台湾の鴻海精密工業は、フランスの大手企業Thales(タレス)およびRadiall(ラディアル)と提携し、約2億5000万ユーロ(約430億円)を投じて、ヨーロッパ初となるファンアウト型ウエハーレベルパッケージ(FOWLP)対応の先進的な半導体パッケージングおよびテスト工場を建設する計画を発表した。
フランス在台協会の代表である龍燁(フランク・パリス)氏は5月20日に行われたメディア合同インタビューで、「これは単に鴻海一社のフランス進出にとどまらず、台湾の他のサプライチェーン企業がヨーロッパへ進出するきっかけともなり得る」と語った。
今回の新工場は、自動車用半導体、宇宙関連技術、次世代通信である6G、防衛産業の4分野を中心に展開される予定。2031年までに年産1億個を超えるシステム・イン・パッケージ(SiP)部品の生産体制を目指し、フランスを拠点に欧州市場全体へのサービス提供を見据えている。
フランスを進出先に選んだ背景には、同国の宇宙・防衛分野における産業基盤の強さがあり、台湾企業側もその競争力に着目している。鴻海とThalesの協業は半導体パッケージの分野にとどまらず、低軌道衛星の量産に向けた技術連携にも踏み出しており、2023年11月には鴻海が自社開発した衛星「真珠号(Pearl)」の打ち上げに成功。今後の宇宙事業の展開にも弾みがついている。
龍燁氏は、Thalesが欧州の宇宙産業を牽引し、Starlink(スターリンク)欧州計画にも参加している点を挙げ、「この連携はフランスの宇宙戦略とも一致し、産業イノベーションへの期待にも応えるものだ」と強調。「鴻海にとっても、国際的な高付加価値サプライチェーンへの参入を果たす重要な節目になる」と語った。
この共同投資案は、今週フランスで開催された「Choose France」サミットにて正式に発表された。同イベントは2018年にエマニュエル・マクロン大統領によって創設された外国企業誘致のための年次フォーラムで、今年は200人以上の世界の企業トップが参加。53件の外資系投資プロジェクトが公表され、鴻海はその中でも最も注目を集めたアジア企業の一つとなった。
龍燁氏は、「この投資はフランスと台湾の経済関係をより高い次元へと引き上げるだけでなく、ヨーロッパにおけるチップ供給網の整備にも貢献する」と述べた。TSMC(台湾積体電路製造)がドイツ・ドレスデンで車載チップを中心に工場建設を進めているのに対し、鴻海はより先端的なパッケージング技術に焦点を当てており、両者は相互補完的な関係を築いているという。
「これはヨーロッパの半導体戦略の次なるステップであり、台湾企業がグローバルな展開を加速する転機となる」との認識を示した。
産業面の協力に加えて、科学研究分野でも台湾とフランスの連携が深まっている。過去18カ月間で、半導体、人工知能(AI)、海洋科学、量子技術といった分野での協力体制が徐々に整いつつあり、台湾の工業技術研究院(ITRI)との戦略的マッチングも進展。フランス企業が台湾の高度に発達したサプライネットワークに参入できるよう支援が行われている。
「多くの欧州中小企業は、どこにアクセスすべきか分からない。我々は、その“入り口”を一緒に探している」と龍燁氏は率直に語った。
一方で、グローバル規模の投資誘致競争も激しさを増している。龍燁氏は、トランプ前政権が関税政策を通じて企業をアメリカに呼び込んだことに触れ、現在のバイデン政権は補助金制度を活用して外資系企業の誘致を進めていると指摘。さらに、「トランプ氏自身はより強硬な姿勢で再び投資競争を激化させている。これは一時的な現象ではなく、長期的かつ熾烈な国際的な投資の綱引きだ」との見方を示した。
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編集:田中佳奈
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