釜山でのトランプ氏と習近平氏の会談を受け、米中の大規模な貿易戦やハイテク摩擦は、いったん休戦状態に入った。中国は「台湾有事は日本有事」と主張する高市早苗氏との応酬に追われ、アメリカはロシア・ウクライナ紛争の調停を続けつつ、ベネズエラ周辺に部隊を派遣して軍事的存在感を示している。では、米中関係はいま実際どういう局面にあるのか。
ジョージタウン大学助教授で、バイデン政権の国家安全保障会議(NSC)で中国・台湾担当副部長を務めたラッシュ・ドシ氏(Rush Doshi)は、このほどニューヨーク・タイムズへの寄稿で、10月末のトランプ・習会談をめぐり「本当に重要なのは、貿易戦の休止宣言そのものではなく、中国がすでにアメリカと肩を並べる力を備えつつあるという地政学的意味だ」と指摘した。
釜山でのトランプ氏と習近平氏の会談に先立ち、トランプ氏は「最終的には中国と素晴らしい合意に至ると思う」「それは世界にとっても素晴らしいことになる」と強調していた。しかしラッシュ・ドシ氏は当時から悲観的で、首脳会談の結末は「合意(deal)、不調(no deal)、あるいは災難(disaster)の三つしかない」と見ていたという。
ドシ氏によると、中国側はすでに「トランプ氏の弱点をつかんだ」と判断していた。北京がレアアースの輸出規制をちらつかせた際、最終的にトランプ氏が譲歩したためだ。この経験から中国は、重要なサプライチェーンで強硬な姿勢を見せれば、トランプ氏は経済的打撃を避けるために退くと確信したという。「圧力をかけさえすれば、彼は折れる」と中国は踏んでいた、とドシ氏は述べる。
釜山会談を経てドシ氏は、トランプ氏による第2ラウンドの関税攻勢に対し、中国は全面的な圧力に耐えただけでなく、レアアースという切り札を駆使して反撃に成功したと指摘する。長年の産業空洞化を経験したアメリカは、この分野のサプライチェーンを中国に大きく依存しており、ワシントンは準備不足もあって十分な対抗策を講じる意思も能力もなかった。
ドシ氏は、将来の歴史家が米中が「対等の座」に着き始めた瞬間を特定しようとすれば、トランプ氏が軽率に始めた貿易戦争の反作用が、ひとつの有力な候補になるだろうと述べる。そして彼が何よりも痛感しているのは、この歴史的転換点が、アメリカにとって極めて重要な時期に重なってしまったという事実だ。
民主・共和いずれの戦略家も一致しているのは、アメリカが経済・技術・軍事のいずれにおいても中国に後れを取らないためには、「黄金の10年」を確実につかむ必要があるという点だ。そして、その10年はすでに半分が過ぎた。トランプ政権は今、生産拠点の回帰、貿易秩序の再編、国防産業基盤の立て直しを急ぎ進めている。ところが、こうした重要局面で、トランプ氏は今回の米中首脳会談を「G2」モデルとして位置づけ、同盟国の重要性を矮小化してしまった。
しかし、アメリカが再工業化を実現するには同盟国の協力が不可欠であり、さらには海外で中国を牽制するためにも同盟国の存在に依存する。トランプ氏による「G2」的な対中関係の枠づけは、北京に「圧力と報復は効果がある」と見せる結果となり、今後さらに中国が圧力を強め、ひいては北京が「アメリカ・ファースト」政策に対して拒否権を握るような事態すら招きかねない。
ラッシュ・ドシ氏は、そもそもこうした事態はトランプ氏の「無用な挑発」がなければ起こらなかったと指摘する。トランプ氏は米中貿易戦争を再点火し、中国産品に最大140%超の高関税を課したにもかかわらず、サプライチェーンの耐久性を事前に精査し、備えることをしなかった。対する北京は2018年の貿易戦争以来、緻密に対策を積み重ねてきた。
追い詰められた習近平氏はついに最終カードを切った。それは危険な一手ではあったが、今回は明らかに賭けに勝った。北京が4月にレアアースの対米輸出を停止すると、トランプ氏は5月には大幅な関税引き下げに転じ、対立の沈静化を模索した。
そして10月、北京は再びレアアースカードを振りかざし、全面的な許可制度を導入。世界中の企業が中国産レアアースを調達するには許可が必要となり、製品に微量でも中国産レアアースが含まれていれば販売にも許可が要る仕組みとなった。ドシ氏は「貿易戦争を仕掛けたワシントンですら使ったことのない手法だ。アメリカと世界の製造業にとっては、まるでこめかみに銃口を突きつけるようなものだ」と表現する。
トランプ氏は当初、半導体規制の強化から金融制裁まで、強硬な対抗措置を準備していた。しかし土壇場で方針を引っ込め、新制裁の発動を棚上げした。釜山で米中首脳が向き合ったときには、トランプ氏の強気な姿勢は影を潜め、アメリカは衝突の段階的な引き下げと追加の関税緩和を選ぶ結果となった。
編集:柄澤南 (関連記事: ウクライナ「領土割譲停戦」の次は台湾か 新党副主席が読む米中首脳会談と台湾分割シナリオ | 関連記事をもっと読む )
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