中台関係の緊張が極限に達する中、中国政府が異例の措置に出た。台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室(国台弁)は2026年1月7日、台湾高等検察署(高検)の女性検察官・陳舒怡(チェン・シューイー)氏を「台湾独立の先兵」と名指しし、「終身にわたり法的責任を追及する」と発表したのだ。閣僚級ではなく、実務を担う検察官がターゲットにされたことは、台湾司法界に激震を走らせている。スパイ捜査の最前線に立ち、中国当局を苛立たせる陳舒怡氏とは一体何者なのか。

司法への恫喝、台湾当局は「断固拒否」
今回のリストには、内政部長・劉世芳氏や教育部長・鄭英耀氏といった閣僚に加え、現場の検察官である陳氏が含まれたことが最大の特徴だ。台北地検や新北地検の検察官らに続き、陳氏が標的とされたことに対し、普段は温厚で知られる鄭銘謙・法務部長(法相)も沈黙を破った。「我が国の司法官に対する恫喝であり、断じて受け入れられない」と即座に反論し、中国側の圧力に屈しない姿勢を鮮明にした。
翌8日、頼清徳総統は法務部調査局(FBIに相当)の卒業式に出席。「我々は海外の敵対勢力による脅威に直面している」と述べ、中国による「越境鎮圧」の対象となった捜査員たちの勇気を称えた。頼政権発足後、中国を明確に「敵対勢力」と定義したことで、検察内部でも国家安全法違反(スパイ事件)の捜査がキャリアの要となっている。
台湾ニュースをもっと深く⇒風傳媒日本語版 X:@stormmedia_jp

中国留学中の子供を人質に? 検察官を襲う「見えない圧力」
「国家安全案件」の捜査は出世の近道である一方、諸刃の剣でもある。検察関係者は、ある衝撃的なエピソードを明かす。 かつて、ある主任検察官が、部下が作成した国家安全案件の書類への決裁を拒否したことがあった。理由は「自分の子供が中国の大学に留学しているから」だ。書類に署名することで中国当局にマークされ、子供が拘束や尋問を受けるリスクを恐れたのである。
中国が作成した「ブラックリスト」は、単なる渡航制限にとどまらず、検察官の家族生活にまで心理的な圧力をかけている。それでもなお、陳氏のような検察官が捜査を続ける背景には、強固な職業倫理がある。

潜水艦機密から身内の不祥事まで「寡黙なスパイハンター」
今回、中国から「終身追及」を宣告された陳舒怡氏は、台北大学法律学部卒の司法官第40期生。彼女の評判は一貫している。「とにかく口が堅い」。 メディアの憶測が飛び交う中でも沈黙を貫き、淡々と証拠を積み上げるスタイルで、上層部から絶対的な信頼を得てきた。その実力は、台湾初の国産潜水艦「海鯤(ハイクン)」を巡る機密漏洩事件など、国家の命運を左右する最重要案件を任されるほどだ。
彼女の「容赦なさ」を示す有名な事件がある。調査局(情報機関)内部の不祥事を捜査した際、陳氏は調査局長が不在の隙を突き、検察事務官を率いて調査局本部に「ガサ入れ(家宅捜索)」を強行したのだ。身内の捜査機関であっても聖域を認めないその姿勢は、調査局のメンツを丸潰れにしたが、同時に「彼女には手加減が通じない」という畏怖と信頼を植え付けた。

中国が激怒した「退役中将スパイ事件」の解明
なぜ中国は、一検察官である陳氏をこれほど敵視するのか。その決定的な要因とされるのが、陸軍退役中将・高安国氏による「中華民国台湾軍政府事件」だ。
資金ルートの解明が難航し、捜査が行き詰まる中、陳氏は膨大なデータの中から盲点を見つけ出し、調査局に特定の時間軸に絞った再調査を命じた。その結果、中国側から約962万台湾ドル(約4500万円)が渡っていた決定的な証拠を突き止めたのである。
陳氏は、裁判での勝訴を確実にするため、大陸委員会や国家安全局などあらゆるルートを駆使し、被告と接触した中国側組織の実態を丸裸にした。中国側にとって、曖昧さを一切残さず、資金の流れと組織図を白日の下に晒す陳氏の手腕は、まさに「目の上のたんこぶ」以外の何物でもなかったのだ。
中国による「終身追及」宣言は、彼女が台湾の国家安全を守る「最後の砦」の一人として機能していることの、皮肉な証明とも言えるだろう。
台湾ニュースをもっと深く⇒風傳媒日本語版 X:@stormmedia_jp
編集:佐野華美















































