イギリスがパレスチナ国家承認をめぐり疑問の声 『テレグラフ』:実在する国「台湾」をなぜ承認しないのか?

2025-08-04 14:55
イギリス紙『テレグラフ』の国防・外交問題編集者コン・コフリン氏は、英国政府の外交姿勢に矛盾があると指摘。パレスチナ承認を表明しながら、なぜ台湾は承認しないのかと疑問を呈した。(写真/『テレグラフ』公式サイトのスクリーンショット)
イギリス紙『テレグラフ』の国防・外交問題編集者コン・コフリン氏は、英国政府の外交姿勢に矛盾があると指摘。パレスチナ承認を表明しながら、なぜ台湾は承認しないのかと疑問を呈した。(写真/『テレグラフ』公式サイトのスクリーンショット)
目次

英国、フランス、カナダは、今年9月の国連総会でパレスチナ国家の承認を支持するとみられている。しかし、この動きがガザ地区の停戦や人道危機の終結につながるかは依然として不透明だ。英紙『テレグラフ』の国防・外交編集者コン・コフリン(Con Coughlin)は、評論で英国政府の姿勢に矛盾があると指摘する。すなわち、まだ存在しない「想像上の」パレスチナ国家を承認する一方で、実際に存在する台湾を承認しないのはなぜか、という疑問だ。

現在のパレスチナ地域は、ヨルダン川西岸を統治するパレスチナ自治政府(PA)と、ガザを支配するイスラム組織ハマスの二つに分断されている。ハマスは西側諸国からテロ組織とみなされ、ガザでは2006年以来、全国規模の選挙が行われていない。政治体制は機能不全に陥り、法治と治安もほぼ崩壊状態にある

2025年7月27日、人道援助車隊從加薩走廊北部抵達加薩城,巴勒斯坦人正在搬運卸下的麵粉袋。 (美聯社)
2025年7月27日、ガザ回廊北部からガザ市に到着した人道援助車から、小麦粉の袋を運ぶパレスチナの人々。(写真/AP)

台湾、成熟した民主主義と英国の経済パートナー

これに対し台湾は、1949年の政権樹立以来、三度の政権交代と七度の総統直接選挙を実施し、報道の自由や人権保障を備えた成熟した法治国家となっている。中国が国際社会で台湾を孤立させようとするなかでも、台湾は安定した自由選挙を継続してきた『エコノミスト』2024年民主主義指数(Democracy Index 2024)では、台湾は世界12位にランクされている。

台湾は民主国家であるだけでなく、英国にとって重要な経済パートナーでもある。両国間の貿易額は年間で約93.4億ポンド(約1兆8,000億円)に達する。それにもかかわらず、キール・スターマー首相は、建国もされず、統治能力も弱く、貿易の利点も限られるパレスチナを承認する一方で、民主的かつ繁栄し、戦略的に友好的な台湾に対しては沈黙を続けている

英國首相施凱爾(Keir Starmer)。(美聯社)
英国のキール・スターマー首相(写真/AP)

英海軍は台湾海峡で行動、政治承認は依然消極的

英国は一方で、台湾防衛への軍事的関与を示している。英国海軍はインド太平洋地域、とくに台湾海峡で「航行の自由」作戦を定期的に実施し、地域の安全保障に貢献している。最新鋭空母「プリンス・オブ・ウェールズ」は現在、多国籍軍事演習「タリスマン・セイバー(Talisman Sabre)」に参加中で、約3.5万人の兵士が演習に加わり、中国による台湾攻撃の抑止を狙う。

ジョン・ヒーリー国防相は「もし戦う必要があれば、歴史が示す通り、英国とオーストラリアは肩を並べて戦う。共に訓練し、戦いに備え、抑止力を高める」と強調した。しかしコフリン氏は、こうした強い調子で、まだ存在しないパレスチナ国家を守ると語る労働党閣僚の声はほとんど聞こえないと指摘する。

2023年に署名された英米豪の《AUKUS安全保障パートナーシップ》でも、英国は2027年からインド太平洋に原子力潜水艦を輪番配備し、先端技術開発を進める方針を確認した。これは2021年の《総合レビュー報告》で打ち出した「インド太平洋への傾斜」戦略の具体化でもある。

「一つの中国」政策の限界と英国のジレンマ

英国は1972年に中国と国交を樹立して以来、「一つの中国」政策を維持し、北京を唯一の合法政府と認めつつ、台湾との交流は非公式にとどめてきた。経済・安全保障面では関係を深める一方で、政治的承認には踏み込まない「戦略的曖昧さ」を貫いてきた。

しかし近年、中国の習近平国家主席は「台湾統一」を2049年の国家目標として明言し、人民解放軍は大規模な軍備増強を進めている。西側の一部分析では、中国は2027年までに台湾への全面侵攻能力を備える可能性があるとされる。

