台湾で行われた「大リコール」投票が終わり、対象となった24人の立法委員と新竹市長はいずれも議席を守った。一部では、リコール反対票が前回選挙の得票数を上回る例もあり、これは単なる「地盤死守」を超えて、野党陣営による版図拡大の可能性を示した。与党・民進党が掲げていた「国会多数の逆転」は実現せず、就任から1年を迎えた賴清德氏の政権にとって、大きな挫折となった。
大リコール敗因の一つ:街中にあふれる「中国共産党の共犯者」
敗因のひとつは、「反共」というスローガンの空転である。投票直後、国民党と民衆党は「政治的茶番を終わらせる」と呼びかけ、社会の分断修復を訴えた。これに対し、リコール運動を主導した実業家の曹興誠氏は「中国共産党による長期的な統戦と浸透が我々の想像を超えていた」と語り、新竹で活動した林志潔氏も「これは国防戦争の始まりだ」と訴えた。運動を推進した団体は、次なる戦いに向けて資源を集中させると明言しており、「戦争」はまだ終わっていない。
当初は「反共・台湾防衛」を掲げていたリコール運動だが、次第に「民進党に反対=共産党の共犯者」という過激なレッテル貼りへと変質した。黒熊学院の沈伯洋氏や曹氏への批判は激しさを増し、野党提出の法案や予算への賛同、労働組合設立や有給休暇の拡充までもが「共産党の影響」と断じられた。ついには「民進党と青鳥(民進党の支持団体)以外は全員が共犯者」という極端な結論に至った。
「反共」は果たして誰に向けられていたのか。中国共産党か、それとも異論を唱えるすべての台湾人か。反対派を「親中売台(中国に親和的で台湾を売る行為)」と断じ、政策議論そのものを封じようとする姿勢は、民主主義にとって深刻な脅威である。
大リコール敗因の二つ目:無差別狙撃による野党立法委員狙いは民主主義に反する
リコール団体が野党立法委員に向けた批判は、「親中売台(中国に親和的で台湾を売る行為)」というレッテルにとどまらない。彼らは、国民党・民衆党両党が「多数の優位」を盾に、違憲の法案や予算を次々と可決し、国会を踏みにじっていると主張し、「25%の同意票さえあれば議席を奪回できる」としてリコールの正当性を訴えた。
しかしこの論理は、民主主義の原理に根本的に反する。リコール制度は、極端な不正や背信行為への例外的な是正手段であり、通常は定期的な選挙によって政治的判断が下されるべきだ。違法行為がないにもかかわらず、制度の濫用によって野党全体を狙い撃ちすることは、民主主義の破壊に等しい。
今回の「無差別狙撃」によるリコール攻勢は、議会にとって不可欠な「抑制と均衡」の機能を崩壊させ、異論を許さない「妨害不可能な国会」を構築しようとするものだった。それは、専制主義の一歩手前である。
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さらに、リコール投票には憲法裁判所(大法官)が国会改革法案を退けたことへの不満も影を落としている。だが、台湾師範大学での献血事件、台風による太陽光発電設備の倒壊、検察や公安の人事調整などを見ても、本来必要だったのは議会による監視と調査権限の行使であり、リコールではない。