トランプ再登板後の日米同盟、「米国は日本を守るか」への懸念と日本の役割拡大=千々和・防衛研究所室長

防衛研の千々和室長は、トランプ再登板により同盟への懸念が広がる中、日本が防衛費増額などで自らの役割を拡大し、同盟のバランスを見直すことこそが日米同盟の維持・強化に不可欠だと強調した。(写真/FPCJ提供)
防衛研の千々和室長は、トランプ再登板により同盟への懸念が広がる中、日本が防衛費増額などで自らの役割を拡大し、同盟のバランスを見直すことこそが日米同盟の維持・強化に不可欠だと強調した。(写真/FPCJ提供)

公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は2025年12月18日、防衛省防衛研究所戦史研究センター国際紛争史研究室長の千々和泰明氏を招き、「米国は日本を守ってくれるか ―日米同盟の歴史と展望―」と題したオンライン・プレスブリーフィングを開催した。千々和氏は、トランプ第2次政権発足から9カ月が経過し、同盟の将来に対する懸念が広がる中、歴史的観点から日米安保体制の変遷を解説し、日本の防衛力強化と役割拡大の重要性を強調した

防衛研の千々和室長は、トランプ再登板により同盟への懸念が広がる中、日本が防衛費増額などで自らの役割を拡大し、同盟のバランスを見直すことこそが日米同盟の維持・強化に不可欠だと強調した。FPCJ
防衛研の千々和室長は、トランプ再登板により同盟への懸念が広がる中、日本が防衛費増額などで自らの役割を拡大し、同盟のバランスを見直すことこそが日米同盟の維持・強化に不可欠だと強調した。(写真/FPCJ提供)

会見の冒頭、千々和氏はトランプ大統領が過去に「日本が攻撃されれば米国は犠牲を払って守るが、米国が攻撃されても日本はソニーのテレビで見ているだけだ」と不満を述べたことや、今年3月にも「米国は日本を防衛しなければならないが、日本にはその義務がない」と発言した事実に言及した。こうした米国側の姿勢を受け、日本の世論にも動揺が広がっており、朝日新聞が今年2月から4月にかけて実施した世論調査では、「いざという時に米国は本気で日本を守ってくれると思うか」という問いに対し、「そうは思わない」との回答が77%に達している現状を指摘した

千々和氏は日米同盟の構造について、1951年の旧安保条約では米国に日本防衛義務がなく「片務的」だったが、1960年の改定で米国の防衛義務が明記され「相互的」な条約になったと解説した。しかし、その内容は日本が基地を提供し(モノ)、米国が日本を防衛する(ヒト)という「非対称」な協力関係に基づいている。トランプ政権はこの「非対称性」を「片務的(不公平)」と捉えている可能性があり、1960年時点の合意に固執せず、時代の変化に応じてバランスシートを見直す必要があると千々和氏は論じた

その具体的な取り組みとして、日本はこれまでも1999年の周辺事態法や2015年の平和安全法制(存立危機事態における限定的な集団的自衛権の行使容認)を通じて役割を拡大してきた。さらに、2022年に改定された安保三文書に基づき、防衛費を5年間で43兆円に増額し、多次元統合防衛力を構築するための財政基盤を強化している点も挙げた。また、今年3月に創設された「統合作戦司令部」は、米インド太平洋軍司令部との連携を強化し、運用・統合・同盟強化の相乗効果を生む重要な枠組みであると評価した

台湾情勢に関しては、日中共同声明などで確認された「一つの中国」原則について、米国は「認識(acknowledge)」し、日本は「理解し尊重する」という立場をとっているが、これはあくまで「平和的解決」が前提であると強調した。千々和氏は、力による一方的な現状変更は認められず、台湾有事の抑止には日米同盟の強化に加え、同志国との連携が不可欠であるとの見解を示した

質疑応答では、日本の核武装の可能性について問われ、千々和氏は「被爆国としての国民感情、非核三原則、NPT体制に加え、地理的脆弱性というリアリスト的な観点からも単独核武装は合理的ではない」と否定的な見解を示した

その上で、米国の「拡大抑止」の信頼性を高める協議を継続することが現実的な道筋であると述べた。また、徴兵制の復活については本格的な議論はなく、少子化に伴う人員不足には無人化技術の導入や自衛官の処遇改善で対応すべきだとした

