2026年1月3日、米軍はコードネーム「絶対的決意」と名付けた軍事突襲を実施し、ベネズエラに対するいわゆる「準・斬首型」作戦を敢行した。デルタフォースを中心とする特殊部隊は、圧倒的な海空戦力の支援を受けて、短時間で同国の防空システムを無力化し、ニコラス・マドゥロ大統領(Nicolas Maduro)の警護部隊を殲滅。マドゥロ大統領夫妻を無傷のまま米国に連行し、裁判にかけた。作戦全体を通じて米軍側の人的損失はゼロだったとされ、世界最強と称される米軍の軍事力を改めて誇示する結果となった。
しかし、この米軍によるベネズエラ大統領への「準・斬首作戦」は、台湾海峡情勢との類比を呼び起こし、さまざまな議論を招いている。米国がこのような前例を作ったことで、中国人民解放軍(PLA)が同様の戦法を「参考事例」として台湾の指導部に対して模倣する口実を与えるのではないかと懸念する声もある。一方で、米軍が圧倒的な戦力差を見せつけたことで、実戦経験に乏しい中国軍にとっては強烈な抑止となり、むしろ中国の習近平国家主席こそが「第二のマドゥロ」になる可能性を心配すべきだという楽観的な見方も存在する。
これに対し、近ごろ中国側のネットユーザーの間では過剰な興奮が広がり、「米軍の行動を手本に、中国 軍も台湾に対して同様の作戦を実行すべきだ」「台湾独立派の指導者を処理してしまえば、両岸統一は一気に実現する」といった声も少なくない。
一方、台湾の国家安全当局関係者や与党・民進党系の政治家の多くは、米軍の行動を一斉に称賛し、「米軍がベネズエラで見せた圧倒的な軍事行動は、中国政権に対する最も強力な警告だ」と評価している。さらに、「ベネズエラ軍の中国製兵器が米軍の前では紙同然だったことは、解放軍が見かけ倒しで恐れるに足らない存在であることを証明した」とする声もある。
しかし、『エコノミスト』誌などの海外メディアや国際軍事専門家の間では、より慎重な見方が主流となっている。彼らは、「中国軍が台湾海峡で米軍のような突襲作戦を再現できる能力を本当に備えているのか」という点を冷静に検証しており、多くの分析は「中国の指導部が一定の心理的な鼓舞を受ける可能性はあるが、現時点では台湾軍の反制を招かずに海峡を越えて行動する能力は、中国軍にはまだない」という結論に傾いている。
2026年初頭、米国がベネズエラに対して軍事行動を開始し、当時のニコラス・マドゥロ大統領(中央)を「生け捕り」にしたニュースは世界に衝撃を与えた。(写真/共同通信・AP通信提供)
米軍のベネズエラ斬首作戦は台湾でも再現可能か ある軍関係者は、「米軍がマドゥロ夫妻の身柄を確保できたのは、単に技術が先進的で実戦経験が豊富だったからではない」と指摘する。実際には、ベネズエラ軍を事前に切り崩して抵抗させなかったことや、マドゥロ周辺の内部協力者を買収して正確な情報を入手したことなど、情報戦と政治工作の要素が極めて大きかった可能性が高いという。
この関係者は、「このような状況をそのまま台湾に当てはめるのは過度な類比にすぎない」と述べ、台湾 軍としては全く同意しておらず、また懸念もしていないと強調した。将来、中国軍の特殊部隊が密かに台北市に侵入し、総統府や総統官邸から誰かを連れ去るといった事態が起きるとは、台湾軍は想定していないという。
台北の地形が「斬首作戦」を阻む現実 この軍関係者はさらに、「米軍がマドゥロ大統領に対して行ったような電光石火の逮捕劇を台湾で再現することは、中国 軍にとって不可能に近い」と断言する。「中国 軍にその能力がないどころか、仮に米軍が同様の作戦を台湾で実行したとしても、成功する確率は極めて低い」との見方だ。
