米国のトランプ大統領は100日ぶりに関税強化の大鉈を振るい、中国やロシア、ブラジル、インド、南アフリカを中核とするBRICS(新興5か国)に対し、突如として10%の追加関税を課すと威嚇する声明を発表した。これに対し、ブラジルのルラ大統領はトランプ発言を「軽率である」と強く非難し、主権国家に対して「皇帝はいらない」と強調した。
トランプの関税強化はBRICS諸国を南北両半球に切り分けるものであり、トランプ独裁体制を現実のものとすると同時に、「グローバル・サウス(世界の南側)」による反米連合の形成を加速させる結果となっている。果たして、トランプのこの一手は戦略的な妙手なのか、それとも失策なのか、注目されるところである。
トランプ、追加関税を示唆しBRICSに狙いを定める
トランプ大統領は「解放日」と称して世界に対等関税を課し、中国に対しては最大54%もの高率関税を課した。これに対し中国政府は「以牙還牙」の方針で米国に34%の追加関税を課して報復した。トランプ氏は中国が報復関税を撤回しなければ、さらなる関税引き上げも辞さないと強硬に警告。中国政府はこれを「詐術の本性を露呈させた」と非難し、対抗措置を最後まで続ける姿勢を示した。
米中貿易戦争は激しい応酬が続き、両国は互いに譲らず激しい対立状態にある。しかし複雑な駆け引きを経た結果、結局は元の状況に戻ったとも言える。変わりやすく、誇張や過剰な手法を繰り返すトランプ氏は中国のネットユーザーから「川建国」と揶揄されてきた。最近の多くの海外メディアの分析は、「トランプは習近平国家主席に思わぬ贈り物をした」と指摘している。
トランプ氏は中国だけでなくブラジルにも敵意を持ち、他国の内政に干渉する行動をとっている。ブラジルのルラ大統領はトランプ氏の発言を強く非難。ドル覇権を批判した後、トランプ氏は自身のSNSでブラジル前大統領のボルソナロ氏を「魔女狩りの被害者」と擁護し、現政権に「手を出すな」と警告した。トランプ氏は自身の初期政権時代にボルソナロ氏と意気投合したが、ボルソナロ氏は現在ブラジル最高裁の調査を受けており、クーデター企ての疑いで政治介入が問題視されている。

2017年9月4日、金磚五国のリーダーが厦門サミットで撮影した集合写真。左から当時のブラジル大統領テメル、ロシア大統領プーチン、中国国家主席習近平、当時の南アフリカ大統領ズマ、インド首相モディ(AP通信)。
こうした中、米中対立が激化し地政学的リスクが高まるなか、米連邦準備制度の金融政策の波及効果もあり、BRICS(新興5か国)はドル離れの動きを強めている。中国とロシアの2023年の双方向貿易は2401億ドルの過去最高を記録し、その92%が自国通貨(人民元およびルーブル)で決済され、もはやドルは使われていない。サウジアラビアも中国との石油取引に人民元を一部使用している。2024年10月に開催されるBRICS首脳会議では、ロシアのプーチン大統領が「BRICSコイン」を披露する予定であり、トランプ氏を震え上がらせているとも伝えられている。
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保護主義に反対 BRICS各国が一致
BRICS諸国は近年、自国通貨による決済を推進し、ドル依存の低下を図るとともに、米国の覇権に果敢に挑む姿勢を強めている。今年(2025年)4月のBRICS外相会合および5月の貿易相会合の共同声明には、「一方主義および保護主義に反対する」との文言が盛り込まれ、米国による関税政策を明確にけん制する内容となった。トランプ大統領によるBRICS諸国への関税圧力は、米国が覇権的地位の揺らぎに対して強い危機感を抱いていることの表れと受け止められている。
もっとも、BRICS主要国の対米対応は一枚岩ではない。ロシアのプーチン大統領はドルの「武器化」を非難しつつも、関税で屈することはないと強調。インドのジャイシャンカル外相は議会で「インドにはドルの影響力を弱める意図はない」と述べ、米国との対話を維持しながら自国通貨決済の試行を進めている。
ブラジル政府は「共通通貨については具体的な協議は始まっていない」と説明。ルラ大統領も多国間の場では対米直接対決を避け、国際秩序の改革を訴えている。南アフリカもたびたび米国との交渉継続を呼びかけ、輸出市場の確保を重視しつつ、国際会議などでは保護主義への批判を展開している。
現時点で、BRICS11か国が結束してドル覇権に正面から対抗する態勢が整っているとは言い難い。しかし、その中で中国は明確に、ドル覇権と関税による脅迫に反対する立場を貫いている。中国外交部は「関税は圧力の道具であり、貿易戦争に勝者はいない」と強調。李強首相は、「グローバル発展イニシアティブ」の枠組みのもと、北京が「デジタル・サウス」ブランドを立ち上げ、今後5年間でグローバル・サウス諸国を対象に200件のデジタル経済およびAI(人工知能)に関する研修プログラムを実施する方針を表明した。中国は、途上国との連携を強化することで、対米包囲網の形成を進めようとしている。

中国国家主席習近平とロシア大統領プーチンが2024年にカザンで開催されたBRICSサミットで撮影された集合写真(AP通信)。
損をして得なし、「米脱米入南」を加速
仮にトランプ政権がBRICS諸国への関税措置を本格的に実施した場合、その潜在的影響を政権自身も理解しているはずである。この措置は米国のインフレをさらに悪化させる一方で、BRICS諸国にとっては「脱ドル化」を加速させる契機となるだろう。
戦略的観点から見れば、米国の一方主義はかえってBRICSの結束を促す可能性が高い。人民元による国際決済システム(現在117か国をカバー)の整備や、人民元建て決済の拡大が進めば、ドルの国際的地位にさらなる打撃を与えることになる。ただし、国際通貨の専門家らは、ユーロに匹敵するような「BRICS通貨」を創設するのは現時点では現実的ではなく、現地通貨による取引と通貨スワップを組み合わせた「二本立て方式」が最も実現可能な道筋であるとの見方を示している。
トランプ大統領が「解放日」と称して新たな経済戦略を打ち出してから100日余り――それは結果として「破壊の日」と化したのだろうか。米経済誌『フォーブス』の統計によれば、トランプ政権は今年4月2日以降、政策を180度転換する「方針転換(Uターン)」を27回も繰り返しているという。過去数年にわたり、各国が北京への対抗を意識して構築してきた経済的結束を、トランプ政権は自らの手で断ち切った格好である。
トランプの政策は一貫性を欠いており、一方で対中輸出規制(半導体など)を緩和しつつ、他方でBRICS諸国に対して威圧的な姿勢を見せている。理念や価値の共有よりも利害の一致を優先する姿勢は、結果的に米国に多くの敵を作ることとなっている。
冷静に見れば、トランプ大統領によるBRICS諸国への「関税10%」の恫喝は、当初はBRICS内部の分裂を誘発することが狙いであった。しかし、結果としてそれは「世界の多極化」という流れを加速させることになった。中国が主導する「大BRICS協力」の構想が勢いを増し、グローバル・サウスの団結が進むなか、トランプの短絡的かつ打算的な手法は、中国にとってまさに「百年に一度の好機」となっている。
トランプ政権の一連の強硬策は、ただの「トランプ建国」的振る舞いにとどまらず、「脱米・入南(アメリカ離れとグローバル・サウス回帰)」の世界的な動きを加速させた。こうした流れを「愚策」と呼ぶのは、決して過言ではない。