英国が台湾防衛のために中国との戦争リスクを負う覚悟があるなら、パレスチナと同等の外交的コミットメントを示さない理由は何なのか。そうでなければ、将来の衝突時に「主権を認めていない相手のために戦う」という不安定な立場に追い込まれる危険がある、とコフリン氏は警告している。

中国語関連記事

編集:田中佳奈

最新ニュース
特集》首相を見守った台日友情 安倍派の知られざる支え手
分析》大規模罷免後の米中台情勢 焦点はトランプの台湾対応
台湾の20%関税政策3》日本の輸出競争力に暗雲 五大産業直撃
台湾の20%関税政策2》半導体調査結果迫る 企業に232条項・関税・チップ税の三重圧
台湾の20%関税政策1》米国が鉄鋼や自動車部品に最大50%関税、一部業界は予想外の恩恵
台湾が土壇場で20%重税を突如発表 英紙報道が示すその背景と理由
トランプの「兄弟外交」が崩壊:プーチンとネタニヤフが応じず、終わらない戦争が平和賞の夢を打ち砕く恐れ
国家主導のイノベーションはなぜ加速したのか――中国の「市場と統制」の両立を読み解く
第二次世界大戦をめぐる「記憶の闘い」 FCCJで国際研究者3名が語る現代の論点
世界で最もAIが使いやすい国へ 城内実大臣が描く日本の未来
台湾東部・台東人気観光地ランキング発表 絶景と便利さで富岡が1位に
台湾の旅行客が日本の心霊スポットで遺体発見 廃墟ビルから白骨化した遺体見つかる
少年犯罪と闇バイト急増 龍谷大・浜井浩一教授が警鐘「日本の治安は揺らいでいる」
台湾発TeamT5、サイバー脅威の最新動向と防御戦略を解説
戦後80年、日本の役割を問う――中西寛教授が国際秩序と外交課題を語る
飛行機で最も汚い場所は枕やカーペットではない? 客室乗務員が明かす「一度も清掃されない1箇所」とは
なぜ台湾だけが「一時的な関税」に区分されるのか? 専門家が語る「頼清徳が触れない事」:トランプの罠に陥る
舞台裏》大規模リコールが崩壊 民進党は無関心を装う 病院のメンタル科に若者が次々と駆け込む
なぜ台湾だけが「暫定関税」に? 専門家が語る「頼清徳が語らなかった事実」:トランプの罠に陥った
2025年新竹駅おすすめグルメ》格安グルメの集まる場所!老舗の美食15選、サクサクのタロイモボールや肉汁たっぷりの城隍包
外国メディアが分析 トランプ氏の台湾冷遇で浮き彫りになる頼清徳政権の苦境
トランプ氏が台湾に冷たい理由 WSJ「習近平氏との大取引を模索」
夏珍コラム:頼清徳は救えるか?
「松本零士展 創作の旅路」開幕 DJ KOOさんと真山りかさんがセレモニーに登場、松本零士の創作人生と“銀河の旅”に祝福
オーバーツーリズムの克服へ 田中俊徳准教授「持続可能な観光立国に必要なのはルールと分配」
「現実に立脚した安保戦略こそが必要」——折木良一元統合幕僚長が語る戦後80年と日本の進路
台湾グルメは鼎泰豊だけじゃない!日本人旅行者が「本当に絶品」と絶賛する隠れた名店とは
松本零士展が夏休み仕様に拡充 新フォトスポットや限定グッズも登場、SNS割引キャンペーンも実施中
アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭
相互関税で台湾に20%か 日韓EUより5%高い
台湾、「関税20%は交渉目標に非ず」頼総統が米と再交渉へ明言
台湾株、トランプ関税で夜間に180ポイント急落 非農業統計控え市場に緊張走る
台湾・台中と兵庫・尼崎が「スマート都市」で意気投合 デジタル×脱炭素で国境越えた交流へ
8月8日は「ポテコなげわの日」!池袋で限定イベント&お菓子プレゼントも
裏金17億円、40年続いた潜水艦修理めぐる不正の実態 防衛省が海自93人を一斉処分
中国軍、忠誠は共産党でなく習近平? 青学大・林教授が指摘する「制度なき統制」の危うさ
専門家が警告:この「5つの情報」をChatGPTに絶対に伝えないで! 一言で財産とキャリアを失う可能性とは
「災害対応にジェンダーの視点が不可欠」 女性自衛官らが語る現場の変化と課題
吳典蓉コラム:「民意」を読み違えた頼清徳総統 大規模リコールで露呈したリーダーの孤立
台湾と中国、異例の非公式交渉 頼政権の「オリーブの枝」を北京が一蹴
親中路線を強めるトランプ氏 頼清徳総統を冷遇か?米中「取引外交」に警鐘
舞台裏》台湾リコールで中国も誤算 最も懸念していた人物とは?
FRB分裂、利下げ巡り異例の反対票 31年ぶりの波乱で市場動揺
台湾関税は20%に決定 なぜ「最良税率」が日韓より高いのか、その背景とは
20%関税で台湾株1.2兆台湾ドル蒸発 国家安定基金が緊急介入