Rapidusが日本半導体産業復興に挑む──7兆円を投じ、2ナノメートルに続き2029年に1.4ナノメートルの量産を目指す

北海道千歳市におけるRapidusの生産拠点のイメージ(画像/Rapidus公式サイト提供)
北海道千歳市におけるRapidusの生産拠点のイメージ(画像/Rapidus公式サイト提供)
目次

先端半導体の開発競争が1ナノメートルの壁に迫る中、TSMCは台湾・中部科学園区で1.4ナノメートル世代の新工場建設を進めており、2028年の量産開始を見込んでいる。一方、日本の半導体復活の切り札とされるRapidusも歩みを速め、2027年には2番目の工場建設に着手し、2029年の1.4ナノ量産を目標に掲げている。

Rapidusが経済産業省に提出した最新の事業計画書によると、投資総額は従来見通しの5兆円を大幅に上回る7兆円へと引き上げられた。日本の産業技術の底力が問われる規模であると同時に、国家としての信用を背景にした大規模な「賭け」に踏み出した形だ。

Rapidusはこの計画の中で、2031年のIPO(新規株式公開)を明確な目標として掲げている。日本政府にとってIPOは、巨額の支援を投じる半導体産業再興プロジェクトの「出口戦略」にあたる。一方のRapidusにとっては、10年以内に補助金依存から脱し、市場で自立できる企業としての実力を証明することが求められる。

2025年8月26日、Rapidus社長小池淳義がアメリカで開催のHot Chips 2025で基調講演。 (取自Rapidus官網)
2025年8月26日、Rapidusの小池淳義社長が米国で開催された「Hot Chips 2025」で基調講演を行った。(写真/Rapidus公式サイト提供)

技術ロードマップ:2ナノメートルから1.4ナノメートルへの全面推進

Rapidusは、自社が「交差アプローチ」と呼ぶ独自のスケジュール戦略を採用している。限られた時間軸の中で技術開発のペースを圧縮し、TSMCやサムスンとの差をこの10年以上ぶん一気に巻き返す狙いだ。

北海道・千歳市に建設中のRapidus第1工場は、2027年度下半期に2ナノの量産を始める計画だ。この前提となるのが、2025年7月に迎える技術的な大きな節目である。Rapidusは2ナノ世代のGAA(ゲート・オール・アラウンド)技術による試作に成功し、IBMからの技術移転が日本で実際に成果として確認された初めての事例となった。これは、日本が先端プロセスの入口に再び立ったことを示す重要な指標と受け止められている。

ただし、日本が先端ノードで再び発言力を取り戻すには、2ナノだけでは足りない。「日経アジア」によれば、Rapidusは2027年度に第2工場の建設を開始し、1.4ナノを最短で2029年初頭に量産へ移行させる計画を描いている。

Rapidusは2026年度から本格的に1.4ナノの研究開発を進め、チャネル長のさらなる短縮、新材料の導入、GAA構造特有の寄生効果の抑制などに重点を置く見通しだ。後工程については、Imecやフラウンホーファー研究機構など海外の研究機関と連携し、2028年度までに日本国内で先端パッケージの量産体制を確立する方針である。

Rapidusが日本経済産業省(METI)に提出した最新の事業実施計画概要。予測では、2027年度下半に2ナノメートルの量産が予定されている。(翻攝EETimesJapan網頁)
Rapidusが経済産業省(METI)に提出した最新の事業実施計画によれば、同社は2027年度下半期に2ナノの量産を開始する予定としている。(画像/EETimes Japan提供)

資金構成:総投資7兆円、日本政府が最大の支柱

共同通信の報道によると、Rapidusの最新の事業計画では、必要な総投資額が7兆円へ引き上げられた。財政赤字の縮小に取り組む日本政府にとって、極めて高い水準のコミットメントであり、政府補助が資本構成の中心を占める構図になっている。 (関連記事: 【護国神山は空洞化するのか(7)】TSMCと正面勝負はしない 日本国家プロジェクトRapidusの「アップルもエヌビディアも狙わない」戦略 関連記事をもっと読む

これまでに政府が約束した支援額は累計2.7兆円を超える。内訳は、すでに決定済みの1.7兆円の補助金に加え、赤澤亮正経済産業相が表明した新たな方針として、2026〜2027年度にさらに1兆円超を量産設備の拡張に投じるというものだ。

しかし、それでも7兆円の投資計画には大きなギャップが残る。民間企業の出資は現在のところ約1,000億円にとどまり、Rapidusが目標とする1兆円には大きく届いていない。残る資金は銀行団からの融資に依存せざるを得ず、金融機関が巨額融資を引き受けられるよう、日本政府は債務保証(Government Guarantee)を提供する方針を示している。

この枠組みのもとでは、Rapidusの資金調達は実質的に国家の信用をてこに進められることになり、その成否は日本政府の財政リスクと密接に結びつくことになる。

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