「さよなら丸の内TOEI」──東映最後の直営館が閉館へ。銀座の記憶を未来へつなぐ壮大なメモリアルプロジェクト始動

東京・銀座にある東映の直営映画館「丸の内TOEI」が、2025年7月27日をもって閉館する。1960年の開業以来、65年近くにわたって映画文化を支え、東映作品の象徴的な興行拠点として親しまれてきたこの劇場は、現在の東映会館の再開発に伴い、その歴史に幕を下ろす。これを受けて、東映では全社を挙げた横断プロジェクト「さよなら丸の内TOEI」を始動し、クラウドファンディングや舞台挨拶、記念グッズ、そしてユニクロとの大型コラボレーションなど、多角的な取り組みを通じて劇場の記憶を未来へと継承する壮大なプロジェクトを展開している。

プロジェクトの一環として実施されたクラウドファンディングでは、「映画館の思い出を未来に繋ぐ」をコンセプトに、丸の内TOEIのスクリーンや座席、緞帳など、実際に使用されていた設備を素材としてアップサイクルした記念商品が数多く展開された。支援金額は目標の約510万円に対し、わずか数週間で1,000万円を突破。7月13日時点で総額は約1,042万円、支援者数は930人以上に達しており、かつて劇場に足を運んだ多くのファンたちが、劇場の“エンドロール”に名前を刻むように、その思い出を未来へ残そうとしている。

特に注目されたのは、館内で使われていた設備をアップサイクルしたアイテム群だ。丸の内TOEI①の3種類の座席シートをパッチワーク状に組み合わせて制作したスツールは、脚部分に廃材の木材を用いることで、サステナビリティと物語性を両立させている。座席札を革タグに仕立てたラゲッジタグや、緞帳を用いた巾着、スクリーン生地で仕上げたカードケースや小物入れなども登場し、それぞれに劇場の時間と記憶が込められている。また、アクリルパネルを用いた三角形の東映マーク型キーホルダーなど、遊び心あるデザインも話題となった。

一方、アップサイクルではなく、劇場の設備を“そのままの姿”で手元に残せる商品も用意された。丸の内TOEIで実際に使用されていた座席、座席表プレート、当日のタイムテーブル掲出板などが販売されており、使用感や傷みも含めて「劇場の生きた証」として大切に保管されることを期待されている。また、1950年公開の反戦映画『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』のフィルムが収められていた現物のフィルム缶（1点限定）も販売され、映画の歴史資料としても高い価値が見込まれている。 （関連記事： 台湾・台東で幻想的な夜明け体験！熱気球と音楽が織りなす「曙光ショー」が話題に ｜ 関連記事をもっと読む ）

閉館前の7月には、連日、劇場と縁のある俳優や声優たちが登壇する舞台挨拶も行われている。7月9日には、アニメ『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』の上映前に、声優の野沢雅子が登場。東映と同館との深い関わりを振り返りながら、「舞台挨拶のスタート地点はいつもここ」「どうして壊すの？誰が決めたの？おかしいでしょ」とユーモアを交えて会場を沸かせた。ドラゴンボール作品に出演してきた自身の収録スタイルや、クリリンを呼ぶシーンが特に好きだと語る姿には、ファンからの惜しみない拍手が送られた。

7月12日には、映画『【推しの子】-The Final Act-』の上映後に、主演の櫻井海音をはじめ、齊藤なぎさ、原菜乃華、茅島みずきが登壇。キャストたちは、同作の撮影現場としても使われた丸の内TOEIの思い出を振り返り、「この歴史ある劇場の舞台に再び立てて幸せ」「この場にいたことが人生の宝物になった」と語り、2階席まで埋め尽くされた観客と共に劇場のラストを惜しんだ。

また、6月21日には『あぶない刑事』の特別上映が行われ、主演の舘ひろしと柴田恭兵が登壇。昨年の大ヒット作『帰ってきた あぶない刑事』以来の再登壇となったこの日、劇場前にはチケットを入手できなかったファンも詰めかけ、劇場の前には熱気があふれた。舘は「映画人生における特別な場所」と述懐し、柴田は「丸の内TOEIは閉館となるが、我が“あぶない刑事”は永久に不滅」と語り、長嶋茂雄の名セリフを引用して会場を沸かせた。

この「さよなら丸の内TOEI」プロジェクトは、ユニクロとの特別コラボレーションによって、さらに大きな広がりを見せている。2025年7月1日から、UNIQLO TOKYOとユニクロ銀座店では、東映作品と丸の内TOEIの歴史をテーマにしたUTme!コラボがスタート。誰でもオリジナルTシャツをデザインできるこの企画では、「さよなら 丸の内TOEI」キービジュアル、荒磯に波ロゴ、『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』、昭和の名作邦画などがモチーフとして登場し、Tシャツやトートバッグ、スウェットなどが制作可能となっている。販売は2026年6月30日までの期間限定。

さらに、UNIQLO COFFEEでは、大泉学園の人気洋菓子店「おだふじ」とのコラボによる「東映焼き印入り和みのマドレーヌ」（税込250円）が販売され、劇場の温もりを感じるスイーツとしてファンから人気を集めている。

東映株式会社の代表取締役社長・吉村文雄氏は、「昔は全国に直営館が多く存在し、それぞれの映画会社にカラーがあった。東映は、どこかアウトロー的で不良っぽいイメージが強かったが、それがまた魅力だった」と語り、「最後の直営館である丸の内TOEIを、記憶に残る賑やかな終幕で送り出したい」とコメントを寄せている。

映画館が一つ、銀座の街から消えるという事実。それは都市の再開発の一部であり、時代の流れとも言える。しかし、映画館という空間が刻んできた時間、交差した感情、重なった記憶は、ただ「閉じる」だけでは終わらない。クラウドファンディングのリターン商品や舞台挨拶、コラボ商品、そして観客一人ひとりの想いが、この劇場を“思い出”ではなく“新しい物語”へと変換していく。

「さよなら」は終わりではない。「またどこかで会いましょう」という、映画のような余韻が、このプロジェクト全体に込められている。スクリーンが静かに幕を下ろすその瞬間まで、丸の内TOEIはきっと、多くの観客の胸に生き続ける。

編集：柄澤南 （関連記事： 台湾・台東で幻想的な夜明け体験！熱気球と音楽が織りなす「曙光ショー」が話題に ｜ 関連記事をもっと読む ）

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