米国は「一つの中国」を承認したのか、それとも認識しただけなのか?『エコノミスト』が読み解く 米中翻訳をめぐる言葉の罠と政治的計算

2025-07-22 15:53
この画像はideogram 2.0 Turboによる作成。
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良好な関係は、まず良好なコミュニケーションから始まる。言葉は緊張を和らげることもあれば、逆に火に油を注ぐこともある。とくに異なる言語を使う相手とやり取りをする際、メッセージは翻訳の過程で本来の意味を失いがちだ。

英誌『エコノミスト』の中国研究員でポッドキャスト制作者の陳潔昊氏は、自身の番組「中美、不用翻譯:語言如何複雑化中美関係?」(Lost in translation: how language complicates US-China relations)で、中国語翻訳の難しさと、誤訳が政治的にどんな影響を及ぼすのかを掘り下げた。

承認か、認識か 翻訳が生む微妙な差

1979年、米中が署名した「上海コミュニケ」で特に注目された一文がある。「米側は、海峡両岸のすべての中国人が『中国は一つであり、台湾は中国の一部である』と堅持していることを“承認する”」――。しかし英語の原文は“acknowledges”で、本来は「承認する」よりも「認識する」に近い。

「承認する」という意味の“recognize”とは異なるニュアンスを持つ言葉が、なぜか中国語版では「承認」として記されていた。ホワイトハウスは後に「米側は中国語版を確認していない。なぜ最終文書で『承認』になったのか把握していない」と説明しており、実際には中国側がこっそり挿入した可能性があるとみられている。

翻訳の違いがあいまいな解釈を生む例は今もある。2025年1月24日、王毅外相と米国のルビオ国務長官が電話会談した際、王毅氏は「好自為之(よく考えて行動するように)」と言った。だが中国側が出した英語版では「I hope you will act accordingly(適切に行動することを望む)」と訳されていた。中国語を理解する人なら「好自為之」が上司が部下を叱責するニュアンスを帯びることを知っている。ルビオ氏は後に「通訳を通した際は特に問題を感じなかった」と振り返った。

なぜ中国語は難しいのか

北京駐在の特派記者コービン・ダンカン氏は、2022年の都市封鎖をきっかけに中国語を学び始めた。「中国語は母語としない人にとって本当に習得が難しい」と率直に語り、その理由を3つ挙げている。

まず、語彙そのものが感情的な色彩を強く帯びる点。英語のようにニュートラルな言葉が多いわけではない。

次に、文法構造の違い。中国語は従属節が少なく、a、an、theといった冠詞もない。例えば習近平氏が「中国を指導強国に」と述べた場合、“the leading power”なのか“a leading power”なのか、微妙な違いが大きな意味を持つ。 (関連記事: 舞台裏》米国だけではない!台湾社会防衛靭性構築 背後にさらに国際的な実力者が暗躍 関連記事をもっと読む

そして意図の問題。中国当局は国内向けと海外向けで異なるメッセージを発信することがあり、言葉のあいまいさを戦略的に利用する。いわゆる「内宣」(国内プロパガンダ)と「外宣」(対外プロパガンダ)でまったく異なる内容を示すことも珍しくない。

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