台湾の頼清徳総統が掲げる「国家の団結十講」は、台湾社会の結束を呼びかけるものだったが、これまでの講演では「台湾にもかつてマンモスがいた」「中華民国憲法制定時に台湾代表はいなかった」「国軍はビジネスクラスに自動アップグレードできる」といった発言が波紋を呼び、総統としての威信を損なった。中でも「不純物を取り除く」との発言は、大規模リコール運動にも影響を与えたと言われる。
それでも、民進党支持層や各団体はなお「団結十講」を後押ししている。中華民国医師公会全国連合会(医師公会全聯会)もこれに賛同し、社会の建設的な対話を促す役割を果たすと表明。現理事長の周慶明氏は「全国民の福祉を考え、政府と協力し理性的なコミュニケーションを進める」と語り、頼政権への強い支持を示した。しかし、医療界最大の組織である医師公会全聯会では、政治勢力が入り込むことで「内戦状態」が続いている。

これまで国民党寄りの周慶明を支えてきた邱泰源 今回は台南派の陳相国を支持
医師公会全聯会は、政策提言やロビー活動、さらに選挙資源や票田を通じて、医療政策や予算の配分に強い影響力を持つ。膨大な会員数と組織ネットワークを背景に、その立場や動員力は、どの政権が握っていても無視できない存在だとされる。一般的に医療界は民進党陣営が優勢と見られているが、全聯会の選挙は各地の医師会が人口に応じて代表を推薦する方式で、代表総数はおよそ45人。
台北市は8票、新北市は4票を持ち、こうした大都市圏が最大の票田になっている。南部地域は多くが民進党陣営の首長で、代表も民進党寄り。一方、旧台中県エリアは国民党寄り、旧台中市エリアは民進党寄りで票の傾向が固定されており、最終的な勝負の行方を左右するのは政治色が比較的薄い双北(台北・新北)だ。
立法委員の蘇清泉氏がかつて全聯会の会長に当選したのも、馬英九政権期に台北市で3票多く獲得したことが決め手だった。その後の連任を争う際、邱泰源氏が支持基盤を切り崩し、最終的に落選させた経緯がある。
現理事長の周慶明氏は国防管理学院出身で、民進党が優勢な医療界では珍しく国民党寄りと見られている。事情通によれば、周氏が国民党寄りの立場で理事長に選ばれた背景には、邱泰源氏の強力な支援があったという。邱氏が民進党の不分区立法委員を二期務められたのも、英系に属することに加え、理事長として医師人脈を掌握していたからだと広く知られている。邱氏は理事長退任後、温厚な人柄で国民党寄りながら民進党陣営の後ろ盾を必要としていた周氏を支持し、結果的に民進党陣営にとってもプラスになった。
しかし、周氏は理事長就任後に民進党陣営との関係を強化。2023年、頼清徳氏が総統を目指した際には、自ら資金と労力を投じて医療界の後援会を立ち上げ、「頼清徳氏は経歴が一貫しており、医療界への支援と指導を絶えず行ってきた」と称賛した。
ところが現在、周氏が理事長の再選を目指す中で、邱泰源氏が方向転換し、台南市医師公会の理事長を務めた現副理事長の陳相国氏を支持しているとの情報が流れている。邱氏は衛生福利部長としても賛否があるが、頼氏の地盤である台南出身の陳氏を推すことで、陳氏が理事長就任後に不分区立法委員へ進む可能性も視野に入れているとみられる。こうした事情から、邱氏が今回タッグを組む相手は、もはや周氏ではなく陳氏だと囁かれている。