評論:なぜリコールは失速したのか 強権的な拘束と「司法不信」が招いた反発

2025-07-31 11:30
柯文哲氏を支持する動機となった。写真は民衆党の黄国昌主席が支持者に呼びかける様子。(写真/蒋帆威撮影)
柯文哲氏を支持する動機となった。写真は民衆党の黄国昌主席が支持者に呼びかける様子。(写真/蒋帆威撮影)
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7月26日の大規模リコールは全敗に終わり、民進党陣営からは様々な分析が飛び交っている。「現金1万元の普及配布で台湾を買収した」「国民党の地盤を攻めても基本票には勝てない」「中間層の有権者が動かなかった」「『抗中保台』の効力が低下している」など、多種多様である。中には滑稽なものや的外れなものもあるが、民進党が意図的に目をそらしている一点がある。「民進党嫌い」という感情は2018年以来一向に薄れることはなく、過去1年で「嫌悪」から「恐怖」へと変化しつつある。民進党政権が「独裁に傾く」可能性は、国民の間で疑念から確信へと変わりつつあり、特に司法の崩壊、すなわち権限乱用による不当拘束がその鍵となっている。

憲法法廷の民意に合わない「判決」は大法官の威信を失墜させた

司法の崩壊は一朝一夕に起きたものではない。皮肉なことに、その伏線はすでに9年前、蔡英文総統が開催した司法改革の国是会議において張られていた。当時は「改革」の響きに国中が沸き立ち、重大な危機の兆候には誰も気づかなかった。蔡氏が就任後にまず行ったのは特別捜査チームの廃止であり、「捜査を検察に戻す」という名目だった。しかしその成果は、第1期における総統専用機での免税たばこ密輸事件や、SOGO百貨店を巡る立法委員の口利き事件以外、目立った成果を挙げることはなかった。

司法が政治の道具になっているかどうかは意見の分かれるところだが、公正な評価の余地はある。蔡政権下で行われた国民党資産やその関連団体の資産、農田水利会の資産の国有化は、いずれも大きな政治的争点であった。これらは一部が高等行政法院で勝訴した例を除き、最終的に憲法法廷でことごとく敗訴(違憲ではないと判断)となった。中には審理そのものを拒否された案件もあり、大法官が「政治的現実」に従う傾向は明白だった。とはいえ、当時はまだ異論を記す「反対意見書」が存在していた。

しかし、蔡氏が第2期で「完全なる民進党名簿」に基づいて大法官を指名・交代させて以降、憲法法廷からは雑音が消えた。前院長・許宗力氏の退任前に示された「実質的死刑廃止」解釈が社会的怒りを招いたのもその表れである。さらに問題なのは、憲法法廷が賴清德政権と歩調を合わせ、「再議→違憲審査→大規模リコール」という流れの中で、国会改革法案に対して国会の権限を全面的に縮小する判決を下した点である。判決公表中には、大法官が立法院を見下すような態度をあからさまに表し、司法院および憲法法廷の権威は見る影もなく失墜した。

立法院は憲法訴訟法を改正し、違憲判決の発出に必要な同意人数を1人増加させた。これに対し、民進党は「国民党と民衆党による違憲的乱政だ」と批判しているが、実のところこの「わずか1人の差」にこそ、民意の傾きが表れている。より深刻なのは、国民党・民衆党の改正に対し賴政権が正面から向き合わず、さらに賴清德氏が2度にわたって行った大法官の指名がいずれも立法院で否決された点である。しかもそのうち両回とも、民進党内部からの反対によって否決されており、賴氏が大法官の人選に真剣さを欠いていたこと、また野党を含む幅広い意見を取り入れる姿勢が見られなかったことを示している。

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