評論:トランプ政権、BRICSに制裁関税 「グローバル・サウス」に打撃の懸念も

2025-07-09 11:30
アメリカのトランプ大統領による関税の大鉈が揮われ、中国、ロシア、ブラジル、インド、南アフリカを中心とするBRICS国家に10%の追加関税を課すと突如表明した。(画像クレジット:ChatGPT)
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米国のトランプ大統領は100日ぶりに関税強化の大鉈を振るい、中国やロシア、ブラジル、インド、南アフリカを中核とするBRICS(新興5か国)に対し、突如として10%の追加関税を課すと威嚇する声明を発表した。これに対し、ブラジルのルラ大統領はトランプ発言を「軽率である」と強く非難し、主権国家に対して「皇帝はいらない」と強調した。

トランプの関税強化はBRICS諸国を南北両半球に切り分けるものであり、トランプ独裁体制を現実のものとすると同時に、「グローバル・サウス(世界の南側)」による反米連合の形成を加速させる結果となっている。果たして、トランプのこの一手は戦略的な妙手なのか、それとも失策なのか、注目されるところである。

トランプ、追加関税を示唆しBRICSに狙いを定める

トランプ大統領は「解放日」と称して世界に対等関税を課し、中国に対しては最大54%もの高率関税を課した。これに対し中国政府は「以牙還牙」の方針で米国に34%の追加関税を課して報復した。トランプ氏は中国が報復関税を撤回しなければ、さらなる関税引き上げも辞さないと強硬に警告。中国政府はこれを「詐術の本性を露呈させた」と非難し、対抗措置を最後まで続ける姿勢を示した。

米中貿易戦争は激しい応酬が続き、両国は互いに譲らず激しい対立状態にある。しかし複雑な駆け引きを経た結果、結局は元の状況に戻ったとも言える。変わりやすく、誇張や過剰な手法を繰り返すトランプ氏は中国のネットユーザーから「川建国」と揶揄されてきた。最近の多くの海外メディアの分析は、「トランプは習近平国家主席に思わぬ贈り物をした」と指摘している。

トランプ氏は中国だけでなくブラジルにも敵意を持ち、他国の内政に干渉する行動をとっている。ブラジルのルラ大統領はトランプ氏の発言を強く非難。ドル覇権を批判した後、トランプ氏は自身のSNSでブラジル前大統領のボルソナロ氏を「魔女狩りの被害者」と擁護し、現政権に「手を出すな」と警告した。トランプ氏は自身の初期政権時代にボルソナロ氏と意気投合したが、ボルソナロ氏は現在ブラジル最高裁の調査を受けており、クーデター企ての疑いで政治介入が問題視されている。

2017年9月4日、金磚五国のリーダーが厦門サミットで撮影した集合写真。左から当時のブラジル大統領テメル、ロシア大統領プーチン、中国国家主席習近平、当時の南アフリカ大統領ズマ、インド首相モディ(AP通信)。
2017年9月4日、金磚五国のリーダーが厦門サミットで撮影した集合写真。左から当時のブラジル大統領テメル、ロシア大統領プーチン、中国国家主席習近平、当時の南アフリカ大統領ズマ、インド首相モディ(AP通信)。

こうした中、米中対立が激化し地政学的リスクが高まるなか、米連邦準備制度の金融政策の波及効果もあり、BRICS(新興5か国)はドル離れの動きを強めている。中国とロシアの2023年の双方向貿易は2401億ドルの過去最高を記録し、その92%が自国通貨(人民元およびルーブル)で決済され、もはやドルは使われていない。サウジアラビアも中国との石油取引に人民元を一部使用している。2024年10月に開催されるBRICS首脳会議では、ロシアのプーチン大統領が「BRICSコイン」を披露する予定であり、トランプ氏を震え上がらせているとも伝えられている。
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保護主義に反対 BRICS各国が一致

BRICS諸国は近年、自国通貨による決済を推進し、ドル依存の低下を図るとともに、米国の覇権に果敢に挑む姿勢を強めている。今年(2025年)4月のBRICS外相会合および5月の貿易相会合の共同声明には、「一方主義および保護主義に反対する」との文言が盛り込まれ、米国による関税政策を明確にけん制する内容となった。トランプ大統領によるBRICS諸国への関税圧力は、米国が覇権的地位の揺らぎに対して強い危機感を抱いていることの表れと受け止められている。