台湾は「唯一無二」の生産拠点 TSMCが3カ国の誘致を断った背景とは?

TSMCの拠点誘致をめぐり、世界各国が引き続き積極的な姿勢を見せている。(AP通信)
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半導体は今や「国家安全保障戦略物資」としての地位を確立し、各国は自国のAIと半導体技術の競争力強化にしのぎを削っている。その中でも世界有数の半導体受託製造企業であるTSMC(台湾積体電路製造)の海外展開は、世界のテック業界に大きな影響を与える。

台湾の業界メディア『DIGITIMES』によれば、現在TSMCはすでに台湾、米国、日本、ドイツにおける工場拡張計画を確定させている。しかし、供給チェーン関係者の話によると、これらの国以外にもインド、シンガポール、中東のカタールなどが、熱心にTSMCの誘致を試みていたという。

とはいえ、こうした国々からの真摯な誘いにもかかわらず、TSMCは最終的にこれらの提案を断る決断を下した。

台湾の地位は揺るがず──海外進出は「必要に迫られた選択」

TSMCにとって、台湾は常に最も理想的な生産拠点であるという。関係者によれば、海外進出はあくまでも「やむを得ない」判断であり、主に以下の理由に基づいて、米国・日本・ドイツを選定したという。

1.大国の大きな圧力:これらの国々は半導体産業チェーン上で重要な役割を担っており、優れた設備や材料、IC設計の技術力を有しているため、TSMCとしてもその要請を無視することが難しかった。

2.世界的な生産能力の調整供給過剰を避け、需給のバランスを取る必要性があり、また今後予想される繁忙に対応するため、生産能力の分散配置は不可欠だった。

一方で、中東諸国も近年AIと半導体分野への強い関心を示しており、将来的にTSMCがこの地域への進出を検討する可能性は、完全には排除されていない。

地政学リスクとともに前進──TSMCは危機の中でも技術で優位

米中間の対立激化、米国による中国へのAIおよび半導体関連の輸出規制、さらにはトランプ前大統領が示唆する関税や「チップ税」の再来といったリスクが浮上する中、TSMCはこれらの外圧を受けながらも、着実に前進を続けている。

同社は外的な困難を乗り越える強い自信を持ち、仮に影響が生じたとしても、それは限定的であり、十分にコントロール可能だと見ている。

実際、TSMCは近年連続して利益の最高記録を更新しており、3ナノメートル以下の先端プロセス技術ではIntelやSamsung Electronicsを大きく引き離している。世界中の主要チップメーカーからの発注も継続しており、先端工程における生産能力と技術面で、事実上独占的な地位を築いている。

こうした背景から、TSMCに対する各国の政治的圧力も限界があり、その世界的地位は当面揺らぐことはなさそうだ。 (関連記事: 非AI半導体の需要回復に遅れ──日本の新設ウエハー工場、半数が量産に至らず 市場シェアは過去40年で最低水準に 関連記事をもっと読む

中東・インド・シンガポールの誘致を辞退──人材・基盤・技術要件が課題

供給チェーン関係者によると、中東各国はTSMCに対して非常に誠実な姿勢で誘致を申し出ており、「資金は問題ではない」とまで語った国もあったという。それでもTSMCがこれらの国々の提案を見送った背景には、次のような理由がある。