トップ ニュース 高市首相「台湾有事」発言で日中関係が緊迫 朱建栄氏が日本記者クラブで語った「対立の本質」とは
高市首相「台湾有事」発言で日中関係が緊迫 朱建栄氏が日本記者クラブで語った「対立の本質」とは 東洋学園大学の朱建栄教授は、高市首相の「台湾有事」発言が日中関係の基盤を揺るがしていると分析し、中国による2027年武力侵攻説を否定した上で、事態収拾のため日本は「平和統一」を支持すべきだと提言した 。(写真/日本記者クラブ提供)
2025年12月9日、東洋学園大学客員教授の朱建栄氏が日本記者クラブで「中国で何が起きているのか(31)」と題して講演を行った。高市早苗首相の「台湾有事」をめぐる国会答弁を契機に、日中関係がかつてない緊張状態にある中、朱氏は中国側の意図、背景にある論理、そして今後の展望について詳細な分析を語った 。
事態の発端は11月7日の衆院予算委員会における高市首相の答弁だった。台湾関連の質問に対し、首相が「存立危機事態になり得る」と武力行使の可能性を示唆したことにある 。これに対し、薛剣・駐大阪総領事がX(旧Twitter)に「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇(ちゅうちょ)もなく斬ってやるしかない 」と投稿し、日本国内で激しい反発を招いた 。
朱氏は、この投稿について「前半だけ見れば意味不明だが、後半の『覚悟はできていますか』と合わせれば、未来仮定形の警告と理解できる」と解説した 。つまり、現職首相への直接的な殺害予告ではなく、「台湾海峡問題に武力介入するなら侵略行為とみなされ、迎撃される(首を切られる)」という中国側のレッドラインを示した比喩表現であるとの解釈を示した 。しかし、日本側はこれを現職首相への脅迫と受け止め、対立が激化した。
中国が激怒した「構造的要因」 朱氏は、中国側の反応が11月13日を境に一変したと指摘する。当初は外交部レベルの抗議にとどまっていたが、自民党外交部会が総領事の追放を含む措置を求めた後、国防部や観光部門を含む「全面反撃」に転じた 。
中国がこれほど激しく反応する理由として、朱氏は以下の点を挙げた。
第一に、現職の日本の首相が台湾海峡への「軍事介入」を示唆したのは初めてである点だ 。中国側はこれを「台湾独立勢力への誤ったシグナル」と受け止め、高市首相らが意図的に緊張を煽り、中国の核心的利益に挑戦しているとみなしている 。
第二に、日本側の台湾へのコミットメントの加速だ。朱氏は、元自衛隊トップの台湾政務顧問就任や、高市氏自身による過去の台湾訪問、さらには11月の台湾独立派とされる人物への叙勲などを挙げ、これらが積み重なったことで中国側の警戒心が頂点に達したと分析した 。
「2027年台湾侵攻説」の誤解 講演では、世間で囁かれる「2027年中国台湾侵攻説」についても言及があった。朱氏は、2027年は中国人民解放軍の建軍100周年の節目であり、軍の現代化目標の年ではあるが、武力行使の決定年ではないと否定した 。
ただし、中国が武力行使に踏み切る例外的なシナリオとして、「台湾による独立宣言」または「米国の内政失敗を転嫁するための挑発」があった場合を挙げ、中国軍はそのための準備を緩めていないとも付け加えた 。
「1972年体制」の崩壊危機 朱氏が最も懸念を示したのは、高市首相が11月26日の国会で「日本はサンフランシスコ平和条約で台湾を放棄しており、法的地位を認定する立場にない」と発言したことだ 。
朱氏は、1972年の日中国交正常化の際、日本がポツダム宣言(カイロ宣言を継承し、台湾は中国に返還されるべきとする内容)を受諾していることを根拠に、中国側と妥協点を見出した歴史的経緯を詳説した 。高市首相の発言は、この「72年体制」の基盤を揺るがすものであり、中国側は「なし崩し的に台湾は中国の一部という立場を変えようとしている」と疑念を抱いていると指摘した 。
米国の動向とレーダー照射事案 トランプ次期米大統領の動向も影を落とす。朱氏は、トランプ氏が高市首相との電話会談で中国を刺激しないよう求めたとの見方を示しつつ、米国自身は沖縄駐留海兵隊の移転計画に見られるように、第一列島線から軍事力を分散・後退させ、日本や台湾に戦わせる戦略に転換しつつあると分析した 。
また、12月6日に発生した中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射事案については、中国側の主張を紹介した。それによれば、中国側は演習範囲を事前に公表しており、そこに入ってきた自衛隊機に対し、火器管制レーダーではなく捜索用レーダーを使用したというのが中国側の認識であるとした 。
今後の展望と日本への提言 講演の締めくくりとして、朱氏は事態の収拾に向けた提言を行った。
最も望ましい「上の策」は、首相が国会答弁を撤回することだが、政治的に困難であると認めた 。現状のままズルズルと引き延ばす「下の策」は、経済的損失と外交的孤立を招く 。
その上で朱氏は、日本が発想を転換し、「平和的な手段であれば、平和統一を支持する」と表明することを提案した 。これにより台湾海峡の安定に寄与し、日中間の障害を除去できるとした。さらに、日米同盟に過度に依存するのではなく、米中の間で日本の国益に基づいた「プランB(戦略的自律)」を持つべきだと訴えた 。
質疑応答では、民間交流への悪影響についての懸念が出された。朱氏は「政府間の対立が民間に影響すべきではない」と同意しつつも、中国という巨大な船が動く際の影響の大きさを指摘し、双方が冷静に対応する必要性を強調した 。
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