防衛省は『令和7年版(2025年版)防衛白書』を正式に公表した。白書は戦略文書ではなく、2024年度における安全保障環境の変化や、防衛省と自衛隊の取り組みを記録する年次報告書であると位置づけられている。
今回の白書では新たに「統合作戦司令部」と「人的基盤」に関する章を設けたことが大きな特徴だ。前者は3月に設立された統合作戦司令部の任務を反映し、後者では自衛官の勤務環境改善や人材確保の必要性を強調した。構成も従来の4部から5部へ拡充されている。防衛省は「国際社会は戦後最大の試練に直面し、日本周辺では中国・北朝鮮・ロシアの軍事動向が引き続き重大な懸念材料だ」と指摘し、中国を「過去最大の戦略的挑戦」と位置づけた。
白書は中国の軍事演習や領空侵犯の具体例を記録し、ロシアが昨年9月に軍用機を日本領空に派遣した事例や、極東での最新装備配備を継続している点を挙げた。日米関係では、2月の石破首相とトランプ米大統領の首脳会談、3月の中谷防衛相と米国防長官の会談を収録し、「自由で開かれたインド太平洋」戦略の下での日米協力を詳述している。
人材面では、日本社会が少子高齢化や高学歴化の影響を受け、自衛隊の募集が難しさを増している現状を率直に認めた。2025年度には約4000億円を投じ、待遇や勤務環境を改善する方針だ。人材不足への対応としては「無人化」や「精強化」を進めると説明。さらに白書には現役自衛官の実話を初めて掲載し、自衛隊の日常を伝えて国民の理解を深めたい考えだ。
また、日英共同開発の次世代戦闘機の進捗、日米防衛産業の協力状況、防衛イノベーション科学研究所の設立、宇宙・電磁波・ネットワークなど新領域への対応も盛り込まれた。防衛省はRAA(駐留軍地位協定)やACSA(物資役務相互提供協定)、防衛装備技術協力協定の拡充を進め、同盟国との連携を一層深めるとしている。若い世代への訴求を狙い、白書の表紙には人気イラストレーターのヨシフクホノカ氏を起用し、親しみやすいデザインとした。
北朝鮮がテストしたとされる二種の「極音速ミサイル」については、正式な認定には至っていないものの、技術動向を追うため両タイプを併記。装備調達数や単価は非公開だが、防衛省は「隠蔽の意図はない」として改善を検討するという。
さらに図表では「台湾問題に関する中国軍の発言や演習事例」「中露合同演習の年度変化」を初めて整理した。無人水上艇(USV)については、現時点で自爆型攻撃プラットフォームの開発には着手しておらず、偵察目的が主。将来的な導入は戦略ニーズや国際情勢を見て判断するとした。
今回の白書は、厳しさを増す安全保障環境に向けた自衛隊の方向性を、より多くの国民が理解できるよう工夫された内容となっている。
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