台湾の半導体大手TSMCで発覚した2ナノメートル(nm)製造技術の機密情報流出事件をめぐり、これまで台湾市場ではあまり名の知られていなかった「Rapidus」という日本企業の名前が浮上している。
Rapidusは日本政府が支援する先端半導体メーカーで、米IBMと共同で2ナノ技術の開発を進めており、TSMCにとって潜在的な競合相手として注目されている。なぜこの企業が台日の半導体業界の間で突如脚光を浴びることになったのか──以下の3つの視点から、Rapidusの正体と背景を読み解く。
Rapidusとは何か?日本政府主導で設立、TSMCの競合となる可能性
Rapidusは2022年末に日本の経済産業省主導で設立された国策企業であり、初期投資額は700億円に上る。2027年までに2ナノメートル製造プロセスの量産体制を整えることを目標としており、日本が長年後れを取ってきた先端半導体分野での復権を目指している。
出資企業には日立、ソニー、NEC、NTT、ソフトバンクなど日本の大手企業8社が名を連ねており、技術面では米IBMと提携し、2ナノ技術のプロトタイプに関するライセンスも取得済みだ。本社は東京にあり、製造拠点となる半導体工場は北海道・千歳市に建設中で、国の補助金と税制優遇により「日本版TSMC」として期待を集めている。
技術流出先とされた「東京エレクトロン」はRapidusの主要パートナー
今回のTSMC機密漏洩事件で、情報が流出したとされているのは日本の半導体製造装置大手「東京エレクトロン(Tokyo Electron)」だ。この企業はRapidusの主要な装置サプライヤーであり、株主でもある。
東京エレクトロンはエッチング、CVD、フォトレジスト塗布など多くの分野で世界的な技術力を誇り、世界トップ5に入る半導体装置メーカーである。そのため、TSMCの協力企業でありながら、同時にRapidusという「競合」の支援企業でもあるという構図が、今回の事件をより複雑かつセンシティブなものにしている。
RapidusはTokyo Electronのほか、SCREENホールディングス、キオクシア、JSRなど日本国内の装置・材料系企業との連携を進めており、さらに政府資金と米国の技術支援も取り込みながら、「台湾にも、韓国にも、中国にも依存しない」新たな半導体供給網の構築を目指している。
なぜ日本だったのか? 技術流出の地政学リスク
今回の技術情報が中国や米国ではなく、日本に流出したとされる点について、意外だと感じる声も少なくない。しかし、産業構造と地政学的背景を考慮すれば、むしろ日本こそが注意すべき相手だとの見方もある。
中国は依然として半導体自給を目指しているが、米国による輸出規制により、台湾の先端技術への接近は年々困難になっている。一方、日本と台湾は長年にわたって産業的に深い関係を築いており、技術者の人材交流も盛んだ。そのため、悪意ある者が接点を持ちやすい「グレーゾーン」が存在しうる。
さらに、日本は米国のようにTSMCの工場誘致に成功しておらず、先端製造技術へのアクセスが限られている。そこで、日本側は「人」と「情報」を通じて突破口を探ろうとする傾向がある。この「パートナーからライバルへ」という微妙な関係こそが、台湾にとって最も警戒すべき変数となっている。
量産前でもRapidusは脅威となりうるか?
Rapidusは現時点では量産体制に至っておらず、技術の安定性やコスト競争力には依然として課題が残っている。しかし、その背後には国家レベルの戦略と資金があり、日本の半導体再起に向けた象徴的存在としての役割を担っている。
TSMCにとって、Rapidusは単なる新興企業ではなく、米国との戦略提携を背景に、将来的に直接的な競合となり得る存在として、すでに強い警戒の対象となっている。
編集:梅木奈実 (関連記事: TSMCの2ナノ技術が日本企業に流出か 元社員3人を国家安全法違反で拘束 | 関連記事をもっと読む )
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