ロシアのウクライナ侵攻、気候変動、そして世界的な人口増加を背景に、世界の食料供給をめぐる不安定性が増す中、輸入依存の高い日本の食料安全保障が改めて問われている。公益財団法人フォーリンプレスセンターが6月3日に主催した記者会見では、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹が登壇。「日本の食料安全保障」をテーマに、米価高騰の背景と日本農政の根本的課題を明らかにし、抜本的な政策転換の必要性を訴えた。

世界的リスク高まる中、日本の食料安全保障に注目集まる
講演冒頭、山下氏は「世界の米の生産は1961年から現在までで3.5倍に拡大したが、日本の米生産は4割も減少している」と指摘した。その減少は自然な市場変化ではなく、政府による補助金付きの減反政策が意図的に推し進めてきた結果であるとし、「構造的な供給制限」が日本農業の脆弱性を招いたと批判した。
特に2024年に発生した米不足について、氏は「2023年産米は本来2023年10月から2024年9月まで消費されるべきものだったが、8〜9月時点ですでに40万トンが不足し、翌年度の備蓄を前倒しで消費してしまった」と述べた。しかし、農林水産省は米の不足を認めず、備蓄米を放出しなかったという。
その背景には、2021年産米の価格が暴落したことを受け、さらなる減産を促して価格を引き上げた政策の影響があると説明。実際、21年産米の価格が12,804円だったのに対し、23年には15,306円にまで上昇していたと数字を挙げた。「このような状況で備蓄米を放出すれば、せっかく上げた米価が下がってしまう。だから不足していないと言い張ったのだ」と、政府の姿勢を批判した。

米価の高騰が続く中でも、JA(全国農業協同組合連合会)は農家に高値を提示しており、「供給量をコントロールすることで価格の維持が可能」との見方を示した。山下氏は、JAが意図的に供給量を抑制する構造を維持していると述べ、「根本的な原因は減反政策の存続にある」と断言した。
現在、国内の米の生産可能量は1000万トンに及ぶが、消費量は700万トン程度であり、輸出が300万トンに達すれば理論上は自給が成り立つと説明。加えて「国内が40万トン不足しても、輸出量を一部調整すれば、今回のような問題は起きなかった」と語った。
価格を下げるための選択肢としては、関税ゼロの輸入枠を現在の10万トンから20〜30万トンに拡大すること、あるいは1キログラム341円の関税自体を引き下げることが必要だと述べた。また「減反政策を廃止すれば、生産が増え、価格が下がる。結果的に関税も不要になる」と強調した。 (関連記事: 「国産より安いのに美味い!」台湾米が日本のスーパーで品切れ続出 | 関連記事をもっと読む )
そのうえで、「現在、石破総理と小泉農林水産大臣が検討しているのは、減反政策を廃止し、それによって影響を受ける主業農家に対して直接支払い(ダイレクトペイメント)を行う政策転換である」とし、これが今後の農政の焦点になるとの見方を示した。