防衛省が2025年7月に発表した『令和7年版防衛白書』は、第一部第三章「各国の防衛政策と軍事動向」で中国の台湾周辺における活動を詳しく取り上げている。白書は、2020年以降、中国人民解放軍が台湾周辺の空域と海域で軍事的圧力を強め、頻繁な艦艇や航空機の展開、大規模演習を通じて「常態的な存在」を示し、「既成事実化」を進めていると指摘した。
台湾国防部のデータを引用し、2020年9月以降、中国軍機が台湾周辺空域に進入する回数は急増。2021年は年間で970回超、2022年と2023年は1,700回を突破し、2024年には過去最高の3,000回超に達した。特に2022年8月の米国下院議長ペロシ氏の訪台後、中国軍機が台湾海峡の「中間線」を越え東空域に侵入する事例が常態化している。中国政府は「中間線は存在しない」と主張しているが、白書はこれを台湾への重大な挑発だと指摘する。
出動する機種も多様化しており、従来の戦闘機や爆撃機に加え、2021年以降は攻撃ヘリ、空中給油機、無人機なども投入。海域でも2023年は約1,900隻、2024年は約2,500隻の中国艦艇が確認され、海空双方での圧力が定着している。白書はまた、ペロシ氏訪台時に中国が台湾周辺に6つの演習区域を設定し「統合軍事行動」を宣言した経緯を挙げ、同月には9発の弾道ミサイルを発射、うち5発が日本のEEZに落下したことを強調。与那国島沖80キロへの着弾や台湾本島を越えた飛翔は、日本にとって直接的な脅威となった。

その後も中国は演習の規模と範囲を拡大。合同封鎖や対海・対地攻撃、制空作戦、対潜作戦など多岐にわたる内容が確認されている。2024年12月には、賴清徳総統が中米友好国を歴訪しハワイ・グアムを経由した時期と重なり、中国の東部・北部・南部戦区の艦隊と海警船が台湾海峡や西太平洋に展開、遠洋航行を行った。外部ではこれを台湾外交への政治・軍事的対抗と見ている。
白書はさらに、2024年5月に中国海軍が台湾東方海域で活動を初めて公表し、同年10月には海警船が台湾全域を囲む行動を示したことを紹介。軍と執法の境界を意図的に曖昧化し、圧力を拡大していると分析する。2025年4月の演習では「警告隔離」「阻止」「拿捕」といった海上封鎖行動が強調され、過去よりも侵攻的かつ戦時体制を模した性格が強まった。

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