論評:「台湾回帰」は戦後秩序の一部 中国が語り始めた新たな国際法戦

2025-11-26 16:15
習近平氏とトランプ氏が韓国・釜山で行った会談は、今後の台湾海峡情勢とインド太平洋の安全保障枠組みに大きな影響を与えるとみられている。(写真/ホワイトハウス公式サイト、風傳媒合成)
習近平氏とトランプ氏が韓国・釜山で行った会談は、今後の台湾海峡情勢とインド太平洋の安全保障枠組みに大きな影響を与えるとみられている。(写真/ホワイトハウス公式サイト、風傳媒合成)
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高市早苗首相による「台湾有事」発言をきっかけに、北京はこれを自国の核心的利益に触れる問題と位置づけ、日中の外交対立は一気に緊張を増した。中国の習近平国家主席は、アメリカのトランプ大統領との前回会談から1か月も経たないうちに再び電話会談を行い、「台湾の中国への回帰は戦後国際秩序の重要な一部だ」と明言した。韓国・釜山での会談からさほど時間を置かずに再接触した事実は、このテーマをめぐる北京側の危機感と優先順位の高さを物語っている。しかも、トランプ大統領が自ら習近平氏に電話をかけ、1時間近く電話会談を続けたことも注視すべき点だ。

今回の米中首脳電話会談は、両国関係の方向性を示す重要なシグナルである。中国国家主席が米大統領に直接電話をかけたのは、2008年に胡錦濤氏がブッシュ元大統領と会談して以来、約17年ぶりとされる。今回のやり取りは、台湾を米中という二大国の管理枠組みに組み込むだけでなく、戦後国際秩序という物語を誰が語るのか、その主導権を巡る闘いでもある。北京は「台湾の回帰」をアメリカとの外交交渉のタイムテーブルに正式に載せようとしている。一方で、賴清徳政権の対中対応は迫力を欠き、戦略性のあるメッセージや高い視座が見えにくいままという印象がぬぐえない。

米中が描く「戦後秩序」の物語 その外側に置かれる台湾

今回の電話会談の中で、習近平氏は何よりも台湾問題に焦点を当てたとされる。これに対し、トランプ氏は話題をウクライナ情勢へと移しつつ、北京の対台湾姿勢を「理解する」と応じた。その後、両首脳は貿易問題やレアアース供給、ウクライナ侵攻など、複数の争点について議論を重ねたという。

通話後、トランプ氏は高市首相にも電話をかけ、日本が中国からの制裁的な措置、例えば観光や留学に関する警告、海産物輸入の停止、牛肉交渉の凍結などに直面していることについて「心理的な慰め」を示したとされる。そのうえで、安全保障面での具体的な保証を急がず、「現在進めているのは多国間協定ではなく、二国間の交渉だ」と説明した。

注目すべきは、習近平氏が「台湾の中国への回帰は戦後国際秩序の重要な一部だ」という新たな語り口を用いた点である。従来、北京は台湾問題を国内問題と位置づけ、国際社会の議題にすることを避けてきた。他方で、民進党政権は台湾問題を積極的に国際化しようとしてきた。しかしいまや、北京自身が台湾を国際政治の文脈に引き上げ、カイロ宣言やポツダム宣言、旧金山条約といった戦後の国際文書を持ち出しながら、「戦後秩序の一部としての台湾回帰」というストーリーを構築し始めている。

高市首相の「台湾有事」発言は、結果として米中というG2構造をより鮮明にし、習近平氏にアメリカと「対等の当事者」として東アジア情勢を語る舞台を与えた側面がある。北京はこの機会を逃さず、中央アジア3か国との政治文書などに台湾問題を明記させ、「一つの中国」を国際的に既成事実化する「国際一中」戦略を加速させている。

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