釜山での米中首脳会談を経て、両国間の貿易戦はひとまず沈静化の様相を見せた。トランプ氏も「台湾については一切議論しなかった」と強調し、いわゆる「台湾問題」は、来年のトランプ氏訪中まで当面棚上げされたかに見える。
ところが米中首脳会談からわずか1週間後、日本の高市早苗首相が国会答弁で「台湾有事」を安全保障法制上の「存立危機事態」に該当し得ると述べ、議論が一気に波紋を広げた。これは高市氏が自ら踏み込んだ発言というより、野党議員・岡田克也氏の質問に応じた結果だが、米中首脳会談では障害にならなかった「台湾問題」が、今度は日中間で大きな火種となった格好だ。
今回の高市早苗氏による「台湾有事」発言が、台湾・日本・中国それぞれの国内で大きな反響を呼んだ背景には、3カ国がいまだ第二次世界大戦後の「正常化」を模索し続けている事情がある。
東京の右派勢力から見れば、日本は戦後、米国が課した平和憲法によって自衛権の行使が強く制約され、国際情勢の変化に「通常の国家」として対応できないまま来た。さらに日本列島は第一列島線の要衝に位置し、中国が「必ず取り戻す」と公言してきた台湾のすぐ隣にある。唇寒歯亡という地政学的な危機感も、事前の備えという発想も、「台湾有事」を他人事にはできないという論理を後押ししている。
一方、台湾の台湾派勢力にとって、台湾独立は悲願の達成であれ、中華民国という「外殼」をまとった現状維持であれ、最大の障害は中国の併呑意志にある。たとえ「台独」ではなく「華独」を掲げたとしても、中華民国は国連に席を持たず、外交関係国も12カ国に限られるという現実は、「普通の国家」とは程遠い。さらに中国は統一要求を弱めるどころか、武力行使の可能性すら手放していない。海峡を挟んだ相手の明確な野心を前に、トランプ氏の姿勢が揺れ動くなかで、正式な外交関係こそないとはいえ、台湾の防衛に積極的な姿勢を示す友好国が現れた以上、これに呼応して自らの立場を守ろうとするのは自然な流れだ。
中国のナショナリストから見れば、たとえ第二次世界大戦が80年前の出来事であり、中華人民共和国の成立からすでに76年が過ぎたとはいえ、中国のナショナリズムは依然として「百年の屈辱を雪ぐ」という物語に支えられている。本来なら、抗日戦争の勝利によってその「国辱」は歴史的に克服されたはずだ。だが、もし「日清戦争での台湾割譲」を「百年国辱」の核心、あるいは残滓と位置付けるなら、トランプ氏に「G2」と称された中国ですら、なお完全には「正常化」していないことになる。台湾を「回収」できない現状や、かつて台湾を侵略した日本が再び軍事関与を示唆する状況は、中国にとって「恥の上塗り」以外の何ものでもない。ゆえに中国側の対日批判は、どうしても第二次世界大戦の枠組みから抜け出せないのである。 (関連記事: 高市首相の「台湾有事論」に反発 習近平氏がトランプ氏と通話「台湾の中国回帰は戦後秩序」と伝達 | 関連記事をもっと読む )
政治学の教科書的な定義を用いれば、「主権とは国家が領土と国民に対して有する、最高かつ排他的な政治的支配権」とされる。これに従うなら、日本・台湾・中国のいずれも、少なくとも為政者の視点では、主権が完全に満たされた「正常な国家」とは言い難い(もちろん程度の差はあり、台湾が最も不安定で、日本がその次、中国が最も「正常」に近いとされる)。しかし3カ国はそれぞれ「正常化」を追求する過程で、相手国の正常化を阻む構造にある。むしろ他国の正常化を妨げることこそ、自国の正常化を可能にする要件になっている。こうした構図が、3カ国の政治的意志を衝突へと向かわせる背景にある。
ここまでが「来歴」だとすれば、次に語るべきは「これからどうするか」である。
集団的自衛権や安保法制に慎重な岡田克也氏が指摘したように、高市早苗氏はすでに「台湾有事」発言を引き取るタイミングを逸してしまった。中国の抗議を受けて発言を撤回すれば、国家の威信、世論支持、そして「台湾有事」の戦略的曖昧性という三つを同時に失いかねないからだ。では中国と日本がこのまま対立を続けるなか、打開策はどこにあるのか。
ノーベル平和賞を意識しつつ、高市氏とも習近平氏ともパイプを持つトランプ氏こそ、仲裁役に最もふさわしいのではないか。仮に「好人物」を演じる気がなくとも、台湾の民主・自由やTSMCを守るという立場を明確にしたいなら、バイデン氏が在任中に四度表明したように、「台湾有事は米国有事だ」と口にすべきだろう。
しかし、トランプ氏は最近の《フォックス・ニュース》のインタビューで、中国の薛剣・駐大阪総領事が「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と過激な言動を放った件を問われても、中国批判を避け、「多くの同盟国は必ずしも“友人”とは言えない。中国以上に米国の貿易利益を奪っている国もある」と述べた。これには中国の官営メディア『環球時報』英語版ですら「トランプは中国を擁護している」と評したほどだ。
さらに24日、習近平氏がトランプ氏に自ら電話をかけ、台湾問題を協議した際も、トランプ氏は会談内容を一切語らず、中国側の発表だけが「台湾問題」を強調する形となった。


















































