「中国大使が行けぬ場所に彼女が立つ」 蔡英文氏、欧州歴訪で台湾の声届ける──国際社会で台湾の存在感を強調

2025-05-22 16:06
台湾・前総統の蔡英文(中央)はロンドン時間15日に英国議会を訪問し、特別講演を行った。(蔡英文オフィス提供)
台湾・前総統の蔡英文(中央)はロンドン時間15日に英国議会を訪問し、特別講演を行った。(蔡英文オフィス提供)
目次

台湾の前総統・蔡英文氏は最近、10日間にわたる欧州歴訪を終えた。『日経アジア』はこの訪問について、中国による国際的孤立圧力に抗しうる台湾の決意を示すものであり、欧州諸国との関係強化にもつながったと評価している。昨年に総統職を退いた蔡氏だが、いまなお台湾の重要な政治的リーダーとして、国際舞台での台湾の存在感を高めるために積極的な外交活動を続けている。

蔡氏は5月10日にリトアニア入りし、同国の元大統領グリバウスカイテ氏、元外相ランズベルギス氏、複数の国会議員と面会した。また、デンマーク・コペンハーゲンで開催された「コペンハーゲン民主主義サミット」にて基調講演を行い、イギリスでは上院で演説し、下院のホイル議長とも会談した。さらに、ヴィリニュス大学、ケンブリッジ大学、そして自身が1980年代に法学博士課程を修了したロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)でも公開講演を行った。

LSEでの講演で蔡氏は「いま世界は、不確実性と予測不能性に満ちた全く新しい地政学的局面にある」と警鐘を鳴らし、民主主義国は安全保障の責任分担を見直すべきであり、EUも集団的安全保障能力の向上を急ぐ必要があると述べた。現在の貿易摩擦は、数十年にわたって築かれてきた国際貿易秩序を揺るがしているとも指摘した。

『日経』は今回の欧州歴訪を、蔡氏が昨年10月にチェコ、フランス、ベルギーを訪れて以来の新たな外交突破であり、欧州議会を訪問した初の台湾前総統としても歴史的であると伝えている。台湾初の女性総統である蔡氏は、退任後も依然として高い支持率を維持している。

同紙はまた、蔡政権下で台湾の外交承認国は22カ国から12カ国に減少した一方で、米国、日本、英国などとの実質的な関係は著しく深化したことにも言及。2023年には英国が台湾と象徴的な貿易協定を締結し、台湾への先端技術の輸出を強化するとともに、中国の軍事的威圧を非難し、台湾の国際機関参加を支持するなど、関係は多面的に進展している。

中国大使が行けない場所に、蔡英文氏は行ける

対中政策を扱う国際議員連盟「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」のルーク・デ・パルフォード事務局長は、「台湾は英国にとって重要な貿易パートナーであり、その本質は経済規模以上に、台湾が供給する半導体の不可欠性にある」と述べ、今回の蔡氏の訪問は、従来外交慣例や中国の圧力により空白となっていたハイレベル交流のギャップを埋めるものだったと評価した。

とりわけ蔡氏が英国議会で演説を行い、議長と会談できたことは、中国の駐英大使ですら立ち入ることのできない場所であることからも、その意義は大きいと強調された。

蔡氏はまた、19日に英国国防・安全保障シンクタンク「英王立防衛安全保障研究所(RUSI)」のフォーラムにおいても講演を行っている。英国議会では、中国による英議員への制裁を受け、中国大使の議会立ち入りを禁止する決議が採択されている。

台湾と欧州の協力深化の好機

欧州連合(EU)の駐台湾代表であるルッツ・グルナー氏は19日、台北で開かれた外国人記者クラブでの記者会見にて「台湾はEUにとって志を同じくするパートナー」であり、「EUの台湾への投資額は、米国と日本の合計をも上回っている」と語った。トランプ米大統領の第二任期の不確実性が高まる中、蔡氏の今回の訪欧は、台湾と欧州との実質協力を深化させる貴重な機会となった。

また、チェコのシンクタンク「欧州価値安全保障政策センター」台湾事務所のマルチン・イェルジェフスキ所長は、蔡氏の訪問について「民進党政権が安定と一貫性を維持できる力量を示した」と評価。一方、国民党の朱立倫主席が頼清徳総統をヒトラーに例えた発言が欧州外交官の反発を招いた件にも触れ、「与党と野党の国際的なイメージの差が如実に表れた」と述べた。

イェルジェフスキ氏は「米国の政治状況が不安定な今、台湾は欧州に対して明確な政治的メッセージを発信すべきだ」と強調し、台湾と欧州の産業・投資分野での実質的な協力推進を呼びかけた。 (関連記事: 視点》「個性」が制度を揺るがす──蔡英文から頼清徳へ、変わる台湾政治の統治美学と対立の構図 関連記事をもっと読む

