昨年、中国は2.5兆ドル(約393兆円)を超える商品を輸入し、そのうち1640億ドル(約25.8兆円)がアメリカからのものだった。巨大な人口と現在の経済レベルを考えると、中国が完全な自給自足を実現するのは容易ではない。だが、そんな中で掲げられた「中国製造2025」は、国家の経済基盤を強化する大黒柱となり、トランプ政権による対中関税政策に対抗するための切り札にもなっている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』は21日、同計画の進捗と課題について詳しく取り上げている。
10年前、李克強氏が打ち出したこの国家戦略は、中国の製造業全体をハイテク化する大規模なアップグレード計画だ。WSJの記事は計画発表当初ではなく、米中貿易戦争の真っ只中、2018年の習近平氏のスピーチから話を始めている。アメリカによる技術供与の制限が強まる中で、「自力更生」が中国国内で強調されたタイミングだった。
その年の5月末、習近平氏は北京の人民大会堂で行われた中国科学院と中国工程院の会合に出席し、次のように述べた。
「重要な核心技術は、待っても、買っても、頼んでも手に入らない。自らの手で握ってこそ、国家の経済安全、国防の安全、あらゆる分野の安全が保障できる。私たちは自信を強め、核心技術や先端技術、現代工学、革新技術でブレイクスルーを起こし、誰も歩いたことのない道を切り拓かねばならない。」
「基礎研究は科学体系の源。世界最前線を見据えて土台を築き、長期的な視点で井戸を掘る覚悟で挑む。成果を産業化にきちんとつなげて、技術の革新を国家発展の原動力にする。」

中国の国家主席・習近平氏(AP通信)
WSJによれば、「中国製造2025」は単なる産業政策ではなく、米国のテクノロジー封鎖に対抗するための重要戦略になっている。そしてその成果はすでに一部でアメリカを凌駕し始めているという。
たとえば、中国のEV(電動車)は世界市場を席巻し、AI分野ではOpenAIに匹敵するスタートアップが次々と登場。バイオ医薬の研究も進化し、工場では高度なロボットが稼働。貨物船の生産では世界シェアを握り、打ち上げた数百機の人工衛星が地球上をくまなく監視する体制も構築されている。加えて、食料・エネルギー自給率を高め、軍事近代化も継続中。これらがアメリカへの対抗力を裏支えしている。
習近平氏は、「社会主義制度と国家計画体制こそが未来の科学技術競争に勝つ最良のモデル」とも語っている。必要な資源を国家が集中的に投入できる点が強みだという。
一方、アメリカも黙ってはいない。バイデン政権は欧州と連携し、半導体供給網から中国を締め出そうとしている。これに対して習近平氏は2023年の全国政協で、「アメリカ主導の西側諸国が中国に対して全方位的に妨害し、かつてない挑戦を突きつけている」と発言。「極端な状況」に備えるよう、たびたび警告している。
中国の「備え」はどこまで進んだか
中国製造の進化を支える原動力は、莫大な資金の投入にある――そんな分析をWSJが報じている。
昨年、中国が研究開発に投じた金額は5000億ドル(約78兆円)にのぼり、これは習近平氏が就任した2012年と比べて3倍の規模。経済協力開発機構(OECD)のデータでは、購買力平価で見た中国のR&D(研究開発)投資はすでにアメリカと肩を並べる水準に達している。
2000年から2023年にかけて、中国の政府系ベンチャーファンドはAI企業9600社に対し、約2000億ドル(約31兆円)を投資。中央政府だけでなく、地方自治体の投資部門やプライベートベンチャー、アリババやテンセントといったIT大手もこぞって資金を出し、AI企業――たとえば智譜AI(Zhipu AI)など――の成長を後押ししている。
こうした技術投資は、製造業にも波及している。中国企業が導入した産業用ロボットの数は、他の地域の合計に匹敵。以前はその約4分の3が日本やドイツからの輸入品だったが、2023年時点で中国製ロボットが国内シェアの約半分を占めるようになったという(国際ロボット連盟調べ)。
さらに、より高度な人型ロボットの分野では、深圳の企業・優必選(UBTech)がイーロン・マスク氏率いるテスラ(Tesla)とガチンコ勝負を繰り広げている。電動車メーカーが人型ロボットにトレーニングを施し、自動で車部品を選別したり、巨大コンテナを棚に載せたりといった作業をこなすというから驚きだ。
優必選の強みは、サプライチェーンの9割が中国国内にあり、意思決定支援にはAI企業・DeepSeekの技術を活用している点にある。

