最近ネットで広まっている噂がある。台湾居民来往大陸通行証(通称:台胞証)を持っている人が、台湾人としての身分を取り消されるかもしれないという話だ。この噂は、すでに1,000万人以上が台胞証を所持していることもあって大きな注目を集めた。これを受けて陸委会(大陸委員会)は記者会見を開き、ニュースリリースで説明を行った。
32年にわたって通行に使われてきた台胞証すら疑いの目を向けられる背景には、台湾社会にデマが飛び交いやすい土壌があるのかもしれないし、あるいは政府がわざと「台胞証はもう歓迎されていない」という印象を広めようとしているのかもしれない。おそらく、その両方だろう。
これまで民進党政権は、社会秩序維持法を使ってネット上の噂を調査してきた。今回のような「身分が消される」系の話は、社会の不安をあおるものとして扱われてもおかしくない。だが今回は政府がこの噂を「偽情報」として公式に否定も調査もしない。まるで賴政権が急に表現の自由を尊重するようになったかのようだ。ただし、政府の説明には曖昧な部分が多く、警察側もどう対応すればいいか分からずにいるのが実情だ。
台胞証=トラップカード? 発信源は民進党中国部
陸委会は6月3日の発表で、「一般市民が居住証、福馬同城通、台胞証、銀行カード、交通カードを申請・使用しても、台湾人の身分には影響しない」と説明した。ただその一方で、「個人情報が乱用されるリスクがあるため、国民には注意してほしい」とも呼びかけている。つまり、「使ってもいいけど、リスクは自己責任で」という姿勢だ。
この背景には、表向きは陸委会の方針のように見えて、実際には民進党中国部の発信がある。民進党中国部は今年1月、Facebookで中国身分証や台湾住民居住証、福馬同城通、ICチップ付き台胞証、各種銀行・交通カードを「5大トラップカード」と名指しした。
1. 個人情報が売買されプライバシーが完全に漏洩する
2. 常に監視され、自由がない
3. 台湾が中国の一部であるかのように扱われる
4. 中国の統一戦線戦略に協力する形になる
5. 国家安全保障の穴となり、中国の侵攻口実になる
対中強硬路線で締めつけられるのは、台湾人自身?
賴清徳氏は就任当初、蔡英文前総統が掲げていた「二つの国家は互いに属さない」という立場を引き継いだ。ただし「両岸(中台)関係」という言い回しはほぼ使わず、全体としては蔡政権の対中路線を踏襲していた。ところが今年3月13日、賴氏は突然、国家安全会議で「中国は境外敵対勢力」だと明言。すでに緊張状態だった中台関係をさらに悪化させた。この発言は中国にとって大した影響はなかったものの、台湾国内では「自己粛清」につながったのが現実だ。
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たとえば、大陸出身の配偶者(陸配)で台湾に住んでいる亜亜氏は、過去の「武力統一を支持する」といった発言を理由に厳しい処分を受けた。もしそれが単なる「言論」に過ぎないと考えるなら、賴政権の本気度を見誤っている。陸委会は、すべての陸配に「原籍喪失証明書」の提出を求め、提出できない者には戸籍の抹消措置を取ろうとした。のちに方針はやや後退し「具結」(誓約)で代替されることになったが、政治的に無関係な一般の陸配にすら“忠誠の証明”を求める姿勢は変わらない。