最後に千々和氏は、日本の自主性を高めることは単独防衛ではなく、日米同盟をより強固にするためのものであると結んだ

世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版X:@stormmedia_jp

最新ニュース
ジェットスター・ジャパン、東京(成田)―高雄直行便が就航
第76回NHK紅白歌合戦、出場歌手の曲目決定 全曲一覧と見どころ発表
切りつけられたバイク運転手は無事だったのか 台北駅・中山駅の無差別襲撃、死者4人に 被害者一覧
香港民主派の象徴・黎智英氏に有罪判決 終身刑の可能性も、国際社会に波紋
台北駅で煙幕弾投擲、逃走した男が繁華街で刃物襲撃 複数人死傷
外国人の不動産取得、国籍登録を義務化へ 政府が実態把握強化、2026年度中に実施
永住許可要件に日本語能力追加へ 2027年度にも導入、地域との共生促進狙い
「オレンジの悪魔」と「エメラルドナイツ」、台湾遠征の合間に交流 西門町でフラッシュ演奏後に宵夜で英気補給
寺田倉庫、天王洲で「TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト展」を1月16日開幕
台湾・西門町が熱狂の渦に 「オレンジの悪魔」「エメラルドナイツ」「荘敬高職」三校合同ストリートパフォーマンス実現
経団連外国人政策委員会、入管行政の課題共有 丸山入管庁長官が人手不足と制度改革に言及
台湾、見えない「サイバー戦争」の最前線に 9割が破壊目的、1530億回の攻撃が示す異常事態
台湾・公教年金「削減停止」にまだ波乱? 李来希氏が指摘する民進党の思惑「次はどう再び削るか」
台湾・公教年金「削減停止」法案、三読へ前進か 退職者の給付水準に再び議論火種
90秒で「店の味」 蒸式調理ロボット「STEAMA」、埼玉県内の一部セブン‐イレブン店舗に導入
台湾・台北で無差別襲撃、煙幕弾投擲と刃物で死傷者 行政院長「動機を徹夜で解明」
台湾・台北駅で相次ぐ攻撃事件、煙幕弾投擲と刃物襲撃 1人死亡・8人負傷 警察は「テロ」レベルで捜査
高度3万6000キロの静止軌道で「宇宙のドッグファイト」常態化 米巡視衛星vs中国機動衛星、WP報道が描く新局面
台湾民意基金会の世論調査》行政院長の法案副署拒否に反対42.8%、反対が支持上回る 与野党対立再燃
TSMCアリゾナ工場、来夏に3ナノ設備を設置へ 技術者は段階的に台湾で研修、2027年量産を目指す
台湾民意基金会の世論調査》年金削減停止に逆風 世論調査で反対多数、野党主導修法に打撃
TSMC米国投資は成功か 市民団体CCU代表が指摘する「半導体回帰の隠れたコスト」
メキシコ、アジア製品に最大50%関税へ 新たな貿易摩擦の引き金となる可能性
舞台裏》台湾・新竹市長の高虹安氏、汚職無罪を聞いた瞬間に漏れた二言 「高飛車」批判の渦中で抱えた1年の恐怖
80年続いた平和は終わるのか 欧州指導者が国民に異例の警告「ロシアとの衝突はすぐそこまで来ている」
槇村香の等身大立像が登場 「シティーハンター大原画展」上野の森美術館で12月28日まで
玉置浩二、紅白特別企画に登場 3年ぶり書き下ろし新曲「ファンファーレ」初のテレビ披露へ
GREEN×EXPO 2027公式ライセンス商品に「ブラック」新色 大人向けデザインが12月22日発売
連続テレビ小説『あんぱん』、紅白特別編に ショートドラマ&出演者スペシャルステージ決定
連合・芳野友子会長、2026春季生活闘争で「5%以上の賃上げ」継続を表明 労働時間規制緩和には反対を明言
潜水艦エンジンのデータを20年にわたり改ざん 川崎重工は防衛省から取引停止処分、現役のおやしお・そうりゅう・たいげい型にも影響
TSMC米工場、想定以上に進展 3ナノ量産を2027年に前倒し、最先端半導体拠点が本格始動へ
コスモスイニシア、横浜・白楽に全63戸の新シェアレジデンス 2026年2月21日入居開始へ
アスコットジャパン、国内全21プロパティでGSTC認証を取得
電通・電通デジタル・DAZN、データクリーンルームを共同構築 スポーツ視聴データ活用で広告効果測定を高度化
台湾茶業者が仏の世界茶葉大賞で受賞 会場で中国籍とみられる人物が妨害 林佳龍外相「長年の縁がある茶農」
WBC日本戦、Netflixが独占配信へ 全47試合をライブ・見逃し対応、地上波放送は実施せず
中国が「訪日自粛」呼びかけも影響限定 訪日外国人3900万人超で過去最多更新
AIだけではない「同時多発バブル」の時代 投資市場はどこへ向かうのか 2026年「清算の年」への警鐘
台湾・駐日代表の李逸洋氏、元自衛隊統合幕僚長の岩崎茂氏と会談 中国制裁問題と地域安保を協議
若者失業率は全体の3倍水準に 「ネズミ人間」拡大、海外メディアが見る中国経済の「ひび割れ」
TSMC海外投資に見る「台湾モデル」の限界 なぜ日本と米国で差が出たのか
舞台裏》台湾・国民党のネット戦、朱立倫氏が主導権 鄭麗文氏チームは苦戦
伊藤詩織監督『BLACK BOX DIARIES』日本公開へ FCCJで会見、「自分自身を検閲していた」配給の壁と真実への覚悟を語る
米軍、再び石油のために開戦か?トランプ氏が「史上最大の艦隊」によるベネズエラ完全封鎖を命令、「盗まれた資産を全て返すまで」
石垣島~台湾・基隆を結ぶ国際フェリー、年内就航へ 夜行便で約8時間、最安運賃は片道約1万4000円から
TOKYO TORCH、12月20日にクリスマスマーケット開催 タワー建設本格化により現広場イベントは最終回
長崎原爆資料館、「南京大虐殺」表記変更案に市民団体が抗議 「加害の歴史隠し」と批判
G7外相、共同声明で香港の黎智英氏有罪判決を非難 即時釈放を要求
黎智英氏、香港国安法違反で有罪 米国務長官「拷問のような扱い」批判し即時釈放求める