地理的条件だけを見ても、台北市は四方を山々に囲まれた盆地に位置している。仮にヘリコプターなどの飛行体が海面すれすれの低空飛行で侵入したとしても、北台湾の山地に張り巡らされた密集したレーダー網の監視を回避するのは困難だという。
また、淡水河口から台北盆地の中枢部へ突入するという唯一の「近道」は、全行程が台湾軍の多層防空火力の射程圏内にある。ヘリコプター、ドローン、突撃ボートのいずれであっても、淡水河6号水門に接近する前に撃墜・撃破される可能性が高い。仮にわずかな敵部隊が奇跡的に上陸できたとしても、博愛特区に展開する優勢な守備兵力によって包囲殲滅されるのは避けられない、という。
軍関係者は、マドゥロ氏に対する行動を模倣して台湾の政治指導者を「斬首」することは、米軍や中国軍であっても困難であるとの見方を示している。写真はベネズエラでの作戦を視聴するドナルド・トランプ氏。(写真/共同通信・AP通信提供)
「斬首」の標的は台湾の政権中枢に限られるのか 台湾軍関係者は、「少数の特殊部隊で台湾の意思決定中枢を奇襲し、斬首するような作戦は、台海における制空権・制電磁権を確保しない限り、事実上の自殺行為だ。まともな判断力を持つ軍事指導者なら、こんな愚かな作戦は決して実行しない」と断言する。
台湾軍の作戦想定によれば、仮に中国軍が「斬首作戦」を発動するとしても、それは対台湾武力統一作戦の一環として組み込まれるのが前提であり、単独の軍事行動として行われる可能性は極めて低い。すなわち、要人に対する斬首作戦は、台湾封鎖、火力打撃、上陸作戦と連動して実施される構図になるという。
その手法も、米軍がパナマ、イラク、ベネズエラに侵入して指導者を拘束したケースとは異なり、イスラエルがイランやレバノンのヒズボラに対して行ってきた作戦に近いものになるとみられている。具体的には、衛星測位、情報収集、台湾内部に潜伏する共諜からの誘導を組み合わせ、精密誘導兵器や自爆型ドローンを用いて標的を排除する形だ。
衛星画像流出が示した「現実の脅威」 「最大の問題は、中国 軍がいつでも衛星誘導兵器を用いて斬首攻撃を実行し得るという『現実の脅威』を、あの一件がはっきりと予告した点にある」とこの関係者は強調する。
さらに彼は、中国 軍が武力統一作戦と連動して実施する斬首行動は、必ずしも台湾の党政中枢に限定されない可能性が高いと分析する。標的の選定は、「台湾の抵抗意志を最も速やかに削ぐ」ことを基準に行われるとみられ、重要な軍事将領や親政府系の意見指導者(オピニオンリーダー)が直面するリスクは、有名政治家に劣らないという。
台湾は島嶼国家であり、開戦後に出逃ルートを効果的に遮断してしまえば、全島を制圧してから「門を閉めて犬を打つ(逃げ場を断って一網打尽にする)」形でも遅くはない。むしろ北京は、武力侵攻の初期段階で、民進党の主要政治人物に意図的に脱出の余地を与え、「台独政権はすでに崩壊し、台湾を見捨てた」という宣伝に利用し、台湾軍民の士気を崩して降伏を誘導する可能性すらあるという。
民進党の沈伯洋氏(写真)の自宅写真が公開されたことは、解放軍が衛星誘導兵器を使用して斬首攻撃を行う現実的な脅威を浮き彫りにした。(写真/劉偉宏撮影)
斬首よりも現実的な脅威 制空・制海・制電磁権の喪失 関係筋によると、台湾軍は、中国 軍が米軍のベネズエラ作戦を台湾で再現できるという見方そのものを「幻想」に近いと受け止めている。それだけでなく、精密兵器を用いて台湾の特定人物を斬首するシナリオについても、「脅威は管理可能(threat controllable)」との認識だという。
