黄仁勲氏が漏らしたため息──NVIDIAを襲うチップ規制の誤算

2025-05-27 18:22
黄仁勲氏はアメリカ政府の対中国チップ規制はすでに失敗したと考えている。(写真/顔麟宇撮影)
黄仁勲氏はアメリカ政府の対中国チップ規制はすでに失敗したと考えている。(写真/顔麟宇撮影)

米国政府の半導体(チップ)輸出規制について、NVIDIAのジェンスン・ファン(黄仁勲)CEOは先週、「結論から言えば、輸出規制は失敗だった」と語った。賛否はあるだろうが、この発言にはどこか核心を突いた決定打のような力がある。

ファン氏は台北での記者会見で、米政府の規制によりNVIDIAは中国市場での主導権を失い、その空白を華為(ファーウェイ)が埋めたと述べた。経済や国家安全保障の観点から実施された規制だったが、結果として「中国のテクノロジー企業をより強くした」。それが彼の結論であり、ゆえに「規制は失敗だ」と断じたわけだ。

ファン氏の不満は驚くべきものではない。むしろ、当然とも言える。AI時代の到来によってNVIDIAは最も注目される企業となり、時価総額は3.5兆ドル(約550兆円)を超え、アップルやグーグルと並ぶ世界的テックジャイアントとなった。

だが、それは同時に「最も哀しい」側面でもある。地政学的な対立の焦点はまず半導体に、そして今はAIに移った。AIチップの輸出が規制される中、NVIDIAは「AIの覇者」としての地位に大きな影響を受け、築き上げてきた帝国が崩れかけている。規制により中国向けに設計されたダウングレード版「H20チップ」さえ輸出できなくなり、NVIDIAは55億ドル(約8,600億円)の損失を余儀なくされた。これは裏を返せば、150億ドル(約2兆3,500億円)分の売上機会を失ったことを意味する。

実のところ、NVIDIAのようなアメリカ企業が規制で被る損失は、問題の一部にすぎない。より深刻なのは、この規制が王国を失わせただけでなく、新たな競争者を生み出してしまった点にある。

2021年時点で、中国市場におけるNVIDIAのシェアは95%に達していたが、規制後は50%に落ち込み、さらに下がる見通しだ。モルガン・スタンレーによれば、中国のチップ製造技術の進歩により、国産GPU(AIチップ)の自給率は2021年の11%から2027年には82%に達すると予測されている。つまり、2年後にはNVIDIAの中国市場シェアは20%を切る可能性がある。

問題は中国市場だけにとどまらない。NVIDIAのチップが使えなくなったことで、性能で劣ると思われていた華為のAIチップが台頭し、規制によって性能を落とされたNVIDIA製チップより優れていたため、シェアと成長機会を得た。今後、華為のチップは中国国外でもNVIDIAと競争する存在になる可能性がある。

こうした事態を受けて、トランプ政権時代のチップ規制の一部がバイデン政権下で緩和される一方で、華為製チップを使う企業は米国の輸出規制法違反となるとする“警告”も出された。これは「長腕管轄」とも揶揄されるが、一定の効果はあり、各国企業にとっては華為チップの採用を思いとどまらせる抑止力となっている。 (関連記事: TSMC、台湾製チップに関税なら米工場建設を中止と警告 関連記事をもっと読む

例えば、マレーシアの高官が華為製のAIサーバーを国家レベルで導入すると発言した直後、政府はその発言をすぐに修正・撤回した。こうした“圧力”は短期的には効果を発揮するが、長期的には疑問が残る。中国企業に対しては効果が薄く、中国市場自体が華為の成長を支えるだけの規模を持っているためだ。

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