中国語関連記事

編集:梅木奈実

台湾ニュースをもっと深く⇒風傳媒日本語版X@stormmedia_jp

最新ニュース
台湾は「唯一無二」の生産拠点 TSMCが3カ国の誘致を断った背景とは?
ニューヨーク観察》米国抜きで国際秩序は成り立つか──混乱か、それとも新たな希望か
舞台裏》台湾軍「盲目剣士」作戦は中国軍の攻撃網を破れるか? 印パ戦争の教訓が台湾の空軍・潜水艦・非対称戦略に焦りを与える
インフルエンサー・ゲーム・ショート動画は政府対外宣伝より効果大! 英エコノミスト誌が「ソフトパワー」による「クールチャイナ」実現を分析
論評》台湾・頼清徳総統、就任1周年演説で「中国」への言及避ける 「異例」演説に国内外の注目集まる
インテルが台湾進出40年》新CEOが宣言「技術重視に回帰」 AI時代へ台湾との連携強化
人気インフルエンサー2人が相次ぎ射殺 ラテンアメリカでフェミサイド深刻化
論評:行政院長・卓栄泰氏、脱原発問題で「的外れ」発言。 電力供給の話ではない!
衛藤征士郎氏「台湾のCPTPP加入を断固支持」 日本政府に国際参加の後押しを呼びかけ
韓国大統領選》残り2週間、李在明が保守派の牙城を突破⁈ “Z世代”1200万票は誰を支持するのか、勝敗の鍵となる恐れ
トランプ氏のTSMC圧力後、「半導体の盾」は台湾を守れるか?独メディア:黄仁勲氏が故郷の安全支持、NVIDIAが台湾の盾新核心に
北朝鮮、駆逐艦の進水式で重大事故 金正恩氏一部始終目撃「犯罪的行為」と激怒
頼清徳総統、就任一周年挨拶!主権ファンド設立を発表 与野党対話で意見の相違解消を期待
小泉進次郎氏が新農水相に就任 「需要あれば備蓄米を無制限に放出」 米価安定へ全力
欧陽娜娜、台湾政府により国籍取消、終身入国禁止? 事実検証センターが語る
独占インタビュー》半導体トップ!フランス官員:台湾フランスがAI技術同盟構築、三軸戦略とエネルギー配置を開始
米版「アイアンドーム」Pro Max登場! トランプが「ゴールデンドーム」ミサイル防衛システム推進、超高額な最新鋭防衛網を構築へ
NVIDIAの新契約スキーム公開 取引額は1000億元近く、このルートが重要
北京観察》NVIDIAが上海にAI研究拠点を設立か 台湾本部への影響懸念も
視点》「個性」が制度を揺るがす──蔡英文から頼清徳へ、変わる台湾政治の統治美学と対立の構図
AIが「心の相談相手」に?広がるチャットボット依存と自殺トラブルの現実
電気代1kWh=49円!?原発ゼロ台湾に忍び寄る「蓄電バブル」
台湾・民進党、中国スパイ関与の党員5人を除名 「台湾を傷つける行為は容認せず」
「日本国債ショック」再び?20年債入札が歴史的低調、長期金利急騰で市場に動揺広がる
新たな農相に小泉進次郎氏を起用へ 米価対策に注目集まる
台湾で3人死亡の車暴走事故に新展開?78歳運転手、事故直前に市街地で謎の迂回
台湾海峡解読》亜亜事件の波紋──日本メディアで議論沸騰、「武統支持の大陸配偶者」から見える台湾言論空間の限界
在韓米軍司令官「韓国は中国の玄関口に浮かぶ空母」 台湾有事で韓国安保に懸念の声広がる
頼清徳総統が就任1周年演説 政府系ファンド創設など7つの政策を発表
非AI半導体の需要回復に遅れ──日本の新設ウエハー工場、半数が量産に至らず 市場シェアは過去40年で最低水準に
頼清徳総統の支持率が急落、背景にある「ある人物」の存在とは 日本の小笠原教授が指摘、民進党の罷免戦略にも影響か
舞台裏》台北市がNVIDIA本社を勝ち取った理由──蔣萬安市長と“極秘チーム”の存在
日米関税交渉が第3ラウンドへ 赤澤亮正氏が再訪米も「日本の存在感に陰り」?
台湾・高一生家族の「音楽と人権」の物語、東京で展覧会 白色テロを越えて響く自由の歌
櫻井翔が台湾総統に単独インタビュー 頼清徳氏「中国の脅威は世界の問題」日米に協力呼びかけ
任天堂「スイッチ(Switch)2」、主要チップはサムスン製に 6月発売予定で生産体制強化
10月、松江の「彩雲堂」で国際フォーラム開催予定 台仏と連携し食文化発信
「ロシア制裁」について避け続ける、エコノミスト誌が批判:トランプはプーチンに対し異常なほど軟弱だ
島根県最年少県議・中村絢氏が台湾訪問 出雲神話で文化交流 10月には松江で国際フォーラムも
かつてない警告! 馬英九:アメリカは賴政府の統治能力を疑い始めており、「抗中」路線を停止すべき
李忠謙コラム:米中貿易戦争停戦、全世界が注目 トランプ脅威に対して急いで譲歩する必要なし
ウクライナ苦難、アメリカは見捨てるのか? トランプがロシア・ウクライナの交渉に介入せず、ゼレンスキー「唯一の受益者はプーチンだ」
台湾・小学校前で重大事故 78歳運転手が暴走し15人死傷 頼清徳総統が遺族に哀悼
台湾の小学校前で車が突入 子ども含む12人負傷3人死亡、「また高齢運転」に怒りの声
バイデン前大統領、前立腺がんが骨髄に転移 再選断念の背景に健康問題か
埼玉・三郷市小学生ひき逃げ事件 42歳中国籍の運転者と同乗者逮捕
米中対立は世界の分水嶺に──台湾は孤立しているのか?ハーバード大教授が警鐘
特別インタビュー》中国人科学者の“帰国ブーム”? IBM退職エンジニアが暴く「民主主義の灯台」の暗部:「中共は独裁だが現実的」
ワールドマスターズゲームズ2025が台湾・台北で開幕 感動の開会式に各国選手が歓声「一生に一度のスター体験」
インタビュー》カナダ高級ホテルブランド・フェアモント、日本進出 総支配人「台湾の旅行者と市場に期待」