評論:台湾「反共リコール」が招いた民主主義の歪み──失われた1年の代償とは

2025-07-28 15:27
リコール団体が濟南路で開票イベントを開催。全候補のリコール失敗に、現地では涙を流す支持者の姿も見られた。(写真/劉偉宏撮影)
リコール団体が濟南路で開票イベントを開催。全候補のリコール失敗に、現地では涙を流す支持者の姿も見られた。(写真/劉偉宏撮影)
目次

台湾で行われた「大リコール」投票が終わり、対象となった24人の立法委員と新竹市長はいずれも議席を守った。一部では、リコール反対票が前回選挙の得票数を上回る例もあり、これは単なる「地盤死守」を超えて、野党陣営による版図拡大の可能性を示した。与党・民進党が掲げていた「国会多数の逆転」は実現せず、就任から1年を迎えた賴清德氏の政権にとって、大きな挫折となった。

大リコール敗因の一つ:街中にあふれる「中国共産党の共犯者」

敗因のひとつは、「反共」というスローガンの空転である。投票直後、国民党と民衆党は「政治的茶番を終わらせる」と呼びかけ、社会の分断修復を訴えた。これに対し、リコール運動を主導した実業家の曹興誠氏は「中国共産党による長期的な統戦と浸透が我々の想像を超えていた」と語り、新竹で活動した林志潔氏も「これは国防戦争の始まりだ」と訴えた。運動を推進した団体は、次なる戦いに向けて資源を集中させると明言しており、「戦争」はまだ終わっていない。

当初は「反共・台湾防衛」を掲げていたリコール運動だが、次第に「民進党に反対=共産党の共犯者」という過激なレッテル貼りへと変質した。黒熊学院の沈伯洋氏や曹氏への批判は激しさを増し、野党提出の法案や予算への賛同、労働組合設立や有給休暇の拡充までもが「共産党の影響」と断じられた。ついには「民進党と青鳥(民進党の支持団体)以外は全員が共犯者」という極端な結論に至った。

「反共」は果たして誰に向けられていたのか。中国共産党か、それとも異論を唱えるすべての台湾人か。反対派を「親中売台(中国に親和的で台湾を売る行為)」と断じ、政策議論そのものを封じようとする姿勢は、民主主義にとって深刻な脅威である。

大リコール敗因の二つ目:無差別狙撃による野党立法委員狙いは民主主義に反する

リコール団体が野党立法委員に向けた批判は、「親中売台(中国に親和的で台湾を売る行為)」というレッテルにとどまらない。彼らは、国民党・民衆党両党が「多数の優位」を盾に、違憲の法案や予算を次々と可決し、国会を踏みにじっていると主張し、「25%の同意票さえあれば議席を奪回できる」としてリコールの正当性を訴えた。

しかしこの論理は、民主主義の原理に根本的に反する。リコール制度は、極端な不正や背信行為への例外的な是正手段であり、通常は定期的な選挙によって政治的判断が下されるべきだ。違法行為がないにもかかわらず、制度の濫用によって野党全体を狙い撃ちすることは、民主主義の破壊に等しい。

今回の「無差別狙撃」によるリコール攻勢は、議会にとって不可欠な「抑制と均衡」の機能を崩壊させ、異論を許さない「妨害不可能な国会」を構築しようとするものだった。それは、専制主義の一歩手前である。

さらに、リコール投票には憲法裁判所(大法官)が国会改革法案を退けたことへの不満も影を落としている。だが、台湾師範大学での献血事件、台風による太陽光発電設備の倒壊、検察や公安の人事調整などを見ても、本来必要だったのは議会による監視と調査権限の行使であり、リコールではない。

