中国が潜水艦戦力の拡大を続け、軍事のスマート化に拍車をかける中、日本海上自衛隊の元潜水艦隊司令官で退役三つ星海将の矢野一樹氏が、「風傳媒」のインタビューに応じた。矢野氏は、第一列島線が徐々に「水中戦の主戦場」へと変化するなか、台湾の国産潜水艦「海鯤(ハイクン)号」を、中国の圧力に対して同盟国が結束を示す象徴的成果だと評価した。
台湾側の発表によれば、「ハイクン号」は2025年6月17日に初の海上動態試験を終え、推進システム、舵翼、電力系統、通風、通信、航法システムの検証を完了。続いて6月26日に2度目の海上試験を行い、船体の操縦性と各システムの統合能力を確認した。7月3日には3度目の試験で潜望鏡機能のテストを実施し、今後はドライドックにて水密試験とシステム校正が行われる予定だ。
矢野氏は2023年10月、日本の報道番組「深層NEWS」に出演した際、「ハイクン号は日本の潜水艦よりやや優れている」と言及して話題を呼んだ。今回のインタビューで「風傳媒」がその真意を問い直すと、「台湾の潜水艦は日本を上回る可能性がある」と初めて明言。その根拠として、米国からの技術支援を挙げた。
「私は実際にハイクン号に乗船したことはないが、当初の評価はその技術提供に基づく推測からだ。米国は台湾に最新の潜水艦技術を提供していないが、これまでの潜水艦開発経験からかなり良い仕様を提供したと感じている」と述べた。さらに、米国およびその同盟国が中国の圧力に対抗し、高度な戦略的一貫性を示したことで、「ハイクン号」の建造が可能になったのだと強調した。
米国の支援と日台協力の可能性
矢野氏は、トランプ氏がホワイトハウスに復帰し、アジアにおける同盟国間の不確実性が高まる中でも、「中国が主要な脅威である限り、米国の台湾支援は継続される」との見方を示した。
「トランプ政権の初期に、潜水艦技術の提供が認可され、F-16戦闘機や戦車の売却も実現した。彼は台湾支援をやめると言ったわけではなく、方法が変わるだけで方向性は変わらない」と説明する。
台湾への軍事技術の供与については、「米国は支援を続けるが、最新仕様までは簡単に提供しない」との認識を示しつつ、今後も段階的な支援が見込まれるという。
また、日台間の潜水艦技術協力について矢野氏は「戦略的に絶対に必要だ」と断言。一方で、両国間に正式な外交関係がないという現実が、軍事協力の構築にとって大きな障壁になっているとも述べた。「外交関係がない中でどう協力の仕組みを構築するか。それこそが我々が見出すべき突破口だ」と語り、日台連携の必要性と課題を明確に指摘した。

さらに矢野氏は、将来的に台湾が必要とする場面があれば「顧問として非常に協力する意思がある」と前向きな姿勢を示しつつも、軍事機密を含む分野では「話せることと話せないことがある」と慎重な態度を崩さなかった。
今回のインタビューは、台湾の潜水艦建造が単なる国防力強化にとどまらず、米国との技術連携や、将来的な日台軍事協力の可能性を含む、より広い地政学的文脈で語られるべき事案であることを示唆している。