台湾の頼清徳氏はニューヨーク経由での訪米を拒否され、国家安全会議の顧立雄氏の訪米計画も取り消された。さらに、台湾製品の対米関税は周辺国より高く設定されており、台米関係はかつてない試練に直面している。『ブルームバーグニュース』、『フォーリンポリシー』、『ウォール・ストリート・ジャーナル』は相次いで特集を組み、トランプ氏が習近平氏との会談に向けて台湾の優先度を下げていると分析した。『フォーリンポリシー』は、こうした動きがワシントンの対中強硬派にとって大きな打撃だと指摘し、『ブルームバーグ』のコラムニストは頼氏が「後がない」状況に追い込まれていると懸念を示している。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』は7月31日の社説で、トランプ氏がニクソン大統領の外交を想起させるような動きを見せていると論じた。冷戦期にニクソン氏が中国を引き込みソ連を牽制したように、今回は習近平氏を取り込みプーチン氏に圧力をかける構図が浮かび上がる。これはウクライナにとって追い風となる一方、台湾には明らかに不利な展開だ。『フォーリンポリシー』副編集長のジェームズ・パーマー氏は、頼氏のニューヨーク経由拒否が台米関係の重要な指標になり得ると述べ、訪米見送りは北京への配慮と見る向きが強いとした。
米国は中華民国を正式承認していないため、台湾の指導者は正式訪問できず、1994年に認められた「経由訪問」に頼るしかない。だが今回の対応は異例で、通常なら議会の反発を招くはずだ。2018年に米議会は台湾高官の訪米を支持する「台湾旅行法」を可決しているが、トランプ氏の判断に公然と異を唱える議員はほとんどいない。パーマー氏は、こうした冷遇は対中強硬派にとって痛烈な打撃であり、「自らの惨めさを招くものだ」と評している。
さらに、国務長官マルコ・ルビオ氏や国防次官エルブリッジ・コルビー氏といった対中強硬派も、政権内で必ずしも台湾を重視していない様子がうかがえる。ルビオ氏は就任後に対中民主資金の削除を支持し、コルビー氏は台湾を対中戦略上の駒程度にしか見ていないとされる。一方、米中貿易交渉は不確実性に満ち、歴史的な高関税が続く中で、中国がホワイトハウスで優位に立っている構図が浮き彫りになった。パーマー氏は、トランプ氏が貿易合意を急ぐ背景には、エプスタイン事件から世論の関心を逸らす狙いもあると指摘する。
『ブルームバーグ』のカリシュマ・ヴァスワニ氏は、トランプ氏は勝者を好むが、頼氏は追い詰められていると論じる。懲罰的関税の脅威に加え、昨年の就任以来最大の苦境に直面する頼氏は、初の大規模リコール失敗による政治的打撃や貿易交渉の停滞にも悩まされている。頼氏の中南米訪問が頓挫した背景には、トランプ政権が北京を刺激したくなかったことがあるとみられる。台湾側は災害対応を理由に訪問取りやめを説明するが、実態はトランプ氏にとって台湾の優先度が低いことを示すものだとヴァスワニ氏は指摘する。
ヴァスワニ氏はこう結んでいる。「頼清徳氏は、台湾が大国の対立に翻弄される駒にならないよう実質的な行動を取らねばならない。しかし初のリコールが完全に失敗した後、この任務は一層困難になった。8月に予定される次のリコール投票も失敗すれば、頼氏は野党が握る議会の現実を直視せざるを得ないだろう。任期を「レームダック」で終えたくないのなら、反対派との妥協も視野に入れる必要がある。」
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編集:田中佳奈
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