台湾政界を揺るがした大規模なリコールは、7月26日に第一段階の投票が行われた。意外にも「激戦区」となったのは台北市で、とりわけ注目を集めたのは市内第3選挙区(中山区・北松山区)選出の王鴻薇氏だった。この選挙区は台北市長の蔣萬安氏がかつて地盤としていた場所で、王氏は2023年に急遽この区へ転じて立候補し当選を果たしたものの、「地盤を深く築けていない」との批判がつきまとっていた。最終的に王氏はリコールを乗り切ったものの、2023年補選、2024年の立法委員選挙、そして2025年のリコールと、3年間で3度もの厳しい選挙戦を経験したため、党内では「最も苦労続きの国民党立法委員」と揶揄されている。
今回、なぜ王氏がこれほど危険な立場に立たされたのか。党内では「陸戦(テレビやネット、SNSなどを通じて世論を動かす広報・宣伝戦)」と「空戦(地元組織や後援会を使い、現場で票を固めていく地上戦)」の二つの側面から分析する声が多い。空戦面では、王氏は今年、国民党団の書記長を務め、総召集人の傅崐萁氏と連携してきた。しかし、立法院長の韓国瑜氏が5月末に立法院で農産物のPR演説をした際、「最近は人前に出るのが恥ずかしいようだ」と冗談交じりに語ったように、かつてメディアで強気な発言を連発していた傅氏もリコールの重圧により地元・花蓮へ頻繁に戻らざるを得なくなった。その結果、総召集人が不在の間の発言や説明の役割は、当然のように書記長である王氏に集中することになった。
傅崐萁氏と行動を共にし 王鴻薇氏は青鳥の矢面に
王鴻薇氏は元記者で、その後は新党から台北市議に立候補した。2013年からは国民党を代表して台北市議を務め、これまでに5回連続当選を果たしている。国民党の文伝会副主任委員を務めた経歴もある。一般的に、国民党との選挙戦で資源の乏しい新党は「空中戦」を中心とした戦略を取ることが多く、地方組織を基盤とする国民党の政治家に比べ、新党出身者は弁が立つ傾向が強い。メディア出身の王氏はその代表格で、立法院での記者からの質問や応答でもたじろぐことはない。ただ、新党の政治的な立場が影響し、今回の「憎しみ動員」による大規模リコールでは発言が青鳥(立法院の前で抗議や監視を行う、市民運動系のグループ)の怒りをさらにあおり、攻撃の的となる場面が増えた。それでも多くの立法院スタッフは王氏に同情し、「実際は傅崐萁氏に巻き込まれたのではないか」と擁護の声を上げている。 (関連記事: 台湾リコール「25対0」で民進党大敗 中国研究者「頼清徳氏は決して諦めない、対中関係に光明は見えず」 | 関連記事をもっと読む )

(資料写真、劉偉宏撮影)
王鴻薇氏、区をまたぐ選挙活動で不利 前党部主任委員の収監で組織動員に大打撃
本来「陸戦」は国民党の得意分野であり、青陣営(国民党を中心とした保守・親中寄りの勢力)にとって組織的な動員は今もなお最も効果的に地盤票を掘り起こす手段のひとつとされている。しかし前述のとおり、王鴻薇氏はこれまで深く地盤を築いてきた松山・信義の議員選挙区から、中山・北松山へと移った。選挙区は隣接しているものの、松山・信義は青陣営の強い地域であるのに対し、第3選挙区の中山区は緑(与党・民進党やその支持勢力)寄り、北松山は青寄りだが人口が少なく、王氏がこれまで重点的に活動してこなかったため、もともと不利な状況にあった。