理由は単純で、平時に奇襲を仕掛けた場合、台湾の防空システムが無傷の状態にある限り、少数の精密兵器が防空網を突破する可能性は極めて低い。迎撃を回避して成功率を高めようとすれば、大量の飽和攻撃が必要となり、その時点で両岸は事実上の戦争状態に突入する。
その場合、台湾側の党政軍要人は計画通りに緊急疏散(避難)を実施する。総統および参謀総長ら軍高層は衡山軍事指揮所に移動し、行政院長は閣僚を率いて円山指揮所へ、さらに副総統は桃園の陸軍司令部に設置された予備指揮センターに移る手はずとなっている。外科手術のように突然斬首される余地は、事実上存在しないという。
台湾軍が最も警戒するシナリオ 台湾軍が唯一「厄介」と認識しているのは、台海で高強度の戦争が発生した後、台湾軍が局地的に制空権・制海権・制電磁権を失い、防空システムが戦損によって迎撃能力を低下させた場合だ。
これに、台湾内部に長期潜伏している内応者が連動し、自爆型ドローンや精密誘導兵器に対して遠隔標定(ターゲティング)情報を提供すれば、要人斬首の実行や、台湾軍の機動レーダー、海鋒大隊の対艦ミサイル発射車両、高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」 といった、中国 軍の上陸主力部隊にとって高脅威となる装備の追跡・排除を大きく後押しすることになる。
軍事情報に詳しい専門家は、戦争状態に入れば総統や参謀総長ら軍高層部は衡山指揮所に進駐するため、「斬首」の可能性は極めて低いと指摘する。写真は2024年4月、頼清徳氏と蕭美琴氏の車列。(写真/張曜麟撮影)
台湾軍が真に警戒するのは別のシナリオ 中国軍が開発を進める新型上陸戦術「多層・双超」 台湾軍関係者は、中国 軍が近年、対台湾上陸作戦における新たな戦法として「多層・双超」と呼ばれる戦術の構築を急いでいると指摘する。
「多層」とは、従来の中大型揚陸艦だけに頼らず、高速のエアクッション艇(LCAC)、ヘリコプター、輸送機を組み合わせ、陸・海・空の多層的手段で兵力を投送する作戦概念を指す。
一方、「双超」とは、① 超地平線換乗(オーバー・ザ・ホライズン・トランスファー)、② 灘頭線を越えて後方に着陸の二つを意味する。
前者は、主力揚陸艦が台湾本島から約70キロ離れた、沿岸火力が届かない海域で上陸用ビークルに兵員を移し替える方式だ。後者は、ヘリコプターで精鋭部隊を台湾防衛線の背後に投下し、防衛配置をかき乱したうえで、交通の要衝、港湾、発電所などの重要インフラを制圧し、主力部隊の上陸を有利にする戦法である。
「超地平線換乗」は無意味、だが空中機動は深刻な脅威 この関係者は、台湾軍のM142ハイマース(HIMARS)長距離精密ロケット砲や岸基対艦ミサイルが次々と実戦配備されている現在、超地平線換乗はすでに戦術的価値を失ったと指摘する。「沿岸から70キロ外どころか、福建沿岸で作業しても、中国 軍の揚陸船団と部隊は台湾軍の打撃から逃れられない」
しかし一方で、ヘリコプターによる灘頭線越え上陸は、中国 軍のヘリ保有数の増加、陸軍航空兵旅団や空中突撃旅団の拡充と相まって、台湾防衛にとって極めて深刻な脅威になっているという。
彼は、中国 軍が作戦計画上、北台湾の制空権を確保し、台湾軍の地上防空火力を弱体化させた段階で、桃園空港や松山空港への機降を敢行する可能性が高いと警告する。「仮に短時間でも空港の支配権を奪えば、兵力4万人超を擁する中国 軍空挺部隊は、台湾本島に危険な空中降下を行わずとも、Y-20大型輸送機で直接着陸できるようになる」
