日本とアメリカが新たな貿易交渉の開始を見据えるなか、日本政府は造船分野での協力強化をアメリカに提案したい考えだ。これは、トランプ氏が再び掲げる関税圧力を緩和するための一手としても機能する可能性がある。
また、日本のエネルギー産業を所管する官僚もアラスカで開かれたエネルギー関連の国際会議に参加しており、将来的に現地のLNG(液化天然ガス)プロジェクトへの出資も視野に入れている。
交渉の日本側トップは、経済再生担当大臣の赤澤亮正氏。これまでに少なくとも3回、ワシントンで協議を重ねているという。読売新聞によれば、日本政府はアメリカ国内で長期にわたって低迷する製造業の再興を支援するための複数の政策を検討しており、その中でも造船業が最も注目されている分野のひとつとなっている。
造船は、現在進行中の関税交渉における“切り札”になり得ると見られており、中国の造船所がグローバル市場で圧倒的な優位性を持っていることへの懸念を、交渉材料として活用する意図があるようだ。
商船三井が中国の造船所へのLNG船の発注を停止したという動きは、こうした背景とも無関係ではない。英文記事を日経アジア@NikkeiAsia に掲載されている。
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei)May 23, 2025
▶Japan shipping giant Mitsui O.S.K. to stop ordering Chinese LNG carriershttps://t.co/CmzfA9t4eK
日本政府はまず国内造船業の底上げを目指して、特別予算を組む方針だ。具体的には、国内造船所の設備拡張や技術更新、さらに国内投資や研究開発、インフラ整備を支援するための法案策定が進められている。加えて、日米連携を象徴する政策として「日米造船業復興基金」の創設も検討されている。
企業側の動きも出始めている。商船三井は、今後の米日交渉を見据え、中国での船舶建造に制限がかかる事態を未然に防ぐため、中国造船所への新規発注を当面見送り、韓国の造船所にLNG運搬船を発注する方針を固めた。背景には、アメリカ本土の港に入港する際、中国製の船舶が追加関税などの制約を受ける可能性があるという懸念がある。

商船三井の橋本武社長は、日経アジアの取材に対し、「中国造船所との取引については、今は静観している」と語った。同社は世界最大のLNG船隊を運用しており、2024年3月末時点で保有するLNG運搬船は107隻に上る。2位の日本郵船でも89隻と、その差は大きい。
そもそも、アメリカの造船所は中国企業に対抗できる体力を持たず、日本の造船所も大型LNG船の大量建造に対応できる能力は乏しい。そのため、現時点で現実的な代替先は韓国の造船所に限られている。
LNG運搬船の建造には高度な技術が必要で、特に高圧下でのガス貯蔵を可能にする特殊なタンクの設計・製造が不可欠だ。すべての造船所が対応できるわけではなく、発注先は限定される。

市場全体では、LNGの需要が引き続き増加しているものの、新規の造船需要に応えられるだけの資金力と技術力を持つ企業はごくわずか。結果として、中国の造船所が急成長を遂げ、トランプ氏が介入する以前の時点ですでに、世界のLNG船市場の半数以上を中国企業が占める状況となっていた。
その成長の背景には、中国企業が提示する極めて競争力の高い価格がある。一方、日本国内にも有力な造船会社は複数あるが、慢性的な人手不足などの課題もあり、過去10年間にLNG船の新規受注実績はない。
商船三井は、LNG輸送の将来性に期待を寄せ、2028年度までに船隊を140隻規模に拡大する長期戦略を進めている。国際市場で続くLNG需要に対応する体制を整えつつ、日米連携による産業回復の可能性も見据えている。
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