台湾・行政院と立法院の対立、NVIDIA本社誘致にも影響か 台湾各地で波紋拡大

2025-06-06 12:59
地方の一般的交付金が一斉に削減され、各県市が困り果てている。台北市長の蔣萬安氏(右から二番目)、雲林県長の張麗善氏(左から二番目)など、青営の県市首長がこのために政院に訴願を提起した。(劉偉宏撮影)
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台湾・行政院は、立法院による中央政府予算の大幅な削減を受けて、多くの政策が停滞を余儀なくされているとし、地方自治体に対する一般補助金を一律にカットする方針を決定した。行政院は削減幅を約25%と説明しているが、地方政府側の試算では27%に達するともされ、いずれにしても各地の自治体は深刻な財政危機に陥っている。

突然の決定に、地方政府はまるで雷に打たれたような衝撃を受け、対応に苦慮している。行政院長の卓榮泰氏は「地方財政は年々改善しており、各県市の歳計剰余金は合計で708億元にもなる。これを活用するか、もしくは借入で対応できる」と述べた。しかし、財政に余裕のある「裕福な自治体」は限られており、財政難にあえぐ自治体にとっては絵に描いた餅に過ぎない。中でも苗栗県のように借入すら困難な自治体もあり、行政院の「妙案」は、地方から見れば現実離れした「愚策」に映っている。

20250520-行政院長卓榮泰20日出席「2025年台北国際コンピュータ展(COMPUTEX)開幕式」。(柯承惠撮)
行政院長の卓榮泰氏は、地方自治体の歳計剰余金が「合計で708億元にのぼる」と述べたが、この発言は各県市の財政状況に富裕と貧困の差があることを見落としている。(資料写真/柯承惠撮影)

新北市政府「これまでで最も重苦しい会議」 苦悩続き解決策見出せず

市の算出によれば、今回新北市は30.4億元の補助金を削減され、その影響は社会福祉、教育、インフラ整備など広範囲に及ぶ。中でも社会福祉分野の削減額は16.12億元、全体の35.86%に上り、障害者、中低所得世帯、高齢者、困窮児童など、およそ10万人が影響を受けるとされる。教育分野では7.6億元(21.83%)、基本インフラでは6.72億元(24.86%)の削減が見込まれている。

6月4日、立法院財政委員会で地方補助金の削減に関する特別報告会が開かれ、多くの自治体が出席し、深刻な状況を訴えた。新北市秘書長の邱敬斌氏は、「これまでで最も重苦しい会議だった」と振り返る。会議中には「国家予算とは本来、国民のために使われるべきものではないのか」との声も上がり、議論の末にも明確な打開策は見いだせなかった。

20250531-新北市長侯友宜31日出席「2025新北市議長杯ドラゴンボート錦標賽」。(顔麟宇撮)
新北市政府は中央からの予算削減を受けて内部会議を開催し、市長の侯友宜氏や各局長が一様に厳しい表情を浮かべていた。(資料写真/顏麟宇撮影)

裕福な自治体も頭を抱える 北士科の輝達(NVIDIA)本社進出に懸念

「裕福な自治体」とされる台北市ですら、事態は深刻だ。財政局長の胡曉嵐氏によれば、教育分野では12億元が削減され、約1.6万世帯の貧困家庭の子どもたちの給食費が影響を受ける可能性がある。社会福祉では14.67億元の削減があり、高齢者のケア施設、長期介護、敬老金、出生奨励の交通補助などが対象となっている。基本インフラでも6.94億元がカットされ、歩道整備や北士科地区の交通基盤整備が見送られる恐れがある。林奕華副市長は、「北士科(北投士林科技園区)に輝達(NVIDIA)本社が進出しても、交通整備が不十分であれば、渋滞が深刻な内湖科学園区の二の舞になりかねない」と危機感を示した。 (関連記事: 調査》台湾・地方政府は「裕福な人々」か?予算戦争で行政院が語らなかった真実 関連記事をもっと読む

20250519-輝達創設者兼CEOの黄仁勳(見图)の講演が台北流行音楽中心で開催された、図は北士科の風景。(劉偉宏撮)
台北市はNVIDIA本社を誘致したが、インフラ予算が削減されたため、市政府は北士科交通が悪化する恐れがあると懸念している。(資料写真/劉偉宏撮)

地方予算の削減が弱者に打撃 給食や低所得世帯に影響

桃園市では、障がい者支援、弱者向け日中ケア、社会保険、低所得者支援、弱者児童の医療補助などが影響を受けている。新竹市も同様に、弱者支援や児童の栄養給食、さらに公園や道路、排水溝などの基礎施設の修繕費用に影響が出ている。新竹市秘書長の張治祥氏は、中央政府に対し市民の生活を思いやり、補助金を地方に返還するよう強く求めている。