シリコンバレーの巨人がついに覚醒　Gemini 3が競合を圧倒し、時価総額3.6兆ドルを回復　Googleの成功秘話

かつて開発の遅れを揶揄され、ウォール街からは「AIの波で沈むのではないか」と懸念されていた検索帝国が、先週、シリコンバレーの覇権をいまなお握っていることを実力で示した。Googleの最新モデル「Gemini 3」は、各種ベンチマークでChatGPTやClaudeといった競合を大きく上回り、現時点で最強クラスのAIチャットボットとして評価されている。株式市場でも時価総額は再び3.6兆ドルへ回復し、頂点に返り咲いた。技術の飛躍と企業の再定義というドラマを、Googleがいかにして描いたのかが注目されている。

ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、正式発表に向けた数カ月間、Google社内では「Vibe Check（バイブチェック）」と呼ばれる極限テストが続けられていた。これは単なるスコア比較ではなく、エンジニアやプロダクトマネージャーが人間的な視点でモデルに難問をぶつけ、どこまで「理解」できるかを試す工程だという。Geminiのプロダクト管理を担当するトゥルシー・ドシ（Tulsee Doshi）氏は、そのテスト中に「鳥肌が立つ瞬間」があったと語る。

ドシ氏はGemini 3に、自身のバックグラウンドとも関わりのあるグジャラート語で文章を書くタスクを与えた。グジャラート語はインドで使用人口が多い一方、ウェブ上のテキストデータが比較的少なく、従来モデルが苦戦しやすい言語の一つだ。以前のAIでは、文法の硬さや語彙の不自然さが頻繁に表れた。しかし今回のGemini 3は、文脈の流れ、表現の自然さ、語彙選択のいずれの面でも高い水準を示し、チーム全体が驚かされたという。

ドシ氏は「これは単に翻訳が正確というレベルではありません。文字の背後に温度や論理が感じられる『生命の兆候（Signs of Life）』があった」と説明する。チームからも「何か新しい段階に踏み込んだ」との共通した反応が返ってきたという。

Gemini 3の衝撃は社内にとどまらない。今回のモデルは、テキストだけでなく画像・音声・動画・コードなどを最初から一体で扱う「ネイティブ・マルチモーダル」モデルで、後付けで視覚機能を追加した従来型とは設計思想が異なる。より人間の直感に近い理解が可能になった背景には、この構造がある。

クラウドコンテンツ管理大手BoxのCEO、アーロン・レヴィ（Aaron Levie）氏は、Gemini 3のテスト権限を1週間早く得て、週末を使い大量の複雑な業務文書を分析させた。レヴィ氏は、進化の幅があまりに大きかったため、当初は「データの読み違いではないか」「評価システムの問題ではないか」と疑ったという。しかし何度テストしても結果は変わらず、Gemini 3のスコアは競合を10ポイント以上引き離していたことが確認された。 （関連記事： Google検索にAI強制導入も誤情報多発　Google CEO「AIを盲信するな」発言が波紋　専門家は「ユーザーにチェックを丸投げ」と批判 ｜ 関連記事をもっと読む ）

滅びる恐怖からマイクロソフト超えの時価総額へ

ウォール・ストリート・ジャーナルは、Gemini 3の成功の意味を理解するには、時間軸を3年前に戻す必要があると指摘する。OpenAIがChatGPTを公開した当時、Googleは創業以来最大の危機とも言える「コダック・モーメント（Kodak Moment）」に直面していた。投資家の間では、生成AIの波に乗り遅れ、守りが崩壊し、AIハイウェーの「ロードキル（Roadkill）」として取り残されるのではないかという見方すら出ていた。

その時期は、Googleにとって「暗黒期」だった。株価は低迷し、AI関連プロダクトは「未完成品」と揶揄され、社内の士気も大企業病や官僚主義への不満から大きく落ち込んだとされる。

こうした低迷を断ち切るため、スンダー・ピチャイ（Sundar Pichai）CEOは思い切った組織改革に踏み切る。社内情報によれば、プロジェクトごとに縦割りになっていた「サイロ化」を崩し、リーダー層をスリム化。各部門に分散していたAIモデル開発リソースを統合する方向へ強制的に舵を切った。さらに、表舞台から退いていた共同創業者のサーゲイ・ブリン（Sergey Brin）氏も開発現場に戻り、自らAI関連コードのレビューに関わったという。

