評論:頼清徳総統は蔡英文前総統ではない

2025-07-29 11:40
蔡英文前総統と頼清徳総統の権限移譲、しかし統治の技術は伝わらず。(写真/総統府提供)
蔡英文前総統と頼清徳総統の権限移譲、しかし統治の技術は伝わらず。(写真/総統府提供)
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台湾与党・民進党が1年半にわたって準備してきた大規模なリコール(罷免)戦略は、7月26日の第一波投票で大きくつまずいた。次回は8月23日に7人の国民党籍立法委員に対するリコール投票が予定されているものの、リコール運動の勢いはすでに失われつつあり、民進党の打撃は決定的との見方が広がっている。

このような中、投票からわずか48時間後、民進党の林右昌(リン・ヨウチャン)幹事長が引責辞任を表明。しかし、大規模リコール構想を推進したとされる「3巨頭」──頼清徳(ライ・セイトク)総統、卓榮泰(タク・エイタイ)行政院長、柯建銘(カ・ケンメイ)立法院民進党総召集人──はいずれも沈黙を保っている。

民進党の政治文化において、こうした対応は異例といえる。過去には陳水扁元総統や蔡英文前総統が、選挙での敗北や党内の不祥事などを理由に党主席の辞任を即座に表明した例がある。しかし、頼総統は今回、謝罪の言葉すら口にせず、リコール失敗の責任を「台湾を愛する市民」へと転嫁するような発言を行った。

卓院長は公の場に姿を現さず、コメントも一切出していない。柯建銘氏は自身の地元・新竹で行われたリコールが「ダブルで失敗」に終わったことを受けて謝罪の姿勢を見せたものの、進退については言及を避けている。

政界では「頼清徳氏は蔡英文氏とは違う」という声も多く、仮に陳水扁元総統や蔡氏が今回のような状況に直面していれば、そもそも「大規模リコール」という選択肢自体がなかっただろうとの見方も出ている。

大罷免全敗後、卓榮泰行政院長は如何にして小野党支配の国会に対処するのか?

大規模なリコール(罷免)運動が全敗に終わったことを受け、与党・民進党やその支持層である「青鳥」グループ内では様々な分析が交わされている。中でも、「もともと国民党の地盤を攻めるのは難しい」という声も聞かれるが、これは当然の指摘にすぎず、今回の作戦の本質を捉えきれていないとの批判もある。

今回のリコール戦略は、選挙人総数のわずか25%の同意で成立する制度を利用し、「小が大を制する」形を狙ったものであり、頼清徳総統自身が主導したとされている。しかし、過去1年あまりにわたり、民進党元幹部の林濁水氏や政治評論家の游盈隆氏らが繰り返し、「無差別的な大規模リコール戦術には戦略的な欠陥がある」と警鐘を鳴らしていた。

それにもかかわらず、投票直前まで頼氏を含む党内上層部は「大リコールで大勝利」という見通しを信じており、その「楽観的な判断」が結果として裏目に出た。党内では「責任は頼清徳氏自身にある」との見方が広がっており、「誰も彼の代わりに責任を取ることはできない」とする声も出ている。 (関連記事: 台湾、大規模リコール失敗 頼清徳政権に打撃 2028年総統選「盧秀燕vs陳其邁」の可能性も浮上 関連記事をもっと読む

さらに、リコール運動を通じて政界の「混濁を一掃する」という期待や、「台湾国民が憲法制定に関わっていない」という政治的課題、さらには災害時の現場対応をめぐり「屋根に登るのは住民の責任」「国軍は災害救助を担当しない」といった頼氏の過去の発言が相次いで取り沙汰され、指導者としての姿勢に対する批判が高まっている。

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