防衛省は7月31日、「女性・平和・安全保障(WPS)」に関するシンポジウムをハイブリッド形式で開催し、防災・災害対応分野におけるWPSの国内外の取り組みについて、関係省庁や関係機関の担当者が実例を交えて発表した。
冒頭、防衛省の廣瀬政策立案総括審議官は「災害時においては、特に脆弱な立場にある人々のニーズに応じた支援が求められる」と述べたうえで、「女性や子ども、高齢者、障がい者への対応においてWPSの視点は欠かせない」と開会挨拶を行った。
防衛省WPS国際連携室の松沢朝子室長は、政府によるWPS関連の行動計画を紹介し、「能登半島地震の現場では、女性自衛官が参加したことで、トイレの設置や物資配布にジェンダーの視点を取り入れることができた」と説明。性別を問わず誰もが安心して活動できる職場環境の整備や、災害対応における女性視点の重要性を強調した。
続いて、海上幕僚監部防衛課の氏田あき三等海佐は、女性自衛官としての勤務経験に基づき、「かつては制服や装備が体格に合わないことも多かったが、現場の声が反映され、改善が進んでいる」と語った。
また、第三護衛隊群の先任伍長を務める大久保英機海曹長は、部隊内における教育のあり方に触れ、「階級や性別にとらわれず、フラットな意識を持つことが重要。災害対応は誰にとっても他人事ではない」と述べ、現場における意識改革の必要性を訴えた。
内閣府からは、防災担当の瀧澤謙・内閣官房審議官が登壇し、「避難所の運営や物資の管理など、災害時には性別に起因する課題が多く存在する」と指摘。さらに、男女共同参画局の市川恭子参事官は「女性の声が災害対応の施策に十分反映されていない現実がある。地域に根ざしたネットワーク形成が重要だ」と述べ、女性の意思決定への参画促進の必要性を訴えた。
消防庁からは脇本篤・国民保護・防災部国際協力官が登壇し、「避難所での性暴力やプライバシー確保といった課題は、性別を問わず共有すべき問題」とし、支援者向けの研修制度の整備や自治体へのWPSの普及が急務であると語った。
外務省の猿橋弘幸・女性参画推進室長は、「ODAや国際平和協力の現場ではすでにWPSの視点が不可欠となっている。国内の災害対応でも同様にジェンダー主流化を進めるべきだ」と強調した。
国際協力機構(JICA)の国際協力専門員・宇佐美茉莉氏は、アジア各国との防災協力の事例を紹介。「現地の女性が災害リスクを理解し、自ら発信することが、継続的な支援につながる」と述べ、女性リーダーの育成支援の重要性を訴えた。
国連女性機関(UN Women)本部の戦略軍事顧問タイソン・ニコラス氏はオンラインで講演し、「WPSは『保護』にとどまらず、女性が意思決定に関与することで社会の平和と安定につながる」と述べ、WPSに基づく国際的枠組みとその進展について解説した。
シンポジウム後半のパネルディスカッションでは、防衛省の松沢室長、内閣府の市川参事官、消防庁の藤本国際協力官が登壇。「避難所における女性専用スペースの設置」「意思決定機関への女性の参画」「性別データの収集と可視化」といった具体的な課題について意見を交わし、関係機関のさらなる連携強化を確認した。
今回のシンポジウムは、防災分野におけるWPSの視点を国内で定着させるための実践的な一歩となった。
編集:梅木奈実 (関連記事: 外国人との共生社会を目指す、鈴木法相「外国人を人として受け入れる時代へ」──新・育成就労制度の方向性 | 関連記事をもっと読む )
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