松山空港は「首都の急所」 かつて戦区司令官を務めた退役中将は、松山空港が持つ戦略的危険性を強調する。「松山空港は総統府から約8.9キロ、防衛部や衡山指揮所からは5キロにも満たない。ここに編制の整った中国 軍空挺旅団が着陸し、台北市内に突入すれば、中国 軍部隊に広く配備されている小型自爆ドローンの作戦半径内に、すべての重要拠点が入る」
現在、首都防衛を担う台湾軍部隊は、憲兵6個大隊、台北後備旅、海軍陸戦隊第66旅団の1個大隊だが、兵力面で優位に立てるだけに過ぎない。
もし解放軍の空挺旅団が松山空港に着陸すれば、小型自爆ドローンの攻撃範囲内に主要拠点がすべて入ることになる。写真は松山空港での演習の様子。(写真/軍聞社提供)
新型上陸戦術の脅威をどう抑えるか 首都防衛部隊の戦力強化が不可欠 この退役中将は、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻初日、ロシア空挺軍がキーウ近郊のアントノフ空港(UKKM)に対して実施した機降作戦を引き合いに出す。「もしウクライナ軍が後続のロシア空挺部隊の着陸を阻止できなかったなら、キーウは急速に陥落していた可能性が高い」
同様に、松山空港や桃園空港が中国 軍に機降奇襲された場合、台湾軍はいかなる代償を払っても即座に包囲殲滅し、同時に空港周辺に携帯型地対空ミサイルを展開して防空火網を維持し、後続の輸送機による着陸を阻止しなければならない。そうでなければ、首都防衛戦の結末は極めて悲観的になると警告する。
「初動対応」すら容易ではない 彼はまた、「最初に降下した中国 軍部隊を殲滅するだけでも簡単ではない」と指摘する。アントノフ空港の戦いでは、ウクライナ軍はロシア空挺軍の輸送機着陸を阻止することには成功したものの、最初に空港を占拠した約200人のロシア精鋭部隊を排除するまでに、機械化旅団、国土防衛旅団、特殊部隊など数千人を投入し、丸一日激戦を繰り広げる必要があった。
高度に訓練された部隊は、たとえ少数でも、有利な地形・地物に依拠すれば、不利な戦場でも相当時間持ちこたえることができる。中国 軍が空港や港湾の機降突襲に投入する部隊は、間違いなく厳選された精鋭である。台湾軍の憲兵部隊や後備旅が、十分な戦力と火力で迅速に殲滅し、後続支援部隊の進入を阻止できるのか。これは軍の意思決定層が真剣に向き合うべき課題だという。
縦深防御の限界と新たな対応策 軍事情報関係者は、台湾軍が現在、縦深防御の考え方に基づき、志願兵主体の主力部隊を灘頭と都市部の間に機動配置し、必要に応じて前進して上陸部隊を迎撃し、砲兵の掩護のもとで都市部に後退して防御する態勢を取っていると説明する。
しかし、中国 軍が精鋭部隊を直接、台湾軍主力部隊の背後に空中投送し、要地を制圧し、エネルギー施設を掌握し、さらには斬首作戦や高価値装備の破壊を実行できる能力を高めている現状では、戦力の劣る義務役兵や後備兵力を主力に突襲を受け止めるのは、必ずしも安定した対応とは言えない。
このため、軍は守備旅・後備旅の戦力と装備の強化に加え、戦時には特殊部隊を空港、港湾、発電所などの要地に直接配備することや、軍事訓練を受けた海巡部隊や保安警察を支援に投入する案も検討すべきだとされている。
こうした多層的対応によってこそ、中国軍の新型上陸戦法が台湾防衛システムに与える破壊力を、一定程度まで抑え込むことが可能になるという。