トップと創業メンバーがそろって進めた改革は、2025年に入り成果として現れ始める。5月の開発者会議「Google I/O」では、AIと検索を統合した一連の新機能を発表し、ウォール街の評価を一定程度回復させた。続く8月には、生成画像のクオリティと使いやすさでSNSを席巻した画像生成ツール「Nano Banana」が登場。Geminiの利用を直接押し上げる起爆剤となった。

Nano BananaとGemini 3の実績に対し、市場の反応は一段と熱を帯びた。親会社Alphabetの株価は年初からすでに5割以上上昇し、夏以降だけでも約6割の急伸を記録。今週には時価総額が3.6兆ドルを突破し、約7年ぶりにマイクロソフトを上回った。調査会社モフェットネイサンソン（MoffettNathanson）のシニアアナリスト、マイケル・ナザンソン（Michael Nathanson）氏は「AlphabetはAIの勝者だ。かつてウォール街は『終わった』かどうかを論じていたが、いまは彼らが持つカードにかなり満足している」と評価している。

技術の中身：ただのチャットではなく「考え、動く」AIへ

では、Gemini 3は何が優れているのか。ウォール・ストリート・ジャーナルが紹介した業界ベンチマーク20項目の一覧を見ると、その輪郭が見えてくる。専門知識の理解、論理パズル、数学問題、画像認識など主要分野で、Gemini 3はOpenAIやAnthropicの最新モデルを軒並み上回った。

唯一の例外はプログラミング能力の単独指標で、ここではAnthropicの「Claude Sonnet 4.5」がわずかに上回り、Gemini 3は2位にとどまった。それでも総合力では、六角形のすべての辺がほぼ均等に伸びた「六角形戦士」と評されるレベルに達している。開発者の間で特に話題となったのが、「Vending Bench（自販機ベンチマーク）」と呼ばれるテストだ。

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このテストは、自動販売機の運営をシミュレーションするもので、在庫管理、需要予測、価格設定などを通じて利益最大化を目指す。問われるのは単なる言語能力ではなく、長期的な「計画力」や、外部ツールを使いこなす「行動力」であり、汎用人工知能（AGI）への一歩を示す指標として注目されている。

トゥルシー・ドシ氏は「自動販売機のテストは、このモデルに対して我々が抱いている本当の野心をよく表している」と説明する。「話す百科事典のような存在であれば十分とは言えない。時間をかけて考え、判断し、自分でタスクを遂行できる存在になってほしい」と続けた。

検索エンジンの最終形：7歳の娘に物理を教えるAI

一般ユーザーにとっては、Gemini 3による変化はより直感的だ。Googleは今週、Gemini 3を検索エンジンに組み込んだ「AIモード」を、サブスクリプション利用者向けに順次公開し始めた。

検索プロダクト担当バイスプレジデントのロビー・スタイン（Robby Stein）氏は、自身が体験した「腑に落ちた瞬間」を紹介する。スタイン氏は、新モデルを試すため、「飛行機はなぜ離陸できるのか」を7歳の娘に説明するという“父親の宿題”をAIモードに投げかけた。当初は、簡潔なテキスト説明と数枚の図解が返ってくる程度だと想像していたという。

ところがGemini 3は、翼の上を流れる空気の動きを示すアニメーションとともに、画面上にインタラクティブなシミュレーションを生成した。スライダーを動かすと翼の角度が変わり、それに応じて気流のパターンが変化し、飛行機が上昇したり降下したりする様子が視覚的にわかる仕組みだ。

スタイン氏は「その瞬間、これは明らかに従来の検索とは別物になったと感じた」と話す。「単にリンクを並べるのではなく、最適だと思われる形で『答えと体験』そのものを提示してくるのだ」と続けた。

OpenAIの牙城は崩れるのか

現時点で、Googleは戦術的には大きな一勝を挙げたと言えるが、AI覇権争いが決着したわけではない。OpenAIのChatGPTは依然として世界で最も利用されている生成AIで、今月の週次アクティブユーザーは8億人に達する。一方、Geminiの公表されている月次アクティブユーザーは6億5000万人で、まだ差が残る。

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​編集：田中佳奈

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