊因持有大陸定居證遭註銷台灣身分,他表示早在去年六月定居証就失效了。(取自「台灣張立齊」今日頭條頻道)
台湾人教師の張立齊氏は、中国大陸の定居証(居住許可証)を所持していたため台湾の身分を抹消されたが、本人は昨年6月にはすでに定居証が無効になっていたと主張している。(「台湾張立齊」今日頭条チャンネルより)

​湾は、誰もが認める人権国家であり、「国籍」は基本的人権だ。国民は国の構成要素であり、国民がいてこその国だ。原則として、国は国民の身分を取り消すことはできない。国民が自ら申請して放棄する場合を除き、たとえ戸籍が消されても国籍を失うことはない。国籍法によれば、国民が「自ら放棄」できるのは、外国籍の養父母や配偶者がいる場合、または自発的に外国籍を取得した場合に限られる。犯罪を犯して公権を剥奪されても、国籍を失うことはない。「国籍の取り消し」に関する規定は、移民や帰化者を対象にしており、犯罪や国籍取得手続きが違法だと裁判所で確定した場合(例えば偽装結婚や偽装養子縁組)に限られている。この場合、内政部は審査会を開き、当事者に意見を述べる機会を与えなければならない。要するに、自発的な放棄や特定の法定取り消し条件を満たさない限り、国はその国民の身分を一方的に奪うことはできない。

最新ニュース
「フジロック2025」メインステージ出演者決定 多彩なプログラム&新企画で過去最大規模に!
USJが今年も本気!2025年秋「ハロウィーン・イベント」開催決定 史上最大規模の恐怖演出&新アトラクションも
日米台、初の民間主導「台湾海峡防衛机上演習」実施 2030年の中国侵攻を想定し4段階で国軍戦略を検証
ローソン、海外店舗を5,000店新設へ 2031年度までに中国・東南アジアで拡大加速
日米が拡大抑止協議を実施 英海軍は北朝鮮「瀬取り」監視活動を継続
台湾・市政監視か圧力か──台北市議・簡舒培氏に情報請求の集中疑惑 2ヶ月で481件、適正性に疑問の声
密かに突破!中国空母遼寧号が第二列島線越え 退役将軍『日本は騙された』と指摘
台湾・新竹県産の白米、対日輸出が倍増 香りと品質で日本スーパーで人気拡大中
9兆ドルの時限爆弾──米国債が揺らす世界秩序、台湾は支える側か、見切る側か?
上棟式典!巴克禮PARKが台南に進出 隈研吾が国際建築の頂点を示す
トランプ氏がシリコンバレーに再接近!マスク氏に代わる「新たな協力者」は誰?
中国共産軍の台湾侵攻三段階シナリオが露見? 葉忠が警告:米軍が介入放棄の可能性
マスク氏「宇宙船退役」発言でNASA震撼 米政府、SpaceX依存からの脱却を模索
強制的移民追放による抗議活動、トランプがロサンゼルスに州兵派遣! ニューサム知事の警告:派兵は緊張激化に
中国、硫黄島周辺に空母2隻を同時展開 戦役級の遠洋合同演習を初実施か
大阪・関西万博》ビビアン・スー氏、ディーン・フジオカ氏が登壇 TECH WORLD パビリオンでスペシャルイベント
米中、ロンドンで新たな通商協議へ 焦点は半導体・レアアース・留学生ビザ制限
トランプ氏、対中半導体規制緩和を検討 レアアース輸出と「バーター交渉」本格化?
大阪・関西万博》イタリア館で『Sakura』世界初上映 『Winx Club』日本初イベントも開催
【独占】朱立倫氏に党内から「反旗」 国民党主席選の延期巡り内部対立激化か
ワコム、「Cintiq」シリーズ新モデル発表 Pro Pen 3搭載で今夏発売へ
ロサンゼルスで抗議激化 煙幕弾と催涙弾が飛び交う中、トランプ氏が州兵派遣を命令
中国空母「遼寧」、日本最東端EEZに初進入 第二列島線を突破、東京は警戒強化
「軍の中に敵がいる」 台湾で広がる不信、中国スパイ事件が過去最多に
日米関税交渉 赤澤経済再生相が訪米 関税再検討を米財務・商務長官に強く要請
「国籍が消えた」台湾出身の教師、身分抹消の理由に異議 証拠の開示を要求
【追悼】松井秀喜「今度は私が監督を逃がしません」──恩師・長嶋茂雄さんに捧げた渾身の弔辞、全文再録
笑顔の裏で剣を構える中露──ロシア機密文書が暴いた「友好」の仮面
台湾人女性、スカイツリーの台湾祭勤務中に「社長に尻を掴まれた」LINEで抗議も否定され、警察も対応せず
台湾・リコールと選挙で大混乱 党内分裂の国民党、弁護費だけで1億円?
中国の台湾封鎖で「即降伏」は誤解?台湾専門家が指摘する「士気」と「備蓄」の現実
東京レインボーパレード盛大に開幕!台湾、5度目の参加で平等の声援
台湾・大リコール最終戦!民進党が「機密命令」発令 陸空一体となって10名の国民党議員を攻撃
マグロがつなぐ日台友好交流 静岡・屏東の地域連携が深化へ
台米日9人の上将、8人の中将が集結!台北政経学院が軍事背景を持つ最高層級「台湾防衛演習」を実施
台湾に今年初の台風接近か 「ウーティップ」発生の可能性、最速で来週水曜夜に接近?
山下一仁氏、「減反政策の廃止が日本と世界の食料安全保障を支える鍵」
台湾出身195cmルーキー、林冠臣選手 西武入りで夢のプロ舞台へ
スポーツから介護まで。筑波大発AIベンチャーが切り拓く「動作解析」の未来
大塚明夫さんのナレーションで巡る、アニメ東京ステーションの魅力とは?
世界中のアニメが池袋に集結!TAAF2026、来年3月開催決定
マスク氏の怒り爆発!トランプ氏との決裂「巨額支援の裏切られた約束」
東京で見つけた自分らしさ──明太子さん、13年半の模索と成長の記録
小田急ホテルセンチュリーサザンタワー 初夏の味覚を彩る新メニュー登場
AIも半導体も!頼清徳氏が明かす「新時代の日台パートナーシップ」
日本など9カ国・地域が米の為替監視リストに 通貨政策と経常黒字を注視
「国産より安いのに美味い!」台湾米が日本のスーパーで品切れ続出
海上保安庁長官、シャングリラ・ダイアローグで初スピーチ 「法の支配」を強調
デンソー、豊田自動織機株式の売却および自己株式の公開買付事前通知を発表
日本への情熱と清酒への探求——台湾のKOLが全てを捨てて再出発