舞台裏》台湾に浸透する中共スパイ網 大企業から国軍まで狙われた「丁小琥」工作の実像

2025-11-24 17:51
法務部調査局が極秘任務として、中共スパイとされる丁小琥氏が敷いた諜報ネットワークの実態解明を進めている。(写真/蔡親傑撮影)
法務部調査局が極秘任務として、中共スパイとされる丁小琥氏が敷いた諜報ネットワークの実態解明を進めている。(写真/蔡親傑撮影)
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「小五(調査局内部の作戦コード)注意、大廳に接近せよ。」

2024年9月、法務部調査局台北市調査処は極秘任務を実施していた。自動車、バイク、徒歩の追尾チームを展開し、台北市南京東路1段にある神旺ビジネスホテル周辺で待機。監視対象は、中国から入境したとされる不審人物・丁小琥氏だった。

情報提供によれば、68歳の丁氏はその日、ホテルのロビーで友人と会話していた。話のなかで南部の軍事基地に所属する複数の軍官の名前を挙げ、「必ず取り込むように」と友人に指示したという。大胆不敵なやり取りだったが、彼はロビー近くにいた「カップル(変装した調査官)」が会話を密かに録音していることに気付いていなかった。ほどなくして、調査局は「打虎計画(中国スパイ摘発を目的とした作戦名)」を発動した。

録音していた「カップル」は、台北市調査処の調査官がカップル風に変装して尾行していたものだった。この録音内容は翻訳・報告のプロセスを経て上層部に送られ、調査局長・陳白立氏の机に届いた。国家安全部門を率いる陳氏は、丁氏の活動があまりに大胆であると判断し、即座に厳格な対応を指示。台北市調査処に対し、全局的な支援体制を敷くよう命じた。

今回の作戦には台北市調査処に加え、陳局長の指示のもと国家安全担当部署、新店、北機站(調査局の北部機動チーム)も動員。さらに国防部政治作戦局、憲兵指揮部も参加する大規模な態勢となった。

調査局長陳白立。(柯承惠攝)
調査局長の陳白立氏(写真)は、丁小琥氏の事件について全局的な体制での徹底捜査を指示した。(写真/柯承惠撮影)

中国共産党の正規スパイ 丁小琥氏、台湾の退役将校らを次々と取り込む

捜査は台湾高等検察署の検察官が統合指揮を執り、4度の捜査を経て21カ所を捜索。13人を事情聴取し、16人について証拠を確認した結果、2025年7月下旬、丁小琥氏を含む王文豪氏、譚俊明氏、呂芳契氏、楊博智氏、楊千慧氏、邱翰林氏ら7人を一斉逮捕。『国家安全法』などの容疑で拘束された。譚俊明氏らには退役軍人だけでなく現役軍人も含まれていた。

検察は2025年11月18日、『国家安全法』、『国家秘密保護法』、『陸海空軍刑法』に基づき丁氏らを起訴。調査当局は、丁氏が中共軍委政治部連絡局・南寧工作站(中国人民解放軍の対台湾工作機関)から指示を受け、台湾で組織を拡大し、軍事をはじめとする多分野の機密情報収集を試みていたと指摘した。これは、2015年に鎮小江氏が台湾でスパイ活動を行って以来、中国の工作員が再び台湾に入り込み、情報収集を行っていたことが判明したケースとなった。

国家安全部門の上層部は、今回の起訴が、中国公安が2025年10月28日に立法委員・沈伯洋氏の情報を公表したこと、さらに台湾ネット上で影響力を持つ人物「八炯(台湾の政治系YouTuber)」の温子渝氏や、「閩南狼(親中系インフルエンサーの呼称)」こと陳柏源氏に賞金を懸けた統戦宣伝への対抗措置としての意味合いもあるとの見方を示している。

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