アメリカのトランプ大統領は8日、ウクライナへの新たな防御用武器の輸送を承認したことを正式に表明し、ロシアのプーチン大統領に対する強い不満を公然と示した。「意味のない発言」「ばかげた話だ」と厳しく非難し、かつての融和的な姿勢からの転換が鮮明となった。ホワイトハウスと国防総省は提供される兵器の具体的内容を明らかにしていないが、『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、パトリオットミサイル防衛システムが含まれていると報じている。さらにトランプ大統領は、ロシアおよびその同盟国に対する「深刻な制裁」を盛り込んだ法案を支持する方向で検討していると述べ、ロシア政策における方針転換の可能性が高まっている。
トランプ大統領は7日、ウクライナに対する追加の防衛用武器支援を行う意向を示し、8日にはその決定を正式に確認した。「ウクライナにいくつかの防御用武器を輸送中である。すでに承認した」と述べ、ロシアの侵攻からウクライナを守るための措置であることを強調した。具体的な兵器の内容については言及を避けたが、『ウォール・ストリート・ジャーナル』によれば、ホワイトハウスは「パトリオット」防空ミサイルシステムの提供を検討しており、これはトランプ政権の方針における大きな転換とされる。
同氏はホワイトハウスで閣僚らと会談した際、クレムリンを名指しで批判した。「プーチンに非常に不満だ」と述べ、「ロシアとウクライナの兵士が戦場で命を落としているなかで、プーチンの発言はでたらめだ。彼はいつも友好的に振る舞うが、それが無意味であると証明された」と語った。選挙期間中に「一日で戦争を終わらせる」との公約を掲げていた過去の姿勢とは対照的で、ロイターはトランプ氏の失望がより強硬な行動へと転じつつあると報じている。
ウクライナの戦況が悪化、トランプ制裁の矢は放たれるのか?
ロシアによる空爆と地上攻撃が続くなか、ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、米国との協力強化を指示した。「重要な軍事物資の輸送を確保し、特に防空システムを確保した」と述べ、「これらは人命を守り都市を保護するために不可欠であり、迅速な実行を期待している」と強調した。
ニュースの補足:「パトリオット」が重要視される理由
パトリオットミサイル防衛システムは、米レイセオン社が開発した世界でも最先端かつ需要の高い防空兵器のひとつとされる。システムは、フェイズドアレイレーダー、指揮統制ステーション、2〜3基のミサイル発射装置、迎撃ミサイルから構成され、弾道ミサイルや巡航ミサイル、敵機を迎撃する能力を持つ。都市やインフラを防衛するうえで極めて重要な装備と位置づけられている。
ロシアによる断続的なミサイルや無人機攻撃にさらされるウクライナでは、アメリカ、ドイツ、欧州各国から提供された少数のパトリオットシステムが運用されている。米政府関係者によると、米国が3セット、ドイツが3セット、EU加盟国が1セットを供与したとされるが、整備や保守の必要性から、全システムが常時稼働しているわけではない。
先月、米軍はカタールのアル・ウデイド空軍基地でこのシステムを使い、イランによるミサイル攻撃を迎撃した。アメリカ陸軍は、必要とあればウクライナへの追加配備も可能とする一方で、迎撃ミサイルの在庫不足が大きな課題となっている。ウクライナと中東での武力衝突が続く中、米国とその同盟国は補充体制の強化を急いでいる。
また、トランプ氏は議会で進められている超党派の制裁法案にも注目している。この法案は共和党のリンゼー・グラム上院議員と民主党のリチャード・ブルメンサー上院議員が共同で提出したもので、ロシアに対する制裁の強化に加え、モスクワと貿易を行う国々に対しても厳しい措置を講じる内容となっている。特にロシア産の石油、天然ガス、ウランなどを購入する国に対し、最大500%の懲罰関税を課すことが盛り込まれており、ロイターは「この法案が可決されれば、ロシアの戦時経済とその同盟国に破壊的な打撃を与えることになる」と分析している。
軍事援助中止の「羅生門」
ホワイトハウスが対ロシアで強硬姿勢を打ち出す一方、重要兵器のウクライナへの輸送が一時中止された件をめぐり、依然として不可解な状況が続いている。中止されたとされる武器には、パトリオットミサイルやHIMARSロケット、AIM-120防空ミサイル、榴弾砲弾、AGM-114「ヘルファイア」ミサイル、スティンガーミサイルなどが含まれ、ウクライナの防衛体制が一時的に大きく損なわれた可能性が指摘されている。
8日、国防長官のヘグセス氏の隣に座ったトランプ大統領に対し、中止命令を出した人物について質問が飛んだが、「私は知らない。君たちが教えてくれないか?」と答え、疑念を深める結果となった。この回答によって、米政府内部の調整不足が露呈した形だ。トランプ氏はゼレンスキー大統領との電話会談でも、自らが援助停止を指示した事実はないと伝えている。
『ヨーロッパ政策分析センター(CEPA)』のアリーナ・ポリャコワ氏は、「軍事的および経済的な手段でロシアに代償を負わせるしかない」とし、現在のままではプーチン氏に戦争を止める理由がないと指摘。米政府の対応が不十分であることが事態を長引かせていると分析する。ホワイトハウスは既にペンタゴンに対し、パトリオットを含む追加武器の提供を要請済みで、同盟国にも同様の防御システム提供を働きかけていると、匿名の米官僚2名が語っている。
『エコノミスト』:トランプの方針転換はペンタゴンに難題を投じる
トランプ氏は軍事援助中止の決定者について明言を避けたが、『エコノミスト』はこの方針の始動者としてヘグセス氏と国防政策担当次官補のエルブリッジ・コルビー氏の名を挙げる。特にコルビィ氏は長年、リソースを欧州や中東からアジアに移すべきだと主張し、「アメリカの真の競争相手は中国であり、他国は自ら防衛を担うべき」とする考えを持ってきた。
国防総省のパーネル報道官は2日、「米国は世界中のすべての人に武器を送るわけにはいかない」と発言したが、『エコノミスト』はこれは誤解を招くと指摘。現在ウクライナに送られている兵器は米軍の在庫ではなく、請負業者の製造ラインから供給されたものであるため、米軍の備蓄に影響しないという。イスラエルに対する武器支援も同様に「在庫の影響」を受けていない。
とはいえ、パーネル氏は「全世界の軍事輸送を再評価中」とも述べ、「アメリカ第一」の優先順位に基づき、一部の武器が「在庫検討」の対象となっている可能性も示唆した。だが、重要な政策が大統領の決定で覆されたことに対するペンタゴン内の戸惑いは否定できない。
『エコノミスト』は、トランプ氏の今回の支援決定は「常識の勝利」であるとしながらも、彼の変わりやすい姿勢が追随者にとっても予測不可能であることを浮き彫りにしたと論じる。また、ウクライナへの支援停止がロシアに「暗黙の許可」を与える行為になると警告。特にパトリオットミサイルや防空システムの支援がなければ、クレムリンの攻勢を抑えることが難しくなるという。
しかし、トランプ政権が最近署名した「大きくて美しい法案」では、議会と政権のいずれもウクライナ支援のための予算を明示的に割り当てていない。軍用予算に組み込まれているわずかな支援枠も、2026年度の予算ではさらに削減される見通しとなっている。