「ベトナム版・習近平」誕生か?トー・ラム総書記が強権体制へ 党大会前に「集団指導」形骸化の動き

ベトナムのトー・ラム総書記(AP通信)
ベトナムのトー・ラム総書記(AP通信)

ベトナムの最高実力者、トー・ラム(To Lam)共産党書記長が、この東南アジアの国を過去40年で最も劇的な変革期へと導いている。5年に一度のベトナム共産党大会が迫る中、68歳のラム氏は長年の慣例であった「集団指導体制」を打破しようとしている。その姿は、中国の習近平国家主席を模倣するかのように権力を一手に掌握し、総書記と国家主席の兼務を含めた個人崇拝的な権威付けを進めるものと映る。

米経済誌『ブルームバーグ』の特集によると、党大会の開幕を前に、ラム氏は頻繁に故郷のフンイエン省に帰郷し、先祖の墓前で祈りを捧げ、一族の祠の拡張を急ピッチで進めているという。この動きは、自らの血統がいわゆる「革命の正統性」を受け継ぐ愛国者であることを誇示し、党内における自身の正統な地位を強化する狙いがあるとみられている。

しかし、ラム氏が就任後に隠そうともしない集権化への傾向は、党内に強い動揺を引き起こしている。同氏は官僚機構の大規模な簡素化や省級行政区の削減を推し進め、民間部門の地位向上を図っている。これらの改革は外資系企業からは高く評価されているものの、軍部などの伝統的な既得権益層の利益を直接的に脅かすものとなっている。

2024年8月19日、北京を訪問し、中国の習近平国家主席(左)と会談するベトナムのトー・ラム国家主席(当時、右)。(AP)
2024年8月19日、北京を訪問し、中国の習近平国家主席(左)と会談するベトナムのトー・ラム国家主席(当時、右)。(AP)

公安システム出身のラム氏は、1988年から2010年にかけて公安省次官へと昇進を重ねた。2016年には共産党政治局員として、故グエン・フー・チョン(Nguyen Phu Trong)書記長に抜擢され、党内の腐敗掃討作戦を主導。2024年5月に国家主席に選出されたが、折りしもチョン氏が重病に伏したことで党務の兼管が可能となり、同年7月にチョン氏が死去した後は、暫定的に党書記長代理と国家主席を兼任した。

その後、2024年8月にラム氏は正式に党書記長に就任。一方、国家主席の座には軍出身のルオン・クオン(Luong Cuong)氏が就き、ベトナム共産党は再び伝統的な「四頭馬車(最高指導部4ポスト)」体制へと回帰したかに見えた。

「習近平モデル」への追随

実権を握ってからの18ヶ月間、ラム氏はかつてチョン前書記長の下で進めた反腐敗運動「燃える薪」の権限を行使し、党・政・軍の高層部の粛清を開始した。就任以来、多くの要人が失脚し、その対象は前国家主席や副首相、経済界の大物までに及んでいる。

米国の軍事専門家ザカリー・アブザ(Zachary Abuza)氏は、ラム氏が習近平氏の手法、すなわち「反腐敗」を武器化して政敵を排除し、政治局を自身の側近で固めるやり方を学んでいるのは明らかだと指摘する。

ベトナム共産党のトー・ラム書記長。(AP)
ベトナム共産党のトー・ラム書記長。(AP)

ラム氏は同郷の同盟者を中央に抜擢し、さらに実子であるトー・ロン(To Long)氏を公安省の重要職に据えるなどの人事を進めている。こうした動きは、ベトナム共産党が長年維持してきた権力バランスを破壊するものとして、内部からの不満を招いている。 (関連記事: 安倍昭恵氏、習近平夫人へ「手紙」送っていた 亡き夫の遺志と「対中外交」の秘話を語る 鈴木桂治氏らと「ソフトパワー」議論 関連記事をもっと読む

一人独裁を阻む「多頭馬車」と南北バランス

ベトナムは一党独裁制を敷いており、共産党が国内唯一の合法政党だ。内戦による全国統一後、一人の独裁者が現れるのを防ぐため、政府の重要権限を4つのポストに分散させ、南北地域のバランスや軍の利益に配慮してきた。当初は党書記長、国家主席、首相の「三頭馬車」だったが、直近10年は国会主席を加えた「四頭馬車」体制が定着している。

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