台湾では超高齢社会が進む中、高齢者の多くが骨密度の低下により「脊椎圧迫骨折」を抱えている。特に古い骨折と新しい骨折が重なるケースでは、医師による診断が難しくなるのが課題だ。
こうした中、雲林科技大学と嘉義の大林慈済病院の産学連携によって、CT画像から脊椎圧迫骨折の「新旧」を高精度で見分けるAIシステムが開発された。これにより、医師は一目で損傷の状態を判断でき、より迅速で適切な治療が可能になるという。この研究成果は2024年10月、国際SCIジャーナル《Multimedia Tools and Applications》に掲載され、スマート医療の新たな一歩として注目されている。
嘉義大林慈済病院の整形外科主任・謝明宏氏によると、脊椎圧迫骨折は高齢者に起きる骨折の30〜40%を占めている。診断には主にX線やCTが使われているが、これらの機器は大腿骨や脛骨のような単純な骨には有効でも、複雑な構造を持つ脊椎の圧迫骨折を見分けるのは難しい。
重なり合う骨折の識別は整形外科医にとって大きな壁
謝氏は、人間の脊椎はおよそ3cmごとのセグメントに分かれており、骨が10〜20%ほど潰れると、CT画像を通じて骨折かどうかを見分けられると説明する。だが、診断が遅れたり見落とされたりすれば、激しい痛みが生活の質を著しく低下させるうえ、たとえ自然に治癒しても、猫背や脊椎の変形、神経の圧迫など、さまざまな後遺症を招く恐れがある。
さらに、慢性的な腰痛が必ずしも骨折に由来するとは限らず、筋肉の炎症や腫瘍、変形による脊椎の異常といった可能性も考えられる。そのため、過去に骨折の既往がある高齢者が腰痛を訴える場合、医師は「古傷」と「新しい損傷」を的確に見分ける必要があり、この判断が極めて難しいという。

謝氏は、脊椎圧迫骨折の新旧を正確に判別するにはMRIが最も有効だと語る。ただし、健康保険でのMRIの適用には制限があり、患者が自費で受けるとなると、1回の撮影で約6000〜7000元(約3万円〜3万5000円)の負担がかかる。また、地方の小規模病院では高額なMRI機器の導入が難しいという課題もある。
こうした現状に対して、今回開発されたAIによるCT画像の判読支援技術は、医療現場における負担を軽減し、高齢者のQOL(生活の質)を守るための大きな武器になると期待されている。
93.4%の高精度AIシステムの構築
嘉義県は65歳以上の人口が全体の約25%を占めており、全国でも最も高齢化が進んでいる地域のひとつだ。これを受け、雲林科技大学は地域のニーズに応える形で大林慈済病院との産学協力を進めてきた。 (関連記事: AI医療》「透析大国」台湾 AI技術で命を守る最前線へ | 関連記事をもっと読む )
雲林科技大学の張伝育氏は、今回のAIシステムの開発にあたって、車両や顔認識など小さな物体を対象とした深層学習用モジュール「YOLOR」を採用。さらに、MobileViT、EfficientNet_NS、CSPDarknet53という3種の画像特徴モデルに、近年注目されているインボルーション技術を組み合わせ、最終的に集成学習(Ensemble Learning)を用いてそれぞれの強みを統合した。その結果、脊椎圧迫性骨折の新旧の傷を93.4%の高精度で識別できるAIシステムの構築に成功した。
