6月初旬から7月初旬にかけて、中国軍は渤海および黄海沿岸の葫蘆島、秦皇島、唐山、大連、威海、連雲港周辺の海域で軍事任務や演習を相次いで実施した(写真参照)。とくに大連の南西から南の海域にかけての4カ所では、合計1,146平方キロメートルに及ぶ範囲で軍事活動が行われている。ここ半年間、同様の海域封鎖が頻繁に見られ、特異な動きが続いている。
こうした中、米海軍のミサイル追跡艦「ホワード・ロレンゼン(T-AGM-25)」が、6月12日前後から約2週間にわたり、江蘇省北部および山東省沖の黄海海域で活動していたことが報じられた。同艦は、近距離および長距離のミサイル試射を探知し、電子パラメータを収集する能力を持つとされ、中国本土でもその動向に関心が集まっている。
国際船舶位置情報サイト「MarineTraffic」によると、「ホワード・ロレンゼン」は6月7日に日本の佐世保港を出港し、12日前後に黄海へ到達。AIS船舶情報によれば、6月26日午後には山東省青島市の膠州湾南東およそ160.9キロメートルの海域に接近していた。
この艦はミシシッピ州パスカグーラにあるVT Halter Marineによって建造され、2014年からアメリカ軍事海運司令部が運用している。外観には2基の13メートル級「コブラクラウン」フェーズドアレイレーダーシステムを搭載し、探知範囲は5,000キロメートル以上。最大で1,000の目標を同時に追跡し、ミサイル飛行データの収集が可能とされている。
このように、米ミサイル追跡艦が約半月にわたり黄海に展開していたことで、中国軍が同海域や渤海でミサイル試射任務を実施していた可能性も指摘されている。

次に、米軍のミサイル追跡艦が有する任務や装備の特性から見て、中国軍の核動力弾道ミサイル搭載潜水艦による「巨浪」ミサイルの試射や、海空軍による各種ミサイルの発射活動を黄海・渤海海域で探知することが可能とされている。探知可能な範囲は山西省太原から新疆にまで及び、新疆ウイグル自治区のバインゴリン・モンゴル自治州若羌県にある標的場や、タクラマカン砂漠南西部に新設された標的場、さらに新疆クーラの迎撃試験場など、ロケット軍が展開する各種兵器試験にも対応できる。
一方で、中国国内メディアは、アメリカのミサイル追跡艦が黄海で活動していたとの報道があったのと同じタイミングで、大連海事局が6月27日13時48分に発表した「遼航警207/25」について注目している。これは、6月29日16時から7月13日16時までの間、大連南西から南方にかけての4地点、合計1,146平方キロメートルの海域を封鎖し、軍事任務を実施するという内容だった。この発表が米艦の動きと何らかの関連を持つ可能性が示唆されている。 (関連記事: 石破茂氏、中国の空母展開を警戒 「台湾周辺は平和への重大な脅威」 | 関連記事をもっと読む )
もっとも、大連南方における軍事任務自体は過去にもたびたび行われており、こうした海域封鎖は毎月のように繰り返されてきた。現時点で、中国軍による「巨浪」シリーズの潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)や短距離以上のミサイルの発射任務について公式な発表はなく、今回の米軍艦の動きは、特定の軍事活動に対する情報収集を目的とした可能性がある。