英国、フランス、カナダは、今年9月の国連総会でパレスチナ国家の承認を支持するとみられている。しかし、この動きがガザ地区の停戦や人道危機の終結につながるかは依然として不透明だ。英紙『テレグラフ』の国防・外交編集者コン・コフリン(Con Coughlin)は、評論で英国政府の姿勢に矛盾があると指摘する。すなわち、まだ存在しない「想像上の」パレスチナ国家を承認する一方で、実際に存在する台湾を承認しないのはなぜか、という疑問だ。
現在のパレスチナ地域は、ヨルダン川西岸を統治するパレスチナ自治政府(PA)と、ガザを支配するイスラム組織ハマスの二つに分断されている。ハマスは西側諸国からテロ組織とみなされ、ガザでは2006年以来、全国規模の選挙が行われていない。政治体制は機能不全に陥り、法治と治安もほぼ崩壊状態にある。

台湾、成熟した民主主義と英国の経済パートナー
これに対し台湾は、1949年の政権樹立以来、三度の政権交代と七度の総統直接選挙を実施し、報道の自由や人権保障を備えた成熟した法治国家となっている。中国が国際社会で台湾を孤立させようとするなかでも、台湾は安定した自由選挙を継続してきた。『エコノミスト』2024年民主主義指数(Democracy Index 2024)では、台湾は世界12位にランクされている。
台湾は民主国家であるだけでなく、英国にとって重要な経済パートナーでもある。両国間の貿易額は年間で約93.4億ポンド(約1兆8,000億円)に達する。それにもかかわらず、キール・スターマー首相は、建国もされず、統治能力も弱く、貿易の利点も限られるパレスチナを承認する一方で、民主的かつ繁栄し、戦略的に友好的な台湾に対しては沈黙を続けている。

英海軍は台湾海峡で行動、政治承認は依然消極的
英国は一方で、台湾防衛への軍事的関与を示している。英国海軍はインド太平洋地域、とくに台湾海峡で「航行の自由」作戦を定期的に実施し、地域の安全保障に貢献している。最新鋭空母「プリンス・オブ・ウェールズ」は現在、多国籍軍事演習「タリスマン・セイバー(Talisman Sabre)」に参加中で、約3.5万人の兵士が演習に加わり、中国による台湾攻撃の抑止を狙う。
ジョン・ヒーリー国防相は「もし戦う必要があれば、歴史が示す通り、英国とオーストラリアは肩を並べて戦う。共に訓練し、戦いに備え、抑止力を高める」と強調した。しかしコフリン氏は、こうした強い調子で、まだ存在しないパレスチナ国家を守ると語る労働党閣僚の声はほとんど聞こえないと指摘する。
2023年に署名された英米豪の《AUKUS安全保障パートナーシップ》でも、英国は2027年からインド太平洋に原子力潜水艦を輪番配備し、先端技術開発を進める方針を確認した。これは2021年の《総合レビュー報告》で打ち出した「インド太平洋への傾斜」戦略の具体化でもある。
「一つの中国」政策の限界と英国のジレンマ
英国は1972年に中国と国交を樹立して以来、「一つの中国」政策を維持し、北京を唯一の合法政府と認めつつ、台湾との交流は非公式にとどめてきた。経済・安全保障面では関係を深める一方で、政治的承認には踏み込まない「戦略的曖昧さ」を貫いてきた。
しかし近年、中国の習近平国家主席は「台湾統一」を2049年の国家目標として明言し、人民解放軍は大規模な軍備増強を進めている。西側の一部分析では、中国は2027年までに台湾への全面侵攻能力を備える可能性があるとされる。
英国が台湾防衛のために中国との戦争リスクを負う覚悟があるなら、パレスチナと同等の外交的コミットメントを示さない理由は何なのか。そうでなければ、将来の衝突時に「主権を認めていない相手のために戦う」という不安定な立場に追い込まれる危険がある、とコフリン氏は警告している。
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編集:田中佳奈
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