「三門原子力発電所」―AP1000技術が世界で初めて正式運用された原発(出典/Wikipedia)
さらに注目すべきは、原子力分野での国産化だ。上海から南へ約150マイルの三門(Sanmen)原子力発電所は、2009年に建設が始まった最初の2基が米ウェスティングハウス製だった。しかし現在、建設中の新型リアクターは完全に中国技術――自国開発の「華龍一号(Hualong One)」が用いられている。

「共生地球」アプリで撮影された花蓮の和平発電所の高煙突建築。『環球時報』を通じて長光衛星が公開(写真/解放軍報)
宇宙開発分野においては、国産の商業衛星システムを大幅に強化。米国のシンクタンクによるランキングでは、中国企業が世界最高とされる商業衛星システムの金メダルを5つ獲得し、アメリカは4つにとどまった。特に注目されるのが長光衛星技術(Chang Guang Satellite Technology)だ。かつては中国科学院に依存していた同社は、3000万ドル(約47億円)で知財を取得し、現在は世界最大級のリモートセンシング衛星ネットワークを構築中。運用中の117機の衛星は、地球上の任意の地点を1日最大40回撮影できるとされ、米空軍基地の最新ステルス爆撃機の画像を捉えることにも成功している。
食料とエネルギーの分野では、中国は世界のトウモロコシ備蓄の約3分の2を保有し、石油や金属の備蓄も大規模に進行中。人口比で見ると圧倒的な備蓄体制を築いている。さらに金融では人民元の国際利用を広げ、西側の決済網に依存しない独自システムの構築に注力。軍事面では、五角形の推計によると核弾頭数がすでに600個超に達している。
造船業でも中国の躍進は顕著。2023年に中国の造船所が引き渡した船のトン数は世界全体の53%を占めた。2002年の8%からの急拡大であり、同年のアメリカのシェアはわずか0.1%だった。これにより中国海軍の艦艇数は世界最大規模となっている。習近平氏は、外部の圧力に備えて自給自足体制を強化するという長期戦略を貫き、それが明確な成果を出している。

華為が発表した新型5Gスマートフォン「Mate 70」(引用元/YouTube)
テクノロジー分野でもその勢いは止まらない。アメリカの輸出規制により先端チップへのアクセスが制限されている中、中国企業は逆に自国での生産体制を加速。華為(Huawei)は7nmプロセスで製造した5Gスマートフォンを発表し、アメリカを驚かせた。現在は、2022年に発表された米NVIDIAのH100チップを超える性能の国産チップの開発に取り組んでいる。モルガン・スタンレーは、国内GPUの自給率が2021年の11%から2027年には82%まで上昇すると予測している。
技術の裏に潜むリスク──成長の陰に構造的な課題も
しかし、中国の躍進が続く一方で、深刻な課題も横たわっている。WSJは、中国のハイテク産業の成長が注目される中でも、経済には高い債務水準や不動産市場の下落といった構造的問題がのしかかっていると指摘。国家主導型モデルの副作用として、財政の浪費、詐欺、不効率といった問題も顕在化している。
たとえば、清華紫光集団の前会長・趙偉国は、国有資産6500万ドル(約102億円)を不正に横領した罪で、今月死刑判決を受けた。電動車産業では、一時期500社以上が地方政府の補助金目当てに乱立したが、大半は倒産。現在も生き残っているのはごく一部で、利益を出している企業はほとんどない。

元紫光グループ会長・趙偉国が横領で有罪判決を受けた様子(写真/CCTV公式Weiboより)
資金配分の非効率性は生産性に深刻な影響を与えている。IMFの経済学者たちは、このまま抜本的な改革がなければ、2031~2040年の中国のGDP成長率は2.8%にまで落ち込む可能性があると予測している。これは過去10年の平均6%を大きく下回る水準だ。
カーネギーメロン大学の経済学者、リー・ブランステッター氏もこう警鐘を鳴らす。「どんな国にも資源は限られている。中国のような大国でも例外じゃない。もしその資源をうまく使えなければ、長期的に国民の生活水準は上がらない」。