王義雄の見解:「台湾有事」は買い手次第?トランプ氏が描くリアルな地政学

2025-06-06 15:17
米中貿易戦争の「第2ラウンド」の陰には、トランプ氏の「ディール(取引)主義」に基づく対台湾政策の論理が見え隠れする。台湾はインド太平洋地域の防衛ラインにおける「不沈空母」から、徐々に「地政学上の取引材料」へと変化しているようだ。(AP通信)
米中貿易戦争の「第2ラウンド」の陰には、トランプ氏の「ディール(取引)主義」に基づく対台湾政策の論理が見え隠れする。台湾はインド太平洋地域の防衛ラインにおける「不沈空母」から、徐々に「地政学上の取引材料」へと変化しているようだ。(AP通信)

米ウェストポイントで行われた卒業式で、トランプ氏は「アメリカ・ファースト」のスローガンのもと、戦略的な関与縮小の姿勢をあらためて打ち出した。シンプルなようで含みのあるこの主張は、中国による軍事演習や経済封鎖の噂が高まる中、台湾海峡におけるアメリカの安保戦略を密かに再構築する動きにもつながっている。ホワイトハウス前国家安全保障会議のライト氏は、現状の米中台関係が不安定な地政学の断層を抱えていると警鐘を鳴らす。台湾海峡は国際法上の明確な地位がないうえに、政治体制の対立という本質的な矛盾を抱えており、構造的な脆弱性がつきまとう。

中国は「反分裂国家法」の改正準備やADIZ(防空識別圏)の拡張、福建艦隊の近代化を通じて、「台湾封鎖」を現実的な軍事オプションとして位置づけつつある。中でも、人民解放軍が海峡中線を越える演習を常態化させていることで、台湾が1996年のミサイル危機以来築いてきた心理的な防衛線が徐々に崩されつつある。

アメリカの「現状維持」戦略は、トランプ流の現実主義と矛盾をきたしはじめている。バンス副大統領が「不明確な軍事任務」を縮小対象に含めたことで、台湾海峡の曖昧戦略は抑止ではなくリスクとして捉えられるようになってきた。国防総省の2024年シナリオでは、台湾有事への軍事介入がアメリカの覇権そのものを揺るがしかねないとされ、戦略的な曖昧さと介入回避の狭間で、政策は揺れ続けている。

トランプ政権の対台政策は一貫して「取引」の色合いが強い。2018年に「台湾旅行法」に署名して強硬姿勢を見せた一方で、2024年の米中貿易協定では「平和的統一」に言及するなど、姿勢を軟化させている。この変化は、台湾への武器売却の構成にも現れており、F-16Vのような攻撃型装備から、パトリオットミサイルや沿岸防衛用ハープーンミサイルといった防御型装備へのシフトが進んでいる。台湾の軍事的な位置づけは「沈まぬ空母」から「緩衝地帯」へと変わりつつある。

その結果、台湾の交渉力は二重に低下している。世界保健総会(WHA)へのオブザーバー参加すら叶わず、国際的な存在感は徐々に後退。TSMCによるアリゾナ工場の2025年Q3量産前倒しなど、半導体をめぐる「シリコン盾」戦略も、米日欧が自前の生産基盤を整える中で効果を失いつつある。

一方で中国は、軍事と経済の両面からじわじわと圧力を強めている。人民解放軍東部戦区による台湾周辺での演習は2024年だけで40回を数え、「海関貿易特別管理条例」の改正によって、法的に選択的経済封鎖を実行できるようにもなった。こうした「非戦争型」軍事行動のエスカレートは、米軍のインド太平洋部隊がグアムやオーストラリアへと再配置される動きともリンクしている。

東アジアの安全保障枠組みも軋みを見せはじめた。日本は2024年の防衛白書で初めて「台湾有事」を集団的自衛権の行使対象と明記したが、日米安保の適用解釈には依然として法的な曖昧さが残る。オーストラリアの潜水艦隊の核動力化や、フィリピン軍基地の近代化も進んでいるが、「第一列島線」の防衛網に生まれた力の空白を完全に埋めるには至っていない。

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