舞台裏》TSMCはなぜ止められなかったのか インテル転職の羅唯仁氏「退職時の行動」に捜査当局も首をかしげた

2025-12-23 16:00
TSMCの「国家の重要核心技術」に当たる2ナノメートル先端プロセスが流出したのか。半導体大国・台湾の信頼を左右する問題として、世界が注視している。(写真/柯承惠撮影)
TSMCの「国家の重要核心技術」に当たる2ナノメートル先端プロセスが流出したのか。半導体大国・台湾の信頼を左右する問題として、世界が注視している。(写真/柯承惠撮影)

「護国神山」と呼ばれるTSMCの一挙一動は、世界の半導体業界のみならず、台湾の安全保障とも密接に関わる問題として注視されている。2025年、検察・調査当局は『国家安全法』違反などの疑いで、TSMCに関連する2件の機密漏洩事件の捜査に着手し、国内では「護国神山」を守る必要性が改めて強く意識されることとなった。

1件目は、2025年8月に明るみに出た、日本と関連のある東京エレクトロン事件である。もう1件は、TSMCで長年要職を務めてきた75歳の元上級副社長、羅唯仁(ルオ・ウェイレン)氏が退職後、米インテル社に転じ、執行副社長に就任した問題だ。これら2つの案件はいずれも、TSMCの「国家の重要核心技術」と位置づけられる2ナノメートル先進プロセスに関わっている。

東京エレクトロン事件と羅唯仁氏の転職問題はいずれも、TSMCが自ら検察・調査当局に通報したことが捜査の端緒となった。羅唯仁氏の件については、TSMCが知的財産および商業裁判所に民事訴訟を提起するとともに、定暫時状態の仮処分を申し立て、被害の拡大を抑える狙いがあったとされている。

半導体、 晶圓。(柯承惠撮影)
台湾の中核産業を支えるウエハー製造は「国家の重要核心技術」と位置づけられ、なかでも2ナノメートル先端プロセスは機密流出事件の焦点になりやすい。写真はイメージ。(写真/柯承惠撮影)

TSMC元社員が「内通者」か 検察が東京エレクトロン社を追加起訴

2025年8月に表面化した東京エレクトロン事件は、台湾高等検察署の知的財産検察分署が、調査局新竹市調査站の捜査を指揮して進めてきた。検察は最終的に、日本の東京エレクトロン(TEL)に所属する陳力銘氏(元TSMC社員)と、TSMCのエンジニアである呉秉駿氏、戈一平氏の計3人を起訴した。TSMCの「国家核心・重要技術」に当たる営業秘密を不正に取得した疑いがあるとして、『営業秘密法』『国家安全法』違反などの罪に問われ、求刑はそれぞれ懲役14年、9年、7年とされる。事件は現在、知的財産および商業裁判所で審理が続いている。

その後、高検署は、東京エレクトロン側が陳力銘氏に対する監督責任を十分に果たしていなかった可能性があると判断し、『営業秘密法』第13条の4、『国家安全法』第8条第7項などに基づく法人責任を問う形で、東京エレクトロン社を追加起訴した。4罪についてそれぞれ罰金が新台湾ドル4000万元(約1億9600万円)、800万元(約3920万円)、4000万元(約1億9600万円)、4000万元(約1億9600万円)とされ、あわせて新台湾ドル1億2000万元(約5億8800万円)の執行を求めた。これは『国家安全法』に基づき法人を起訴した初のケースとされている。
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20250805-調査局連合専案チームにより、2025年7月26日午前8時ごろ台積電2ナノメートルチップ事件に関与したとされる陳容疑者(淡色の服を着た者)を台北市博愛路の台湾高等検察署に送致。(林益民撮影)
高等検察署は、TSMC元社員による機密流出事件を捜査し、陳力銘氏(手前)を逮捕・起訴した。検察は懲役14年を求刑している。(写真/林益民撮影)

捜査当局が早くから違和感 羅唯仁氏はTSMCに「学術界へ」と説明

検察・調査当局が東京エレクトロン事件の捜査を進める中、TSMCの75歳の元上級副社長、羅唯仁氏が退職後、古巣である米インテル社に戻り、執行副社長に就任するとの情報が業界に広まった。この動きは、国家の重要核心技術に直結する人物の進路変更として大きな衝撃を与え、捜査当局の関心を集めることとなった。

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