最新ニュース
特集》リコールボランティアの失望 静かなる頼清徳氏と民進党幹部に、市民の思いは届くのか
評論:関税発表直前、リコール大敗の余波──台湾・頼政権は米国の圧力に抗えるのか
トランプ氏が日本に不信感?専門家が警告:日米関係はかつてない低迷、マッカーサー氏の同盟体制に揺らぎ
「米国への譲歩は不要、いじめっ子は協議を軽視する!」 《FT》警告:トランプは際限なく要求、あらゆる協議は過眼雲烟
タイ・カンボジア停戦協議へ 5日間の衝突で33人死亡、20万人避難
台湾の関税交渉が進行中!米国「半導体232調査報告書」を先行公表へ 重要な時期が明らかに
支持層は熱狂的な支持者のみ?トランプ支持率が37%まで急落、「ある層」が大量離脱
米欧貿易協定に6000億ドル投資合意 関税15%で衝突回避も不安残る
東京国際合唱大会で「台湾」が「中華台北」に変更 中国の圧力で主催者が国旗撤去、台湾側が抗議
タイ×カンボジアで再び砲撃応酬 トランプ介入も停戦ならず、死者33人・避難20万人超
台風8号「コメイ」復活 台湾には上陸せずも「間接的被害」に警戒強まる
特集》大規模リコールで惨敗 民進党と頼清徳へ民意の鉄槌
北京観察》大規模リコール結果発表 中国国台弁『全く意外でない』
百年の神殿が遺体処理場に 数百体の女性遺体に暴行痕、清掃員が10年隠し通報
ガザで前代未聞の飢餓:2時間に1人死亡! 骸骨のような子どもが病室に溢れ、イスラエルが援助制限で「徐々に餓死」
フランスが「パレスチナは国家」と認める意向を表明! マクロン大統領、中東和平は可能と強調。国連総会で正式発表へ
小笠原欣幸が大罷免を分析:頼清徳の「団結十講」が裏目に、中共の台湾浸透が一層深化する恐れ
726大罷免、全敗の理由とは?主要国際メディアの反応を総覧 今後の賴清德氏は苦戦か
舞台裏》台湾が大罷免運動を開始 蔡英文氏がずっと心配していた一つのこと
特集》台湾・桃園で民進党チーム苦戦 リコール失敗、鄭文燦氏の地盤取り戻せず
特集》台湾・台北の徐巧芯氏、リコール危機を乗り越え蔣万安市長陣営を守る
特集人物》「他人は私を狂人と笑う」――台湾・柯建銘氏、仕掛けた大規模リコールは大失敗
特集》台湾・新竹リコール戦 野党連携で逆風を跳ね返し、国民党・民衆党陣営が議席を死守
「おいしい掛け算」で朝の新習慣──WHGホテルズ全国28施設で「ハイブリッド朝食フェア」開催
三重県が東京で観光PRイベント開催 相川七瀬さんが伊勢神宮の魅力を語る
松阪牛も伊勢茶も忍者体験も!東京で「三重の魅力」大集合
台湾新幹線ホームに現れた謎の目盛り?その正体と乗客への影響を専門家が解説
大規模リコールはなぜ失敗したのか 民進党の多正面作戦を医師が分析し浮かぶ10の敗因
独占》朱立倫が党首退任決意 リコール反対運動後の焦点は盧秀燕へ
特集》王鴻薇氏試練を乗り越え 頼清徳氏が意外な後押し
2025桃園駅グルメおすすめ》小吃激戦区で食べ歩き!通が選ぶ名店15軒
WHGホテルズが全国28ホテルで「印度カリー子と味わう!辛麗なるカレー祭り」開催へ
台湾リコール「25対0」で民進党大敗 中国研究者「頼清徳氏は決して諦めない、対中関係に光明は見えず」
台湾リコール否決、賴清德総統「これは勝ち負けではない」民主の力を強調
特集》台湾・花蓮市の「地元の王」傅崐萁氏 反対勢力まとまらずリコールを回避
台湾「7・26リコール投票」反対多数で否決へ 全選挙区で罷免不成立の見通し、結果一覧はこちら!
特集》台湾・台中市長 盧秀燕氏が支えた若手3人 リコールの荒波を乗り越え大統領選への布石に
特集》UMC創業者・曹興誠氏が率いた大規模リコール運動、失敗に終わる 民進党は利用するだけなのか?
特集》葉元之氏、まさかのリコール回避 「全党で一人を救う」も、なお漂う暗雲
フジロック2025初日、落日飛車×HYUKOHが共演 アジアをつなぐ音楽の熱狂
インタビュー》東京・大久保に「媽祖廟」誕生秘話 詹徳薫氏が語る信念と構想
戦争に発展する恐れも!タイ・カンボジア衝突が2日目に突入 「砲撃が止まらず」16人死亡、10万人避難
客家文化を体感!台湾・桃園「義勇季」、7月27日開幕 親子イベントや小旅行で「義勇」の心を身近に
BOOKOFF主催「Reclothes Cup」に612作品 若手クリエイターの夢舞台、10月福岡でファイナルへ
2025年台中駅グルメおすすめ》老舗激戦区の16軒 庶民派小吃と小点心が6元から
大阪アジアン映画祭2025、オープニング作品に『万博追跡』(2Kレストア版)を世界初上映へ
昼は縁日、夜はDJ!エキュート上野・日暮里で彩り豊かな夏を楽しむ「いろめく夏を あつめて夜」フェア開催
池袋で「アニメ東京ステーションの夏まつり」開催決定 子ども向けアニメ制作ワークショップも実施へ