トップ ニュース TSMC米投資拡大は台湾の「シリコンの盾」を崩すか 米識者「米国の代替完了は2050年」
TSMC米投資拡大は台湾の「シリコンの盾」を崩すか 米識者「米国の代替完了は2050年」 2025年3月3日、ドナルド・トランプ氏、TSMC会長の魏哲家氏、ハワード・ラトニック商務長官、AI・暗号資産特使のデビッド・サックス氏がホワイトハウスのルーズベルト・ルームで記者会見に臨んだ。(写真/AP通信提供)
「TSMCの米国におけるモーメント(転機)は既に到来した」
—『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』
米国商務省による「米台貿易協定」の発表を受け、台湾が長年切望していた関税引き下げがついに現実のものとなった。これには鉄鋼・アルミ輸入制限(232条)の免除条項も含まれるが、その交換条件とも言えるTSMC(台湾積体電路製造)の追加投資に対し、台湾国内では産業の「空洞化」や、安全保障の要である「シリコンの盾」の消失を懸念する声が上がっている。
しかし、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、TSMCが「台湾という境界を超えた未来図」を描いており、ビジネスおよび地政学的リスクへの対応として、米国での事業拡大を決意していると指摘する。つまり、TSMCの米国シフトは、ハワード・ラトニック米商務長官がメディアに誇示した「DEI(多様性・公平性・包摂性)条項違反を盾にTSMCに要求した」という政治的圧力だけで説明できるものではないようだ。
台湾の枠を超えるTSMC、中国リスク回避と顧客接近 WSJによると、TSMCは長年にわたり、台湾という島国の制約を突破し、事業版図を拡大する必要性を検討してきた。その背景には、エヌビディア(Nvidia)やアップル(Apple)といった主要顧客への接近、そして中国の脅威による地政学的リスクの緩和がある。「シリコンの盾」としての地位は台湾の誇りだが、同時にその地理的条件がTSMCにとって巨大なリスクとなっていることも否めない。WSJは、今回の米台貿易協定が、台湾とトランプ政権双方にとって、こうした目標を実現する契機になったと分析している。
巨額の対米投資計画と中東進出の可能性 現在報じられているTSMCの計画によれば、アリゾナ州の拠点だけで10以上のウェハ工場(ファブ)と2つの封装(パッケージング)工場が建設される予定だ。さらに、ニューメキシコ州が次の建設候補地として浮上している。
揺らぐ「シリコンの盾」神話とトランプ政権の姿勢 半導体工場の拡張と投資公約の裏で、AIブームが生み出す空前の好機と地政学的緊張が、TSMCおよび台湾政府の意思決定を大きく変えている。一部のアナリストは、TSMCが最先端製造の多くを台湾外へ移すことで、「シリコンの盾」理論(世界経済におけるTSMCの重要性が中国の台湾侵攻を思いとどまらせ、米国や国際社会の介入を保証するという考え)が変質する可能性を指摘する。
台湾の龔明鑫(Kung Ming-hsin)前経済部長(経済相)はかつて、台湾のチップメーカーには「適度なグローバル展開」が必要だと述べる一方で、台湾が生産の中核拠点であり続けると強調していた。しかし、ラトニック米商務長官の見解は異なる。彼は先週木曜日のCNBCのインタビューで、「台湾の安全はウェハ工場によって決まるのではない。我々の大統領(トランプ氏)こそが彼らの国を守る鍵であり、彼らはトランプ氏を喜ばせる必要がある」と発言した。
ジョージタウン大学安全保障・新興技術センターのサム・ブレスニック研究員は、「シリコンの盾構想は多方面から崩れつつあり、人々はTSMCという変数を再考しなければならない」と悲観的な見方を示す。一方で、WSJはTSMCの米国進出が長年の計画に基づくものであり、2019年夏には既にニューヨーク、テキサス、アリゾナ、ワシントン州などを視察していた事実を指摘している。
台湾国内の懸念と「2050年」という現実的なタイムライン WSJは、台湾国内で頼清徳政権への批判が高まっていることにも注目している。批判派は、政権が米国のTSMC生産能力奪取を容認し、台湾の安全保障を損なっていると主張する。中国政府も頼総統を「売国の専門家」と非難し、重要技術を米国への「貢ぎ物」にしていると攻撃している。
しかし、TSMCが台湾にとって唯一の重要要素ではないとする分析もある。中国による侵攻は、世界で最も交通量の多い航路を混乱させ、日本や韓国への脅威も増大させるためだ。頼総統も昨年の演説で、国際社会が台湾に注目するのは地域の安定のためであり、TSMCだけが理由ではないと強調している。
また、アリゾナでの工場拡張は、水不足や熟練労働者の不足といった課題に直面している。台湾のシンクタンク「科技・民主・社会研究センター」の張智程(Jason Hsu)執行長は、台湾の熟練した人材プールと製造エコシステムを米国が代替することはほぼ不可能であり、米国での最先端チップ製造は「極めて高コストで非効率」だと指摘する。TSMCの魏哲家(C.C. Wei)CEOも、最先端プロセスは台湾に残し、米国には「N-1(一世代前)」の技術を導入する方針を崩していない。
工場の稼働には長い時間を要し、TSMCは台湾国内でも拡張を続けているため、最先端の生産・設計・研究開発は当面の間、台湾に残る見通しだ。ウィスコンシン大学マディソン校のAI計画責任者、マット・セイツ(Matt Seitz)氏は次のように結論付けている。
「『台湾以外で信頼できる製造能力』を確立する段階に達するには、少なくとも2030年か2035年までかかるだろう。台湾有事のような重大な衝撃が起きても世界的な供給不足を引き起こさない能力を真に備えるには、今世紀半ば(2050年頃)、あるいはそれ以降になる恐れがある」
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