米国が自ら科学大国の座を放棄 研究費80億ドル削減で人材流出が加速

2025-05-26 19:12
2025年5月16日、アメリカのトランプ大統領がアブダビ大統領府で開かれた円卓会議に出席した。(AP通信)
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トランプ政権が発足してわずか4か月が経過したが、「MAGA(アメリカを再び偉大にする)」派を中心とする政府関係者らは学術研究への攻撃を続けている。ハーバード大学やコロンビア大学への補助金が削減され、ハーバード大学は国際学生の受け入れが困難な状況に追い込まれ、連邦政府による先端研究への資金提供も相次いで停止されている。トランプ氏とMAGA陣営の理由が「反覚醒」や「反ユダヤ主義対策」であろうと、英エコノミスト誌は22日、米国が科学覇権を権威主義的な中国に譲り渡し、その恩恵を失いつつあると警告を発した。これは多様性や平等の価値観、大学教育の問題にとどまらず、米国が自らを傷つける愚行だと厳しく批判している。

『エコノミスト』誌が指摘するように、米国の科学者らは世界で最も優秀な存在として知られてきた。米国には世界トップクラスの大学があり、ノーベル賞受賞者を数多く輩出してきた。米国は最も影響力のある研究論文の主要な発信地であり、連邦政府や産業界からの驚異的な補助金(連邦政府だけで年間1200億ドル=約18兆6000億円)により、米国は研究に巨額の資金を投じてきた。しかし今や米国のトップ科学者らは困難に直面している。トランプ政権が短期間で既存の資金提供や研究手法を覆してしまったからだ。

トランプ政権の最初の標的は「多様性、公平性、包摂性(DEI)」政策だった。政権側はこれらの「覚醒」の旗印を掲げる干渉が科学に害をもたらすと宣言した。しかしトランプ政権が順次中止する研究には、地球化学から量子物理学に至るまでの幅広い分野も含まれている。国立衛生研究所(NIH)、国立科学財団(NSF)、国防総省、エネルギー省による学術研究への資金提供が影響を受けた。トランプ氏がホワイトハウスに復帰してから、約80億ドル(約1兆2400億円)の研究資金がキャンセルまたは撤回され、これは連邦政府の高等教育支出の16%に相当する。122億ドル(約1兆8900億円)の資金が一時停止されたが、後に裁判所によって回復された。

「反覚醒」から科学への攻撃が本格化

Grant Watchのデータによると、国立衛生研究所と国立科学財団は3000以上の承認済み補助金をキャンセルし、エネルギー省や国防総省も多数の補助金を撤回した。誤情報対策、新型コロナウイルスやワクチン、DEI関連の研究、気候変動、さらには名門大学で進行中の研究プロジェクトに関連する研究計画の多くが削減対象となっている。トランプ氏はまた、国立衛生研究所の予算を38%(約180億ドル=約2兆7900億円)削減し、国立科学財団の47億ドル(約7300億円)の予算を削減し、NASAの科学任務理事会の予算も半減させようとしている。 (関連記事: 特別インタビュー》中国人科学者の“帰国ブーム”? IBM退職エンジニアが暴く「民主主義の灯台」の暗部:「中共は独裁だが現実的」 関連記事をもっと読む

トランプ政権の目標は連邦研究機関の支出を400億ドル(約6兆2000億円)削減することであり、多くの機関が既に人員削減に着手している。国立衛生研究所(NIH)は3月に2万人の職を削減すると発表し、環境と気候研究を担当する国家海洋大気庁(NOAA)は約1300人の職を削減している。国立科学財団も人員削減を予定していたが、現在は連邦裁判所により一時的に阻止されている。さらなるコスト削減措置として、連邦政府は大学への補助金額にも厳しい上限を課している。5月15日までにハーバード大学では国立科学財団の補助金188件が停止されており、ハーバード医学校のほぼ全ての連邦拠出金がキャンセルされ、コーネル大学、ブラウン大学、ノースウェスタン大学、プリンストン大学、ペンシルバニア大学も数十億ドル規模の拠出金が凍結され、新材料、超伝導、ロボット、衛星研究に影響が及んでいる。