非AI半導体の需要回復に遅れ──日本の新設ウエハー工場、半数が量産に至らず 市場シェアは過去40年で最低水準に

台積電(TSMC)の魏哲家CEOは、熊本工場について「2030年までに現地調達率60%の達成を目指す」と発言。写真は熊本にあるTSMCの半導体工場。(AP通信)

長崎県諫早市

​『日経アジア』が5月20日に報じたところによると、過去2年間で日本国内に新設された7つの半導体工場のうち、今年4月時点で量産体制に入ったのはわずか3件にとどまっている。非AI向けチップの需要回復が想定よりも鈍く、数兆円規模の国内投資が実を結んでいない状況が浮かび上がっている。

報道では、米中対立の激化を受け、日本政府が自国の半導体生産能力強化を急ぐ中、2022年から2029年にかけて約9兆円の投資が見込まれているほか、2030年度末までに政府による支援総額は10兆円を超えるとされる。しかし、《日経》の調査によれば、ここ2年間に行われた9社への投資は、いまだ目に見える成果にはつながっていないという。

背景には、非AI分野の半導体需要の弱さがある。パソコンやスマートフォンの販売が低迷する中、業界団体SEMIのデータによると、昨年の世界の半導体工場の稼働率は60〜70%にとどまり、「健全」とされる80〜90%を大きく下回っている。

ルネサスエレクトロニクスは、2024年4月に甲府工場の再稼働を予定していたが、電気自動車(EV)関連などの需要低迷を受け、計画の見直しを余儀なくされた。柴田英利社長は先月、「市場環境は依然として極めて不透明。慎重な対応が求められる」と語っている。

他社でも同様の動きが見られる。ロームは2023年に取得した工場で試作に着手したものの、量産開始の時期は未定。サンケン電気は生産能力強化のため施設を取得したが、全面稼働を少なくとも2年延期している。また、キオクシアホールディングスは今年9月に新メモリ工場の稼働を予定していたが、2023年に完成した同工場について、需要回復を見極めたうえでの稼働に切り替えた。

ソニーグループも長崎県諫早市の既存拠点において新たなセンサー工場の建設に着手したが、生産設備の導入は当面見送り、市場の状況を見ながら進める構えを見せている。『日経』によれば、半導体工場は建設から本格稼働まで通常18〜24か月を要し、ソニーはまず既存工場の生産能力を最大化させた後、新工場の稼働を本格化させるとしている。

1988年当時、日本企業は世界の半導体市場で約50%のシェアを握っていたが、その後、韓国や台湾勢との価格競争で劣勢となり、最先端プロセスからの撤退を余儀なくされた。調査会社Omdiaのデータによれば、日本の2023年の世界半導体販売シェアは前年比1.7ポイント減の7.1%と、1980年代以来の最低水準に落ち込んでいる。

現在、世界の最先端工場では2ナノメートル(nm)プロセスでの量産が進む中、日本国内の工場では依然として12nmプロセス止まり。多くの国内企業が40nm以上の製造にとどまっており、AIチップの開発・生産競争では諸外国に大きく水をあけられている。生成AIの需要拡大が続く中、日本は取り残されつつある。

台湾積体電路製造(TSMC)の日本法人である「JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)」が昨年12月に熊本での量産を開始したが、一部では稼働率の低さを懸念する声もある。TSMCは当初、2024年度内に第2工場の建設開始を予定していたが、着工は年度内に延期。ただし、2027年度の量産開始という目標は現時点で維持されている。

編集:田中佳奈