TSMC米アリゾナ工場、利益99%減の衝撃 「ガス停止」事故が原因か

TSMC(台湾積体電路製造)のアリゾナ工場(AZ工場)の単四半期利益は、前期比で99%の急減となった。(写真/柯承惠撮影)
TSMC(台湾積体電路製造)のアリゾナ工場(AZ工場)の単四半期利益は、前期比で99%の急減となった。(写真/柯承惠撮影)

TSMC(台湾積体電路製造)のアリゾナ工場は、米国の半導体製造能力再建の象徴と見なされてきた。しかし、TSMCの2025年第3四半期決算によれば、米国子会社の単四半期利益は約4,100万台湾ドル(2億)にとどまり、前四半期の42億3,200万台湾ドル(約210億円)と比べて、ほぼ99%の「急落」を記録した。この異常な利益減少を受け、市場の関心が集まっている。

その背景をめぐり、市場ではこのほど、TSMCアリゾナ工場が7月末から9月末にかけて「ガス停止」事故に見舞われ、半導体製造に必要な工業用ガスの供給が中断された結果、アップル、エヌビディア、AMDといった大口顧客向けの数千枚に及ぶウエハーが廃棄されたとの情報が出回っている。

独立系テックジャーナリストのティム・カルパン氏は、自身のニュースレター「Substack」で、関係者の話として、このガス停止事故は9月中旬に発生したと伝えた。TSMCは台湾では自社のガス供給システムを有しているが、アリゾナ工場のガス供給は産業ガスおよびエンジニアリング大手の「リンデ(Linde)」に外部委託しており、今回の事故は、同社グループの電力システムの故障が原因だったという。

報道によると、TSMCのアリゾナ工場は2025年第1四半期に黒字転換を達成しており、米国という高コスト環境下でも、迅速な量産体制を構築し、収益に貢献できることを示していた。しかし、第3四半期の純利益は99%減という急減に見舞われ、わずか140万ドルにまで落ち込み、市場では強い疑問の声が上がっていた。そして、9月に発生したこの「ガス停止」による操業停止事故が、利益急減の一因である可能性が指摘されている。

これに対しTSMCは、「アリゾナ工場はすでにプラスの収益貢献を始めているが、会社全体の利益は複数の要因に左右されるため、長期的な観察が必要だ。以前から述べてきた通り、海外での工場拡張は、2025年以降の5年間にわたり、粗利益率に下押し圧力を与えるだろう」とのコメントを発表した。

カルパン氏によれば、今回の事故による顧客への影響はごく限定的であり、TSMCの金銭的損失も保険で補填される可能性があるという。Fab 21の生産能力自体がまだ限定的であることに加え、多くの製品はすでに台湾でテープアウトや一部工程を済ませているため、サプライチェーンへの影響は比較的軽微にとどまった。過去の経験に照らせば、こうした事故によって生じた売上や生産量の不足分は、おおむね翌四半期には回復することが多い。

TSMCは台湾では極めて高度な運営管理体制を構築しているが、米国に工場を設置し、現地企業に依存する体制となったことで、新たな課題にも直面している。アリゾナ州での工場建設や設備導入の過程そのものが、異なる企業文化や業務慣行への適応を迫られる試練となっている。

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